大石知事の政治資金報告書問題 「承認なく多額出金」で訂正保留…当事者が対立 長崎

2022年知事選を巡る資金の流れ

 長崎県の大石賢吾知事の後援会の2022年政治資金収支報告書を巡り、大石氏は先月24日、自主的な外部監査で「誤解を与えかねない記載があった」として訂正する方針を示した。ところが4日後の同28日には訂正を保留すると一転。理由として、後援会の会計で不審な「多額の出金」が発覚し、監査業務を行った者に渡った可能性が出てきたとした。刑事告訴も視野に精査する必要があるとしたが、具体的な説明は避けている。不明な点が多い問題の経緯と今後の焦点をまとめた。

 発端は、同24日の県議会一般質問で田中愛国議員(自民)が収支報告書に向けた疑念だった。22年2月18日に大石氏の後援会が自民県議X(仮名)の後援会から286万円を借り受け、同12月26日に約7万円の利息を加えた293万円余りを返済した記載があると指摘。緊張関係が求められる首長と議員の間の貸借は「政治倫理上問題がある」とただした。
 大石氏が初当選した知事選(22年2月20日投開票)で、この自民県議Xは選対本部長を務めた。収支報告書によると、Xが代表を務める政党支部は知事選前の1月27日~2月15日に医療法人など9団体から計286万円の寄付を受けた。同18日には同支部からXの後援会へ同額を寄付し、同日中に大石氏の後援会へ送金した。一連の流れは「知事選の資金集めだった」(選対関係者)。
 大石氏は答弁などで「貸借に違法性はないが、誤解を与えかねない」とし、先月内に「寄付」の形に訂正すると表明。貸借は「(大石陣営の)選挙コンサルタントの提案」とも言及した。
 一方、県議らの間には、貸借とした背景に「別の狙いがある」との見方も。政治資金規正法は候補者の後援会などに対する直接の企業・団体献金を禁じている。大石氏側が貸借の形をとったのは「迂回(うかい)献金とみなされたくなかったのでは」との見立てだ。
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 こうした中で、新たに「多額の出金」の問題が浮上した。大石氏は先月28日に収支報告書の訂正を見送ると突如発表。記者団の取材に応じ「私の承認なく、(後援会から)多額の出金がなされており、監査業務を行った者に渡った可能性がある」と説明した。詐欺容疑を含め、被害届の提出や刑事告訴も視野に入れているとしたが、具体的な内容は「確認を進めている」と繰り返した。
 関係者によると、この出金は自民県議との貸借に直接関係なく、後援会の会計で浮上した「最近のトラブル」という。監査業務を行った男性は取材に「知事の了承や指示の下で手続きをした」と証言。知事側の主張を確認した上で、対抗の告訴も検討するとしている。
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 仮に収支報告書を訂正しない場合は、一般質問との整合がとれなくなる恐れがあり、知事答弁の修正や撤回も想定される。県議会事務局によると、知事答弁の趣旨を変更する場合は議案として採決する必要があり、「県政で過去に例がない」という。
 今後は▽収支報告書訂正の要否の結論▽「多額の出金」の実態-が焦点となる。現時点では事実関係の詳細が語られないまま、当事者同士が対立する構図となっている。
 大石氏はこの問題とは別に、知事選での公職選挙法違反(事後買収など)の疑いで、陣営関係者と共に告発されている。複数の県議は「知事周辺で『政治とカネ』の疑問が重なっている。長崎県の印象が損なわれないよう、知事は丁寧に説明するべきだ」と求めている。

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