喉元過ぎれば…大災害のたびに注目集める「地域の力」だが、自治会加入率は下がり続ける ごみ捨て放題、協力金も払わず…行政担当者の悩みは深く

プラスチックなどを仕分ける当番の住民ら=出水市昭和町の春日町自治公民館

 出水市に251ある自治会の全体の加入率が今年、7割を切り、2006年に1市2町が合併し新市が誕生して以降、最低の数字となった。市は転入時に加入を案内するなど呼びかけているが、減少は止まらない。関係者は役割や意義を強調し、加入を期待している。

 6月上旬のごみ収集日の朝、出水駅西口に近い昭和町の春日町自治公民館では、リサイクル品や燃やせないごみが次々と持ち込まれ、当番の住民らが手際よく分けていた。一方、収集場所ではない市役所近くの公園には空き缶などが置かれ、平井勝也自治会長(78)が自家用車に積み込み、公民館に運んだ。「自治会に入っていない人が捨てている」

 燃やせるごみも、曜日を守らず持ち込むケースが目立つ。同自治会の加入率は約4割。未加入者でも月500円の協力金を払えばごみを回収してもらえるが、ルールを守らないのは協力金を払っていない未加入者がほとんどだという。「監視をしているが、夜中に持ってくるとどうしようもない」とため息を漏らす。

 その影響でごみ袋にかぶせるネットをカラスが破り、ごみが散乱。公民館には最近、ステンレス製の高価なボックスを設置した。「未加入者が増えて、ごみ問題は頭が痛い。市でなんとかしてもらいたい」と悩ましげだ。

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 新出水市は06年3月、出水、高尾野、野田の1市2町が合併して誕生した。同年9月1日現在、84.16%だった市全体の自治会加入率は、毎年のように減少。24年6月1日現在では69.24%と、18年前から15ポイント近く下がっている。

 市が18年に未加入者へ実施した市民アンケートでは、自治会に加入していない理由として、「加入していなくても日常生活に困らない」「アパート等借家住まいのため」「単身世帯のため」などの意見が多かった。「会費の負担が大きい」「役員等の役目を負わされるのが重荷に感じる」という声もあった。

 市によると、最近は個人情報保護への住民の意識が高まり、表札を出さないなど自治会側が未加入者に声かけしづらい現状もある。

 自治会活動は行事、住民の交流、防災、美化作業など多岐にわたる。市は広報紙や転入時の案内で加入を促し、未加入世帯に年1回、加入促進チラシを送る。未加入者へのアンケートは今年8月にも計画する。

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 6月8日に九州南部梅雨入りが発表され、翌9日、西出水町の花立西自治公民館で防災講座があった。参加した住民31人は、市くらし安心課防災対策監の益山剛さんから、自主防災組織の重要性や気象情報の取得方法、非常時の持ち出し品、ハザードマップの活用などを学んだ。

 宮崎龍美自治会長(65)は近年、国内外で地震や風水害が多いことから、「住民の防災意識を高めたい」と市に講座を依頼した。「日頃からコミュニケーションを取り、みんなで協力して助け合える自治会にしていきたい」

 一方で、33自治会あり、加入率が85%近くもある旧野田町のような地域もある。肥薩おれんじ鉄道・野田郷駅前交差点一帯の加治屋町自治会もその一つだ。

 「野田は穏やかでゆったりとした風土がある」と語る中野早裕自治会長(71)は、「地域で楽しく過ごせる雰囲気をつくるのも自治会の役割の一つ。地域づくり、人づくり、住民の見守りなど自治会の役割は大きい」と強調する。

 くらし安心課課長補佐兼コミュニティ推進係長の森山佐知さんは「身近な地域の安全・安心を守っている自治会は、いざという時に助け合える心強い味方になると思う。まずは関心を持ってほしい」と話している。

◇運営に苦慮、会費値上げ 高齢者の割合増え

 加入年代の層の変化で収入が減り、運営に苦慮する自治会もある。

 出水市役所付近の緑町や黄金町の沖田自治会。会費は一般世帯が月1200円、80歳以上世帯は年間1500円だったが、4月から80歳以上世帯は倍の3000円にした。自治会未加入者で、ごみステーションを利用する住民も年間3000円から4000円に引き上げた。

 近年、高齢者の割合が増えて、若い人が減っている。公民館の保険を火災のほか、昨年から地震や台風などによる損害保障を加えたため、保険料が4.5倍近く増えた。吉田大作自治会長(69)は「節約をしているが、活動や行事に費用がかかる。住民には申し訳ないが、今後の運営を見据えて値上げに踏み切った」と話した。

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