竹中直人 × MEGUMI、昭和の名優エピソードを語る 松田優作に言われた一言とは?

竹中直人とMEGUMIが6月25日、新宿・紀伊國屋書店で著書『なんだか今日もダメみたい』(筑摩書房)刊行記念トークショーを行った。

『なんだか今日もダメみたい』は、竹中が芸能活動40年を振り返るエッセイ集。本イベントは、竹中の監督作『零落』でプロデューサーを務め、著書『心に効く美容』(講談社)もヒットしているMEGUMIとの対話形式で展開した。アットホームな雰囲気のなか、軽妙なトークで昭和の名優たちのエピソードの数々を披露した。

■竹中直人のキュートな一面とは

竹中は個性的なプリントのロング丈のアウターに黒いクラッシュデニム、MEGUMIは赤いロングワンピースで登場。開演のブザーの音を聞いて「何にも稽古してないで、舞台に出るような恐怖心がありましたね」とMEGUMIが話すと、「セリフ覚えていないまま『出るの?』みたいな(笑)」と竹中が返すなど、俳優同士ならではの会話からトークが始まった。

エッセイ執筆のきっかけは、RCサクセションのマネージャーである片岡たまきが忌野清志郎について描いた『あの頃、忌野清志郎と』(筑摩書房)のあとがき執筆を頼まれたことだったという。竹中は、同書のあとがきについて「書き出したら止まらなくなって50ページも書いてしまった(笑)」と笑いながら話す。筆が乗りすぎたのは『なんだか今日もダメみたい』でも同様で、編集者に書きすぎを制止されたほどだという。

タイトルに関しては「竹中さんらしい」とMEGUMI。かつて『キネマ旬報』にて、演出家に従った竹中の演技に対して「自分だけ目立とうとしている」と批評されたことをきっかけに「好きだった映画雑誌を読まなくなってしまった」という繊細な一面を持つ竹中だが、逆に「これどうしよう……」と弱音を吐きながら相談してくる竹中のことを、MEGUMIはキュートだと感じているそうだ。

■MEGUMIが見た竹中直人の演出

竹中の飲み仲間には、往年の名優からヒップホップクルー・BADHOPまでいるそうで、交友の幅が広い。酒の席でも昭和の名優たちとのエピソードが披露されるそうだが、MEGUMIはそこに現在の芸能界との違いを感じるという。

竹中は「当時の方が『生』という感じだった」と言って、数々のレジェンドについて回想。最初に登場したのは忌野清志郎だ。竹中が清志郎の歌を最初に聴いたのは、ラジオで流れてきたRCサクセションの「ぼくの好きな先生の歌詞」だったが、「この声はちょっと苦手」と感じたそう。しかし、その後に鑑賞したライブで圧倒され、ファンになったのだという。2005年には、SUPER BUTTER DOG(現:ハナレグミ)の曲から着想した映画『サヨナラCOLOR』にて、同級生役で共演を果たすことになった。

竹中が、自身の映画にてミュージシャンなど、演技の素人を起用する理由については「役者じゃない人の方が新鮮だったり、面白い演技をするじゃないですか」と返答。MEGUMIによれば『零落』に出演した漫画家・しりあがり寿にも「バキバキに演出していた」とのことだ。

■松田優作との思い出

その他にも蛭子能収、緒形拳、萩原健一、原田芳雄、内田裕也、岸田今日子、丹波哲郎、坂本龍一、中島らも、横山やすしなど錚々たる人物の思い出があるという竹中。晩年の五社英雄監督の家に呼ばれたときには、監督が突然服を脱ぎだして驚いた経験もあるという。監督は「もう死ぬから見てほしかった」と、首から尻にかけての入れ墨を見せてくれたそうだ。また、脚本とは全然違うアドリブで演技する森繁久彌との緊張感あふれる現場の話も、観客たちの興味を引いていた。

松田優作についても、元夫人の松田美由紀も認めるモノマネを交えながら回想。とある打ち上げ会場、本人の前で『太陽にほえろ』の名シーンのモノマネをしたところ「なめてんのか?」と見降ろされながら凄まれてしまったという。竹中は「なめてないです……」と弱気に答えたのだが、松田はそんな竹中の手を取って一言、「ずっと見てました。愛してます」と言ってくれたそうだ。これにはMEGUMIも感嘆の声を上げる。竹中も錚々たるスターたちに対して「破天荒で生々しかった。CMだとかスポンサーのこととか、好感度を気にするような次元ではなかったね」としみじみ振り返った。

■フィルム撮影時代の現場

終盤には長めの質疑応答も。竹中の魅力について、MEGUMIが「ストレートに表現なさるのが眩しくて、若い子たちも『何か一緒にやりたい』って思える。そしてたまに見せる自信のなさもキュート。このふたつがポイント」と表現。竹中は「何かを作りたい気持ちは常にある」と自らのクリエイティビティについて話し、初めて8㎜フィルムで病弱だった母親が退院する様子を撮影した過去などを振り返った。

さらに竹中は、フィルム撮影時代に想いを馳せる。「35mmカメラの横にたくさんのスタッフが集まって、監督の『本番!』という声に続いて全員が芝居を見つめる。それがドラマティックだった」。デジタルが主流となった現代と違い、現像できるまで何が映っているかわからない、その不便さが創造や連帯に繋がっていたのかもしれない。さらに「今は今で便利ですが、変わらないものもある。テイクを重ねるより『本番!』と言われた瞬間をただ切り取ることだけは自分の心で守っていきたい」と重ねた。

これに対してMEGUMIは「フィルムで撮っていたのは本当にすごい。若い子では知らない場合も多いので、竹中さんから聞いたことを我々世代が伝えたいです。その方が、仕事の魅力をより一層深く感じるのではないかと思うので」とコメント。演技や作品に対して真摯に向き合うふたりだからこその、温かく深みのあるトークイベントとなった。

(文=小池直也)

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