金融ビジネスは女子で持つ!利用者の違和感、金融で働く女性の想いを発信   「きんゆう女子。」3300人のコミュニティー

「きんゆう女子。」と名乗るコミュニティーがある。参加するのは金融が難しいと感じつつも、金融に興味がある20代、30代を中心とした女性。あるいは、この世代の顧客と感性を共にする金融業界で働く女性たちだ。コミュニティーに集うメンバーは3300人に及ぶ。

資産運用業には多くの女性が携わっている。顧客の側も多くの場合、女性が家計に発言権を持っている。それにも関わらず、NISAなどの制度を設計する当局もビジネスを推進する金融業界もトップは概ね男性、それもシニアの人たちだ。

そんな業界に一石を投じているのが「きんゆう女子。」だ。金融業界の独特の用語や言い回しに不慣れな女性顧客や、銀行などの組織の中で意欲やアイデアを発揮する機会を求めている女性行員らに交流の場を提供することで、金融サービスの提供者と利用者の双方の視点から女性が持つ違和感の解消を目指している。

彼女たちの活躍で「難しい金融業界から、愛される金融業界」に変貌する日が来るかもしれない。

首相官邸が座談会に招待、「あさみ」「きさ」が出席

岸田文雄首相は4月16日、首相官邸で「NISA・金融経済教育に関する車座対話」を開いた。資産運用に興味を持つ学生や若い女性を集めて国や金融業界への要望、金融教育のあり方などについて意見を聞いた。

この会合に「きんゆう女子。」からあさみさん(ニックネーム)ときささん(同)の2人が参加した。これまでの活動で「きんゆう女子。」は金融庁とNISAの普及に向けて意見交換をしたり、同庁の資料やホームページを分かりやすくするためにアドバイスしたりしていた。そうした交流からNISAを所管する同庁の総合政策課から「実際に投資を始めた人の声が聞きたい」と官邸の座談会への参加を呼び掛けられた。

きんゆう女子。のホームページより転載、中央の女性があさみさん、その左がきささん

コミュニティーの代表を務める鈴木万梨子氏は「きんゆう女子。」が官邸に呼ばれたことに対し「遂にここまで来たか」と感慨深く話す。これまでは国の政策や企業の方針は自分たちと別の世界で決まっていると思っていた。ところが、首相や金融庁が自分たちの声を聞く。例えそれが「振り」だけであっとしても「聞く姿勢を見せてくれたことが大きい」という。

特に新しく立ち上げられた金融経済教育推進機構に関する説明では「金融が苦手な人たちと共に学んでいこうという政策の意図が感じられた」と手応えを語る。

組織より自主性、イベントごとに参加者を募集 「分かりたい」気持ちを大事に

「きんゆう女子。」はコミュニティーを運営する少人数のスタッフを除き、他に本業を持つ人や学生など多様なメンバーの集まりだ。コミュニティー内で金融商品の勉強会や企業見学会、企業からのアンケート調査の依頼といったイベントの告知があり、メンバーは自分の興味や都合の合うものを選んで自由に参加する。

例えば、名古屋証券取引所が主催する「名証IR EXPO」は定期的に参加する恒例のイベントだ。これもメンバーの中から参加者を募って名古屋を訪問、同イベント参加企業からの自社やその製品に対するイメージや使いやすさなどの質問に答えたりしている。この名物イベントへの参加もメンバーの自主性に任されている。目標があり指示があり実働部隊がそれに従うスタイルの霞が関や金融機関とは正反対の性質だ。

コミュニティーの運営拠点は東京都中央区茅場町の東京証券会館にある。メンバーへの情報提供はオンラインが中心だが、大阪と広島には支部がある。両支部も本部からの指示ではなく、現地のメンバーが自主的に立ち上げたものだ。名古屋でもメンバーが手を挙げ、支部を作る動きがある。

ただし、金融のことを「分からないけど分かりたい」という気持ちは大事にしている。こうした向上心が活動の原動力になっているからだ。

16年3月に発足、「分かりたい女子」から「頑張りたい女子」まで

「きんゆう女子。」は2016年3月3日に発足した。旅行会社に勤めていた鈴木代表が自分で事業を始めたいと思い退社した際、金融の知識がまるでないと改めて感じたのが発端だ。「給与明細の見方も分からなければ保険にも入っていなかった。これはまずいなと思った」と当時を振り返る。

一念発起して金融の勉強を始めたところ、周囲にも金融のことを分かりたいと思っている女性が多いことに気付いた。同時に、金融機関の上層部は圧倒的に男性が多い点も気になった。

金融業界にはもっと女性の視点が必要だと確信し、「その時にきんゆう女子という言葉がひらめいた」と語る。その後の活動を通じて平和不動産とのパイプが生まれ、東京証券会館に事務所を構えることになった。

当初は「分かりたい女子」のための活動がメインだったが、最近は金融機関に勤める女性がメンバーになるケースが増えてきた。彼女たちと交流を重ねるうちに「金融機関で働く女性の能力の高さ、感性の鋭さに気付かされた」という。

金融や投資の教育に国が本腰を入れるなか、金融機関の女性が活躍する機会はもっと増えると鈴木代表はみており、今後は「きんゆう女子。」のコミュニティーを生かし「金融サービスのユーザーと業界の橋渡しをしたい」と展望を語る。

若者に家計簿を付ける習慣を、金融教育の基礎の基礎

いま温めているアイデアは「家計の見える化」だ。投資をするにはまず収入と支出を管理し、余剰を生み出す必要がある。次に余剰のうちいくらを投資に回すかを決める。支出を管理するには家計簿を付けるのが王道だ。

鈴木代表は将来を大切にするために若い人にこそ家計簿を付ける習慣を身に着けてほしいと考えている。彼らが興味を持つようにデザインや内容を凝ったものにしたいと案を練っているが、名前だけはもう決めている。若者のための「青の家計簿」だ。理念を共有できる金融機関と協力し「未来の投資家」に渡せればと願っている。

みさき透

新聞や雑誌などで株式相場や金融機関、金融庁や財務省などの霞が関の官庁を取材。現在は資産運用ビジネスの調査・取材などを中心に活動。官と民との意思疎通、情報交換を促進する取り組みにも携わる。

finasee Pro 編集部

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