奥能登からみなし仮設住宅に移った男性「一人は寂しいね」行政による見回りにも限界…みなし仮設の孤立をどう防ぐか

行政が民間の賃貸住宅を借り上げ、仮設住宅として被災者が暮らす「みなし仮設住宅」。広い範囲に散らばって暮らしているため光が当たりにくい面があり、孤立させないための支援が求められている。

みなし仮設暮らしの孤独

「寂しいね。テレビ見とってもなんか変なのよ。だめやね一人は」。こう話すのは地震の後、珠洲市大谷町から避難し、小松市内のみなし仮設住宅へ入居した地名坊行雄さんだ。勤めていた福祉施設は休業。5カ月にわたって見知らぬ土地で暮らしてきた。「こんな人間に相談に乗ってくれる人もいないだろうけど、お茶飲みながら話してくれる人でもおらんのかなって」。

みなし仮設住宅は民間の賃貸住宅を行政が借り上げ、家賃や礼金などの負担なしで原則2年間入居できるものだ。入居まで時間のかかる建設型応急仮設住宅とは違って、安全な環境ですぐに生活を始められるメリットがある。6月24日時点でのみなし仮設住宅の入居者は3765世帯8841人で、建設型仮設住宅の入居者とほぼ同数となっている。

みなし仮設特有の見えにくさ

2016年の熊本地震でみなし仮設住宅に入居する人の支援活動などを行っていた熊本学園大学の高林秀明教授。みなし仮設特有の「見えにくさ」があると話す。「表札にみなし仮設と書いてあるわけでもない。誰がそこに入居されたのか被災者なのかどうかもわからない。見捨てられているんじゃないかっていう孤独感、孤立感を持っていらっしゃると感じた」。

熊本地震では仮設住宅のうち約7割がみなし仮設住宅だったが、それでも光があたりにくい現実があったのだ。「元いた町からの情報も仕入れにくく、似た状況の人と話したり近所の人と話す機会もない」「みなし仮設に入ったら、見放されたようで不安だった」。これは熊本地震発生から半年後にみなし仮設住宅で暮らす353人を対象に行われた調査で聞かれた声だ。「相談したいことがある」と答えた人は131人、しかしこのうち6割強にあたる86人は「実際には相談していない」と回答。また「頼れる人がいない」と答えた人も約3割いた。

背景には、入居者が点在していることや、個人情報保護の観点から支援者がみなし仮設住宅にいる被災者を把握しにくいことなどがある。また建設型仮設住宅には集会所が整備されたが、みなし仮設住宅には集会所もなければ自治会もない。このため、コミュニティから分断されて孤立感や孤独感を抱える人が多くいたのだ。熊本県はみなし仮設住宅の入居者が10世帯以上集まってグループを作れば交流のための補助金を交付するという取り組みも行ったが、制度が十分に周知されず1件も実現しなかった。

みなし仮設の孤立を防ぐ

みなし仮設での孤立を防ぐため県は各地域の社会福祉協議会に委託し、3月ごろから訪問活動を始めた。この日訪れたのは、夫とともに白山市に身を寄せている珠洲市の70代女性だ。「体調奥さん悪いって仰ってたけど、その後どうですか」と職員が声をかけると、「だいぶよくなりました」と女性は答えた。職員は困りごとなどを聞き取って、必要な場合は福祉の専門機関などにつなぐほか、体操教室を紹介するなど地域につなぐ取り組みも行っている。「健康面に問題がないか、これから暑くなるので熱中症とかも心配だなということで声掛けはしていこうと思ってます」。

白山市社会福祉協議会では現在2人1組で週に4回訪問活動を行っている。しかし職員がインターホンを鳴らしても…「静かですね」。広い地域に点在しているみなし仮設住宅。移動に時間がかかる一方、留守のことも多いそう。石川県によると、5月末までにみなし仮設住宅に入居する約3700世帯を回ったものの、会ったり電話で話したりできたのは約半数の1800世帯ほどに留まる。

熊本地震での経験も踏まえて、高林教授は「不定期に訪問するだけではどうしても日常的に支援の必要な方に支援が届きにくいということはある。みなし仮設の周辺に住んでいる地域の民生委員やボランティアにつないでいく。一歩踏み込んだつなぎを、能登半島地震でも意識的にやっていただきたい」と話した。

(石川テレビ)

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