上白石萌歌、“変革期”だからこそ大事にしたい俳優としての矜持 溢れる映画への思いも

東宝の若手社員が立ち上げた才能支援プロジェクト「GEMSTONE Creative Label」。同レーベル初の劇場公開作品として、4人の新進気鋭な監督たちが創り上げた4つの映画からなる、短編オムニバス映画、『GEMNIBUS vol.1』が6月28日より2週間限定公開されている。そんな本作の公式アンバサダーを務めているのが、俳優としてはもちろん、adieu名義で歌手としても活躍する上白石萌歌だ。自身も大学時代に芸術理論や美術史、映像学などを学び、芸術や創作への深い理解を持つ上白石に、創作への思いや今後の展望について聞いた。

ーー『GEMNIBUS vol.1』は、上西琢也監督による特撮映画『ゴジラVSメガロ』、平瀬遼太郎監督によるサイコスリラー『knot』、ちな監督のアニメーション映画『ファーストライン』、本木真武太監督のSF学園ゾンビ映画『フレイル』の4作品からなるオムニバス映画です。公式アンバサダーに就任しての率直な感想を教えてください。

上白石萌歌(以下、上白石):『GEMNIBUS vol.1』は東宝のプロジェクトで、私も東宝(芸能)に所属する俳優として今回関わらせていただきました。新たなクリエイターの方の発掘はものすごく素敵な試みだなと思いましたし、まず私がこの4作品を一番最初に観られるということが嬉しくて。いつか私もこの新進気鋭の監督たちと一緒に作品を作る日が来るといいなと思いました。

ーー実際に4作品をご覧になっていかがでしたか?

上白石:同じ映像でも「4人の個性がこんなに出るんだ」というぐらい、それぞれの作品にその監督の個性が出ていました。特撮からスリラー、アニメーション、ゾンビ映画まで、見事にジャンルが違っていて、すごくワクワクしました。皆さんの持っているものはすごく自由で、限りがない。すごくワクワクものを作っていらっしゃる温度感が伝わってきたので、新たな才能が芽吹いている瞬間を目撃しているようでした。

ーー上白石さんは大学時代に文学部の芸術学科に通っていたんですよね。芸術理論や美術史、映像学などを学ばれていたとか。

上白石:映画の誕生や映画にまだ音がなかった時代など、映画や写真の原点から勉強していました。京橋にある国立映画アーカイブに行って、深作欣二監督の作品や小津安二郎監督の作品を何本も観てレポートを書いたりするなど、日本の映画についてたくさん勉強しました。大学の学びはすごく有意義でした。私が大学でそうやって学んだように、いつか学生が今回の4人の監督たちのことを勉強する日が来るかもしれないと思うと、ものすごい瞬間に立ち会っているなと実感します。

ーー普段、映画やドラマはどういうところに注目して観ていますか?

上白石:最近、私ってエンタメオタクだなとつくづく思うんですけど、お芝居の現場で凹むことがあっても、映画館に行って映画を観たら復活するんですよね。そうやってエンタメに凹み、エンタメにまた空気を入れてもらっている感じなので、何かに注目して観るというよりも、“救われに行ってる”というか。新しい体験をしに劇場に行っている感じなんですよね。邦画だとどうしても余計な主観が入ってしまって「いい現場だったんだろうな」とか思うことはあるんですけど(笑)。基本的にその映画の世界に没入して観てしまうことが多いですね。

ーー最近印象的だった映画体験を教えてください。

上白石:いっぱいあるんですけど、この前『海がきこえる』が渋谷のル・シネマでリバイバル上映されていて、観に行きました。昔、DVDで観ていたんですけど、映画館で観るとめちゃくちゃ印象が違って、ものすごくときめいてしまいました。あと、『DUNE 砂の惑星PART2』をこの前IMAXで観て、「ああ、もうこれは体験だな」と感動しました。結構映像好きな友達も多いので、なるべく最旬のものに足を運ぶことを日常的にやっています。

ーー今後監督をやってみたり脚本を書いてみたりする可能性は?

上白石:監督や脚本家の方にはリスペクトがものすごくありますし、自分にできるはずがないと思っているので、まずは監督や脚本家の方が渡してくださったものにちゃんと応えられるような俳優になりたいなというのが一番にあります。

ーー俳優の方が監督に挑戦される機会も多くなってきている印象です。

上白石:そうですね。いろんなお仕事の境界線がなくなってきていて、歌を歌う方がお芝居されたり、逆にお芝居する方が歌ったり、監督とか俳優とか、そういうボーダーがどんどんなくなってきている気はします。だから俳優というものだけに固執しなくてもいい時代というか、どんどん可能性が広がってきている時代だなと実感しています。

ーー撮影現場においても日々いろんな変化がありそうですね。

上白石:ものづくりをするのは本当に極限の肉体労働だと思っていて。それは部署関係なく、俳優部もそうだし、映像のチームもみんなそうなんですけど、まだまだ課題はたくさんあるけれど、どんどん人が人としての生活をちゃんと送れるようにはなってきているかなと。撮影後から撮影開始まで8時間は空けるとか、そういう取り組みが広がってきているとは言いつつ、お子さんがいらっしゃる方が悩みながらやっていらっしゃったりもするので、まだまだこれから変えていかなければいけないところもありますよね。それに、今はドラマや映画もどんどん増えてきているじゃないですか。

ーー本当に数が多いですよね。

上白石:ワンクール何本あるんだろうっていうぐらい、ものすごい数が増えてきている今だからこそ、ひとつひとつの作品の質が問われている気がします。その中で自分は与えられた役割をしっかり果たすことを意識していて。とにかく“変革期”だなとものすごく感じています。

ーー舞台、映画、ドラマも含めて、上白石さんは幅広い作品にご出演されていますが、出演する作品を選ぶ際の基準みたいなものはあるのでしょうか?

上白石:いや、まだまだ選ぶような立場ではないんですけど……。でも、やっぱりどういう人とご一緒したいかとか、どういう人たちとものを作っていきたいかというのは、一番大事にしていて。今までの自分の出会いを振り返ったときに、全部に意味があるし、全部のご縁を大事にしたいと思えることだらけなので、どんな人と一緒にやりたいか、そしてその人と関わる中で、自分もちゃんとその役目を果たせるのかということを一番に考えています。

ーーデビューから12年になりますが、なにか自身の中で変化を感じることはありますか?

上白石:年齢的にもまだまだ10代だと思っていたらもう24歳ですし、社会人で言うと2年目の年で。やっぱり10代のときは、責任は感じながらも、「まだ学生だから」という気持ちが少しあったのかもしれないんですけど、いよいよ大学を卒業する年になったときに、自分は本当にこの道を全うしたいんだという気持ちが芽生えてきたんです。より、お仕事をする相手にとって心地良い自分でいたいなと思うようになりましたし、なるべくいろんな人と対等に話してものを作っていきたいなという気持ちが、どんどん芽生えてきているところです。

ーー最後に、今後なにか挑戦してみたいことがあれば教えてください。

上白石:えー、なんだろう……。でも、面白いなと思ったことはどんどんやっていきたいです。あと、この前写真の展示を初めてやったんです。自分で撮った写真や撮られた写真の展示をやったんですけど、そういう新しいことがものすごく刺激になったりしたので、なるべくアンテナを日頃からいっぱい立てて、「この監督のこの作品が面白い」とか「こんな人がいるんだ」っていうのをもっともっと知っていって、その面白いことに自分も参加できるようになっていけたらいいなと思っています。

(取材・文=宮川翔)

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