迫る『新紙幣』発行 対応に追われるラーメン店店長「客200人分の改修費にショック」 広島

私たちの生活に欠かせないお金の話題です。
描かれる人物やデザインが20年ぶりに変更される「新紙幣」。発行があす3日に迫っていますが、店舗などでは対応に追われ戸惑いの声も聞かれます。

広島市中区に店を構えるこちらのラーメン店。
24歳の店長が腕を振るう味わい深い一杯が人気の店で、去年3月にオープンしたばかりです。

【青坂記者】
「こちらのラーメン店では入り口のすぐそばに券売機が設置されています。
タッチパネル式でその横に紙幣の投入口もありますね」

【麺匠 睦月 坂井 章吾 店長】
「もう6月中頃に新紙幣が使えるように対応済み」

あす3日から発行される新しい紙幣。
1万円札・5千円札・千円札で20年ぶりに肖像やデザインが一新されます。
最先端の技術を活用した偽造防止の強化と誰でも利用しやすい「ユニバーサルデザイン」の導入が主な目的です。
ところが・・・

【麺匠 睦月 坂井 章吾 店長】
「できるだけ、避けられるなら避けたい費用だったかな。(オープンから)1年ちょっとなので、券売機を買ったばかりなのに、そんなにかかるのか…結構ショックでしたね」

店にとって負担となったのが券売機の改修費用です。
新紙幣への対応のため、今回かかったコストはおよそ12万円。
店長が「ショックだった」と嘆くほど、その負担は決して小さいものではありませんでした。

【麺匠 睦月・坂井 章吾 店長】
「客200人分くらいの費用負担、売り上げ的にはそのくらいの負担になると思う。店舗がそんなに大きくないので正直、結構厳しい」

それでも、ラーメン店を切り盛りしていく上で券売機の対応は欠かせないと言います。

【麺匠 睦月・坂井 章吾 店長】
「人手不足を担ってくれている存在で、人が注文を受けるとミスが起こってしまう、お金のやり取りもそうですけど、ミスも減らせる重要な存在」

さらに飲食店の券売機と同様に、新紙幣への対応が求められるのが自動販売機です。

【青坂記者】
「(ピザの自動販売機から)今出てきました、良い香りがしますね、やっぱり焼き立てです、箱も熱々ですね」

6年ほど前に広島市内に登場し、SNSなどを通じて人気を集めている「ピザ自販機」。
こちらでは改修のコストに加えさらなる問題に直面しています。

【ピザ自動販売機を経営「イーライン」谷口 佳陽 社長】
「3か月前に頼んでいて納期が半年ぐらい、だから9月・10月くらいじゃないですかね。(遅れるものだと想定は?)してなかったですね」

この自動販売機では紙幣の読み取り装置をメーカーに送り、ソフトの更新を依頼していますが、メーカー側で注文が集中しているため新紙幣が発行されるあす3日までには間に合わない状態です。

ここまでの対応の遅れは発行元の日銀も認識しています。

【日本銀行広島支店・中村 武史 支店長】
「キャッシュレス対応が進展する中で、台数がかなり多い自動販売機については未対応のものが改刷の時点において残存する」

業界団体のまとめによりますと、銀行のATMや交通機関の券売機では改修が進んでいるものの、飲料水などの自動販売機は台数の多さから改修が2割から3割程度に留まっているということです。
こちらの自動販売機ではキャッシュレスにも対応はしていますが…

【ピザ自動販売機を経営「イーライン」谷口 佳陽 社長】
「現金の人が8割から9割、現金で購入されてますんで、現金は必要」

コスト面や、対応が間に合わないという問題が浮き彫りとなる中、経営者の反応は様々です。
広島市西区でおよそ30年続くこちらの銭湯では…

【ちどり湯・加藤 龍馬 代表】
「まだ現在では(改修の発注は)してないです。やっぱりお金がかかるというのが一番ですし、成り行きがどうなるか」

入り口近くに置かれた券売機のほかに、男性と女性のそれぞれの脱衣所に設置してある自動販売機あわせて3台の改修が必要です。
自動販売機を優先して対応を進め始めたものの、1台あたりのコストはおよそ10万円。
同様の費用負担が想定されることから券売機の対応は見送っている状況です。

【ちどり湯・加藤 龍馬 代表】
「早くやればやるだけ得するかと言えば、決してお得感は感じない。結局は自分の所得が減る、一番そこがデメリット、こういうことが起きると」

当分の間は紙幣の交換や両替で対応するということです。
銭湯にとって費用が重くのしかかる背景には、昨今の燃料費高騰も大きく影響しています。

【ちどり湯・加藤 龍馬 代表】
「それをカバーするために値段に転嫁できるかというと銭湯はそういうわけにはいかない。どうするか…難しい選択ですよね、早くするのか、じっと待つのか」

<スタジオ>
こういうお店ですとか、事業されている方っていうのは、新紙幣の対応ももちろんなんですけど、ここに至るまでに例えばインボイス制度導入だったり、相次ぐ物価高、原油高。こういったものがいろいろと重なっていて、本当に考えることがたくさんあるんだなっていうところを改めて感じますが…

【コメンテーター:広島大学大学院・匹田 篤 准教授】(社会情報・メディア論が専門)
「お札。当然生活に密着したものですから、その影響というのは大きいです。社会を支える一つの大きなツールが変更されるっていうことで、できれば変えて欲しくないっていうのが本音だと思います。一方で偽造防止っていう観点からいくと、20年というのは一つの区切りで、通常のペースだと思う。そんな中で、移行期間って大変混乱するんだけど、今回はキャッシュレスも進んでるんで、以前ほどの混乱はないだろうと。ただ景気が今、低迷している中で、やはり各商店にとっては痛手だろうなと思います。そして、世界的に見ると紙幣を変えるタイミングで紙の紙幣からポリマーの紙幣に変えていくっていうことが結構言われてる中で、日本はあえてポリマーの紙幣を選ばなかったというのは、ひょっとしたら改修費用を安く抑えるためっていうのがあるのかなというふうにも思います。一方で偽造防止以外にも新紙幣によっていわゆるタンス預金と言われてるものがある程度あぶり出されていく効果もあるかもしれないというふうに言われているので、そういう意味で、もしかしたら、これが景気浮揚に一役買うかもしれないなというふうに思います」

ただ一方で新紙幣に変わるタイミングということで、詐欺という危険性もあるということで、古いお札も使えますので、くれぐれもご注意下さい。

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