フランス対ベルギー“連れ去り事件”はどうして起こったのか?【ユーロ2024】

ティモシー・カスターニュ(左)テオ・エルナンデス(右)写真:Getty Images

日本時間7月2日、UEFA欧州選手権(ユーロ2024)のラウンド16で、フランス代表とベルギー代表が対戦した。FIFAランキング2位と3位の共通点が多い隣国強豪同士の激突の結果は、1-0でフランスが勝利し8強に進出している。

その試合中、前代未聞の奇怪な「連れ去り」プレーが頻発した。全貌を丸裸にする。

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ドメニコ・テデスコ監督 写真:Getty Images

前代未聞!プレーそっちのけで腕組デート?

疑惑の「連れ去り」プレーは、試合76分にベルギーのドメニコ・テデスコ監督が抗議で警告を受けたシーンで起こっている。

ベルギーのDFティモシー・カスターニュ(フラム)が、右サイドで前にボールを出すと少し中央の方に転がっていく。しかし対応したフランスのDFテオ・エルナンデス(ミラン)と隣合わせで、どんどんタッチラインの方に逃げるように走っていくのだ。

球をそっちのけで二人で腕を組んでデートをしているかのようだった。背後から観ていたテデスコ監督は大声を上げたが、ヤキモチを焼いたわけではない。オブストラクション(相手のプレーを妨害する反則)だと思ったのだろう。

反対から見るとこの珍事件のからくりが分かる。ボールとの間に身体を入れて阻止しようとエルナンデスが肩を傾けて腕を伸ばすと、それに応じてカスターニュが脇を締めて腕で挟んだ。エルナンデスが押してカスターニュが引いたため、ボールと違うあさっての方向にそのまま並走するに至ったのである。

エルナンデスの言い分としては、肩を入れた瞬間は正当なチャージ(体当たり)であり、その後は腕を掴まれたのでやむなく引っ張られてそちらについて行った、といったところだろう。腕で挟まれているだけなので、その気になれば外してボールに向かうことは可能だろうが、勢いと誘われたのとを理由にして、そのまま相手を連れ去ってしまった。

傍から見ていると確かにおかしなプレーなのだが、審判としてはどちらのファウルだか判然とせずに、笛を吹くにも吹けない状況だったのかもしれない。一瞬の出来事だったが、両者の思惑が絡み合った実に奥深いプレーだった。

そして、この駆け引きに勝ったのはフランスのエルナンデスだった。

オーレリアン・チュアメニ 写真:Getty Images

チュアメニも“連れ去り”の恩恵を受けていた

また、この試合で重要な役割を果たしたのが、フランスの中盤の底を務めたMFオーレリアン・チュアメニ(レアル・マドリード)だ。

まず14分、左サイドからペナルティエリア内に侵入したフランスのFWキリアン・ムバッペ(レアル・マドリード)のシュートがベルギー選手の頭に当たるもゴールキックの判定。慌てたムバッペはコーナーキック(CK)を主張し、そこに加勢したチュアメニは抗議によりこの試合1枚目のイエローカードを受けた。

それでチュアメニにスイッチが入ったのだろうか。39分に右足ロングシュート(わずかにゴール右に外れる)。45+1分に左サイドでムバッペが左右に強引にドリブルで翻弄して、縦に抜けると左足でクロスし、中央でチュアメニが右足シュート(クロスバーの上に外れる)。59分にも、ムバッペ、MFエンゴロ・カンテ(アル・イテハド)とわたったボールを受け右足でボールを打つ(ベルギーGKがセーブ)。69分には右足でロングシュート。

71分には、左サイド攻撃からクロスにベルギーのFWロメル・ルカク(ローマ)が左足シュートもGKがセーブ。ベルギーのビッグチャンスだったが、実はチュアメニがルカクをマークしており、足を伸ばしてボールに当てて勢いを半減させていたのだ。

守備的MFなので守りの重要な場面にいるのは「さすが」とは思えど、さほど不思議なことではない。しかし、なぜこれだけ多くのシュートを放つことができたのだろうか。

実は、ここで「集団の連れ去り現象」が起こっていた。ベルギーが自陣に押し込まれる場面が多く、結果として中盤の後方に位置するチュアメニがフリーになるシーンが多かったのである。フランスの攻撃陣の迫力が物凄いので、ベルギーの選手たちはそれに引きつけられて、後方に後ずさりするしかなかったのだ。

つまり、この試合で「連れ去り」は、頻発していたということになる。


キリアン・ムバッペ 写真:Getty Images

黒いマスクの怪人ムバッペは、キレキレで迫力満点

さらに、迫力が物凄いプレーヤーの筆頭は、この男をおいて他にはいないだろう。フランスのキャプテンである黒いマスクをまとった怪人ムバッペだ。

6月18日に行われたグループリーグ第1戦のオーストリア戦(0-1)で鼻を骨折したムバッペは、前試合26日グループリーグ第3戦のポーランド戦(1-1)ではキックオフ直前にバンドが外れるアクシデントがあったりしたが、マスクに改良を加えた模様だ。

ベルギー戦では54分に左サイドからシザース(ドリブルのフェイント)で一人かわすと、スイスイと突破し右足シュート。惜しくも枠の上に外れた。

静止した状態から1対1の局面を突破して相手守備陣を打ち破ることができるムバッペ。守備を固められて打開が難しいような場面でも大きな仕事をする能力を持っており、今後も強豪を相手に活躍が期待できるだろう。

ムバッペとともに先発したFWマルクス・テュラム(インテル)とFWアントワーヌ・グリーズマン(アトレティコ・マドリード)からなる攻撃陣が並んだフランスの威圧感は、並大抵ではなかった。

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