能登に響け、励ましの歌 「阪神・淡路」経験の音楽ユニット 「歌で人をつなげたい」

防災への思いを込め、豊かな歌声を響かせるKAZZさん(左)と石田裕之さん=神戸市中央区

 神戸を拠点に歌で防災の大切さを伝える音楽ユニットが、能登半島地震の復興支援に乗り出した。阪神・淡路大震災を経験し、東日本大震災や熊本地震の被災地でも歌ってきたメンバーの2人。4月末には金沢市でチャリティーライブを成功させ、「歌は人をつなぐことができる。息長く通い続けたい」と声をそろえる。(上田勇紀)

東日本、熊本でもチャリティーライブ

 音楽ユニットは、2017年に発足した「ブルームワークス」。ボーカル・ギターの石田裕之さん(43)と、ボイスパーカッションの「KAZZ(カズ)」こと桝田和宏さん(51)=いずれも神戸市在住=の2人組だ。石田さんの優しい歌声を、打楽器のように声でビートを刻むKAZZさんが支える。

 元日の能登半島地震では、当初の石川県の呼びかけもあり、災害ボランティアの自粛ムードが広がった。2人は支援団体と連携して1~2月、石川県輪島市や七尾市などをそれぞれ訪問。過去の被災地と比べて、圧倒的にボランティアの姿を見かけない状況に衝撃を受けた。

 倒壊家屋が手つかずで残り、断水が続く避難所に人々が身を寄せていた。「私たちのことは、みんな忘れてしまったんやろね」。KAZZさんは七尾市で聞いた被災者の言葉が忘れられない。「能登のことを伝えなければ」と強く思った。

     ◇

 4月末に金沢市で開いたライブは、同市で活動する音楽仲間らと準備を進めた。

 能登半島の被災地や東京、熊本、神戸…。全国から集まった100人を前に、災害を生き抜く強い気持ちを込めた「プロムナード」を歌った。

 僕らはずっと生きていくんだ なにがあっても生きていくんだ 悲しいときは泣いていいんだ 笑いたいときを待っていいんだ 君の笑顔が見ていたいんだ 君の未来が見ていたいんだ 失う痛みはもうたくさんだ 守りたいものが待っているんだ

 歌いながら、聴衆との一体感が生まれた。「音楽じゃないとつながれなかった」とKAZZさんは振り返る。ライブで集まった「投げ銭」は、支援金として被災した七尾市のゲストハウスに届けた。

 「阪神・淡路大震災を経験した神戸から続ける支援は、1回きりじゃだめ」と石田さんは言う。個人としても東日本大震災があった宮城県石巻市などに通い、歌を通じた交流を続ける石田さん。「能登も10年単位でつながりたい」と決意を込める。

     ◇

 2人の活動の原点には、29年前の阪神・淡路大震災がある。大学生だったKAZZさんは神戸市長田区の自宅が全壊。中学生だった石田さんも同市北区で激しい揺れに襲われた。

 「防災を突き詰めたい」。アカペラグループのリーダーを務める一方、震災の語り部活動を続けていたKAZZさんは17年、兵庫県立大大学院減災復興政策研究科(神戸市中央区)に第1期生として入学し、「減災と音楽」の研究テーマを掘り下げた。今年4月には石田さんが同研究科の門をたたき、HAT神戸(同)の災害復興住宅をテーマに学びを深めている。

 「みんな、絶対に笑顔で会いましょう」

 ライブの最後に2人がいつも呼びかける言葉だ。災害はなくせなくても、備えを進めて生き抜こう-。そんな願いを歌に込め、防災の種をまき続ける。

© 株式会社神戸新聞社