心に残った鬼木監督の助言。「SBが天職」と誇らしげな川崎U-18・関德晴のポテンシャル。憧れの存在は山根視来

前半の半ばだった。15番を背負う左SBはボールを受けると、ハーフウェーラインを過ぎたあたりから前に運んでいく。敵の守備網を、うまく身体を入れながらスルスルと抜けていく。

「おー!」

観客席からも歓声が上がる。結果的に決定機には結びつかなかったが、ポテンシャルを示すには十分なプレーだった。

6月30日に行なわれたU-18高円宮杯プレミアリーグEASTの第10節・青森山田戦。川崎フロンターレU-18は序盤から自慢のパスワークで試合を優位に進め、後半に2得点。相手の反撃を最終盤の1点に留めて2-1の勝利を収めた。

この一戦でインパクトを放ったのが、左SBで先発したDF関德晴(2年)だ。183センチ・70キロ。線はまだまだ細いが、SBとしては大柄だ。その運動能力もバスケットをやっていた父親と母親から譲り受けており、身体に無理がきく点も目を見張る。

最大の魅力は、スピードと技術を活かした“運ぶ”プレーだ。特に素晴らしかったのが、冒頭で記したドリブル。「あれをきっかけに青森山田が踏み込んでこなくなった」(関)。相手の勢いを削ぎ、積極性が増した。

そこからは独壇場だ。左MF児玉昌太郎(3年)とうまく連係し、果敢に高い位置に顔を出す。ボールをさらしつつ、相手が飛び込んでくれば前に出る。大外を回るオーバーラップも効果的だ。

チームの2点目も、関の攻撃参加から生まれた。71分に児玉がペナルティエリアの左角で収めると、関が児玉の外を回って走り込む。ダイレクトで左足を振ると、ボールは逆サイドの右SB柴田翔太郎(3年)のもとへ。そこから放ったグラウンダーのシュートはGKに防がれるかと思われたが、手前でFW恩田裕太郎(2年)がヒールでコースを変えてネットを揺らした。

「サイドバックでも結果にこだわりたい。まだまだ最後のところで相手のゴールキーパーにクロスがいく課題もあったので、次節に向けて練習をしていきたいです」

謙虚な言葉で振り返ったが、ゴールに絡めるSBは貴重な人材。利き足は右足だが、左足でも難なくボールを蹴れる。「小さい頃に右足が痛い時があって、その際に左足だけで蹴っていたら上達した」と自信を持っており、左サイドだけではなく右サイドにも対応可能で、両足でクロスを入れることができる。

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小学校3年生から川崎のU-12チームに入り、技を磨いてきた関。転機になったのが、中学3年生の時だ。小学校6年生から中学2年生まではボランチでプレーしていたが、身体能力を買われてSBにコンバートされ、瞬く間に才能が花開いた。

高校1年生だった昨季は16歳以下の選手で争われる国体少年の部に東京都選抜の一員として出場。チームでは今季からレギュラーに定着し、U-18高円宮杯プレミアリーグEASTでここまでの全10試合にフルタイムでピッチに立っている。右肩上がりで評価を高めており、先日にはトップチームの練習試合を初めて経験した。

「インテンシティが高くてキツかったけど、自分のプレーができなかったわけではない。守備面では相手が速くて強いので、フィジカル面は鍛える必要性を感じた。逆に攻撃参加は通用して、回ってからのクロスで良いボールを入れられた」

プロの世界を肌で感じて刺激を受けただけではなく、鬼木達監督からの助言も心に残ったという。

「上手い選手は狭い状況でルックアップしてくる。守備の距離をこだわろう」

対人プレーの方法論は学びになり、今後の成長スピードを加速させるうえでプラスになった。

「サイドバックが天職。足は速い方で、クロスは右も左もあげられる。守備でも後から行っても間に合うので、自分にサイドバックが合っている」とは関の言葉。

自分が生きる場所を見つけた男はさらなる高みを目ざし、U-18チームで研鑽を積む。そして、近い将来、クラブOBで憧れの存在でもあるDF山根視来(現ロサンゼルス・ギャラクシー)のように、日の丸を背負いたいという想いも持つ。

「“せき”と書いて、“かん”と呼ぶ。なので、覚えてもらいやすい」。自身の苗字について苦笑いを浮かべたが、“かん・のりはる”の名が等々力のピッチに響き渡る日もそう遠くない。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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