「僕に合っている」本命ウィザーズに入団したアレックス・サール。ドラ1リザシェイと正反対の道のりを歩んだ19歳がNBAに辿り着くまで<DUNKSHOOT>

6月26日に行なわれたNBAドラフトで、1位指名のザカリー・リザシェイに続く2番手で名前を呼ばれた、同じくフランス人のアレックス・サール。身長216cm、ウイングスパンは227cmを誇るビッグマンを指名したのは、ワシントン・ウィザーズだった。

リザシェイとは同じ2005年生まれで、世代別のフランス代表ではチームメイトでもある2人だが、ドラフトで上位指名を受けるまでの道のりは、正反対と言えるものだった。

フランスのプロクラブで育成を受けたあと、国内リーグで経験値を積むという、昨年のドラ1、ヴィクター・ウェンバンヤマと同じ道筋を辿ってきたリザシェイとは対照的に、サールは14歳でフランスを離れてスペインに渡り、ルカ・ドンチッチを輩出したことでも知られる若手発掘のプロ集団、レアル・マドリーのユース部門に入団。

そこで2年間の経験を積んだのち、16歳で渡米、ハイスクール世代の若手の育成を目的としたリーグ、オーバータイム・エリートへ入団する。サールは2021年に発足したこのリーグで最初の欧州出身選手となった。

2年間プレーしたあと、次に彼が目指したのはオーストラリア。同国のナショナル・バスケットボールリーグ(NBL)もまた、将来NBA入りを目指す若手にチャンスを与える、”ネクストスター・プログラム”なるストラテジーを推進しているリーグだ。
入団したパール・ワイルドキャッツでは、シーズン途中に負傷で数週間離脱することもあったが、サールは平均17分のプレータイムで9.4点、4.3リバウンド、1.5ブロックを記録。彼のプレー見たさにNBAのスカウトが絶えずパースの試合を見に訪れていたと、多数の現地紙が報じている。

こうした道筋を経て目標としていたNBAに辿り着いたサールは、2位指名を受けたあとのインタビューで、「今夜のような瞬間を経験したいと思って、僕は家を出た。だからとても充実感を覚えている」と、自分自身を讃えた。

「僕はフランスリーグでのプロ経験はない。亜流の道を辿ってきたけれど、それが僕の成長の大きな助けになった。だから誇りに感じているよ」

リザシェイ同様、サールの父もセネガル出身の元プロバスケ選手、6歳年上の兄オリビエは、昨季オクラホマシティ・サンダーと2WAY契約と、バスケ一家に育ったことも、自身のキャリアに大きく影響している。

そしてもう1人、彼が助言を仰いだのは、今年の4月から彼のマネジメントを担当するエージェントだ。「詳細は明かせない」としつつも、アンソニー・エドワーズ(ミネソタ・ティンバーウルブズ)やチェット・ホルムグレン(オクラホマシティ・サンダー)らをクライアントに持つビル・ダフィー氏からのアドバイスを信頼したとサールは語っている。
そのダフィー氏は、「指名順にこだわるのではなく、サールにとって最適な環境を探した」とフランスのレキップ紙にコメント。続けて「サールのような素質を持った選手は、非常に需要が高い」とも話している。

ビッグマンに求められるリムプロテクターの役割を果たしつつ、俊敏な動きでゲームメークに絡み、ロングシュートも打てる。サールはコートの両サイドでインパクトを与えられる万能型だ。

ウィザーズに照準を絞っていたサールは、1位指名権を持っていたアトランタ・ホークスからのドラフト前のトレーニング参加の誘いも固辞。その代わり、カリフォルニア州サンタバーバラの体育館にこもり、ステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)らを指導したことでも知られるプライベートコーチのパッキー・ターナーの指導のもと、ドラフトコンバインに備えた。

そこで彼は、漫画『スラムダンク』の桜木花道の夏合宿のごとく、2万本近いシュートを打った。猛特訓の成果か3ポイント成功率は39%から45%へと飛躍的に向上した。

「彼は力学的に良い動きをする。ボールの出し方もいい。それを見ただけでも、彼が良いシューターになるという感触を得られる。しかし脚の使い方や、骨盤をしっかり固定させる術をもっと学ぶ必要がある」(ターナー)
ターナーとのトレーニングと並行して、サールはスポーツ科学博士が編み出したフィジカルトレーニングを週6回行ない、徹底した身体作りにも励んだ。

「ウィザーズは昨シーズンよく見ていたチームで、若い選手が多く、プレーのペースがものすごく速い。プレースタイルも僕に合っている。とにかく、次のシーズンにインパクトを与えるプレーをしたい。自分が持てるベストを出し尽くして、ハードにプレーしたい。これは最高の機会だ」

そう語るサールのマインドは、すでにウィザーズでプレーする自分の姿にセットされているようだ。

チームでは、去年のドラフト7位指名で入団した同胞のビラル・クリバリーとの共闘も待っている。メトロポリタンズ92時代にウェンバンヤマと絶妙なコンビプレーを見せていたクリバリーと、今度はサールがワシントンで強力デュオを形成することになるかもしれない。

異なるキャリアを辿って同じNBAの舞台への到達したリザシェイとサール。ドラフト上位2位を独占したフランスの19歳は、それぞれのチームでどんな活躍を見せてくれるだろうか。

文●小川由紀子

© 日本スポーツ企画出版社