迫る「最終決戦」を前に…アニメ『鬼滅の刃』物語に深みを生んだ「印象的モブキャラ」を振り返る

(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

吾峠呼世晴氏の同名漫画を原作としたアニメ『鬼滅の刃 柱稽古編』の最終話が、6月30日に放送。最終章となる鬼舞辻無惨らとの無限城での戦いを、劇場版三部作として制作されることが発表された。

『鬼滅の刃』のアニメは2019年の『竈門炭治郎 立志編』から始まり、今回の『柱稽古編』で5シリーズ目となる。しかし、ここまで全ての作品に登場してきたレギュラーキャラは、主人公の竈門炭治郎と妹の禰󠄀豆子をのぞけば、意外と少ない。

それもそのはず、炭治郎は常に戦いの場を変え、モブキャラには鬼に殺され亡くなっていく人も多い。しかし『鬼滅』には、初登場シーン以降出番はないが、いつまでも印象に残り続けるキャラクターも少なくない。

そこで今回は、多くの『鬼滅の刃』ファンが覚えているであろう、印象的なモブキャラクターを振り返りたい。

■第一話で登場した、鬼の襲来を予想していた三郎じいさん

まずは『竈門炭治郎 立志編』第一話「残酷」に登場した、炭治郎が炭を売りに山を下りたときに声をかけてきた三郎じいさんだ。

彼は家に帰ろうとする炭治郎に、夜は鬼が出るから山に帰るなと忠告してきた人物。厳しい顔で「うちに泊めてやる、来い、戻れ」という有無を言わせない言葉に対して、家族を亡くしたから寂しいのだろうと感じた炭治郎がその家に一泊して翌朝自宅に帰ると、母親や弟妹が本当に惨殺されていた。唯一生き残ったのは鬼になった禰󠄀豆子だけだった。

そしてこれが、壮絶な『鬼滅の刃』の世界の幕開けとなる。

なぜ三郎じいさんは鬼の襲来を予測できていたのか、それとも炭治郎を泊めたのは単に偶然のタイミングだろうか。また、三郎じいさんは「鬼狩り様が鬼を斬ってくれるんだ、昔から」と鬼殺隊の存在まで示唆している。もしかしたら三郎じいさん自身や周囲の人もこれまで鬼殺隊に助けられたことがあるのかもしれない。

ともかく、彼がいなければ、まだ力のなかった炭治郎は鬼に襲撃され死んでいただろう。鬼の血に対応できた禰󠄀豆子も、駆けつけた冨岡義勇に首を切られていたに違いない。どちらにしても、三郎じいさんがいたことで『鬼滅の刃』は壮絶なインパクトのある作品となった。

■戦いの間に、癒しを与えてくれたおばあさん

『竈門炭治郎 立志編』では、第十四話「藤の花の家紋の家」、第十五話「那田蜘蛛山」に登場した、藤の花の家紋の家のおばあさんも印象的なキャラクターだ。

彼女は、響凱との戦いを終えた炭治郎、善逸、伊之助をもてなした、「ばあや」的な癒し系のおばあさん。いつも目を閉じていて、大きなお団子頭が印象的だが、その見た目に反して意外に行動が素早いようで、着替えや食事、布団を炭治郎らのために粛々と用意してくれた。

藤の花の家紋の家はかつて鬼に襲われたところを鬼殺隊に助けられた過去がある家のようで、鬼殺隊なら無償でもてなしてくれるのだ。

彼女の功績は、伊之助を「ほわほわ」させたことだろう。おばあさんはその優しさで、初めて伊之助の心にあたたかい感情を与えた。この時はなぜ自分の無事を祈ってくれたのかさえわからない伊之助だが、この日食べた天ぷらがのことはいつまでも心に残っている。『柱稽古編』第七話の、岩柱の「巨大な岩を一町移動させる」という修行でも「天ぷら! 天ぷら!」と言いながら士気を高めて頑張っていた。このおばあさんが伊之助に人間らしい感情を教えたといってもいいだろう。

本人は気付いていないだろうが、家族のいない伊之助にとっては大切な存在となっているはずだ。

■ごくわずかの登場ながら笑顔が印象的な青年

最後はアニメ版『無限列車編』第二話「深い眠り」から登場した、無限列車の乗客の1人である結核の青年を紹介したい。

下弦の壱・魘夢の指示に従い、無限列車内で4人の若者が炭治郎、善逸、伊之助、煉獄それぞれの無意識領域に入った。

その中でも炭治郎の心に入った彼は、当時不治の病とされていた結核を患い、これまで毎日を絶望して過ごしていたようだ。そういった現実から逃げたい気持ちがあったためか、魘夢に幸せな夢を見せてもらうために、彼の下で炭治郎の精神の核を破壊しようとしていた。

しかし、炭治郎の無意識領域の美しさとあたたかさに触れ、結核の青年は炭治郎を倒す気が起きなくなる。その後は目覚めた炭治郎を応援し、笑顔で送り出した。

登場シーンはわずかだが、炭治郎に出会ったことで救われたように優しい表情を見せたこのキャラクターはかなり印象的だった。

物語のメインでは語られないところでも、鬼によって虐げられた人は数え切れないほど多く、そしてそんな絶望の最中でも鬼殺隊に救われた人はたくさんいるのだろう。語られない物語の深みを感じさせるモブキャラクターたちを最終決戦の前に振り返ると、ますます鬼殺隊の歩んできた努力の軌跡を感じる。

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