「死刑選択は真にやむを得ない」あまりに不自然、不合理…大分地裁断じる 遺族「真実語る日まで闘う」 宇佐市親子強盗殺人・裁判傍聴記

大分県宇佐市で2020年、親子2人が殺害された強盗殺人事件の裁判員裁判で2日、佐藤翔一被告に死刑が言い渡されました。佐藤被告は逮捕段階から容疑を否認し、一貫して無罪を主張。供述の信用性について大分地裁は、あまりに不自然、不合理と断じています。

検察「うそのストーリーをでっち上げ」

大分市に住む佐藤翔一被告(39)は2020年2月、宇佐市安心院町の住宅で山名高子さん(当時79)と長男の博之さん(当時51)を包丁などで殺害し、現金8万8000円を奪った罪に問われました。

この事件の最大の争点は「被告が犯人かどうか」でした。

佐藤被告は「現場近くまで車に乗せたプロレスマスクの男が真犯人と思う」など、一貫して事件への関与を否定し、無罪を主張。一方、検察側は「うそのストーリーをでっち上げ、2人の命を奪った事実と向き合う姿勢は皆無」などとして死刑を求刑しました。

2日午後3時から始まった判決公判。辛島靖崇裁判長は主文を後に回し、判決理由から述べました。

辛島裁判長は「関係証拠から被告が犯人であると強く推認できる」として、佐藤被告の犯行を認定しました。そして、「窃盗目的で面識のない2人を殺害した自己中心的で身勝手な動機。罪証隠滅工作に及び、法廷においても不合理な弁解を続け反省の態度を示しておらず、酌量の余地はない。死刑を選択することは真にやむを得ない」として求刑通り死刑を言い渡しました。

プロレスマスクの男に…不自然、不合理と断じる

事件の取材を続けてきた加賀其記者の解説と傍聴記です。

裁判は5月20日から始まり、計13回の公判が開かれました。2日の判決公判には、64席の傍聴券を求めて325人が訪れました。公判は午後3時に開廷し、佐藤被告は上下黒いスーツにマスク姿で小さくお辞儀しながら法廷に入りました。

辛島裁判長は、主文を後回しにして、判決の理由を述べました。約50分の読み上げが終わったあと、被告に死刑を言い渡しました。

佐藤被告は、小さな声で「はい」と答え、冷静に聞いていた印象でした。慌てる様子もなく判決を受け止めた様子で、弁護士と目を合わせながら退廷しました。

判決理由で大分地裁は、「被告の車のトランクから被害者・高子さんの血液が検出されたこと。通常、第三者に車を貸さないことなどを踏まえ、『被告人の犯人性を強く推認させる』としています。

公判で弁護側は「プロレスマスクの男に陥れられた」などと事件への関与を否定してきました。一方、検察側は「荒唐無稽なストーリー」などと指摘していました。

佐藤被告は、これまでの公判で「事件当日、動画撮影をするというユーチューバーを名乗るプロレスマスクの男を車に乗せた」と話していましたが、大分地裁は供述の信用性について、プロレスマスクをかぶった見ず知らずの男からの依頼に応じるなど、あまりに不自然、不合理と断じています。

真実語り謝罪する日まで

判決を受け、山名高子さんの姉は、「死刑になっても妹は帰って来ないですけど、どういうわけで妹を殺さないといけなかったのか。それを知りたいですよ」と報道陣に答えました。

また、山名高子さんの次男は、「母や兄の無念さを考えると、まだまだ諦めるわけにはいきません。これからも被告人が真実を語り、母と兄に心から謝罪する日まで闘い続けていきたいと思います」とのコメントを出しました。

裁判員を務めた男性2人は会見に応じ、「今回色々悩んだ結果として出た判決ですけど、妥当と思います」「何日もみんなで話し合って私たちも納得して判決が出たと確信しています」と述べました。

一方、弁護人である田中良太弁護士は、「想定していた中でも最悪の判決。裁判所は被告人が有罪であるという先入観を持って事実及び証拠を評価したものだと我々として受け止めざるを得ない」として、即日控訴しました。

大分地裁で死刑判決が言い渡されたのは1980年の別府3億円保険金殺人事件(上告中に荒木虎美被告の死亡により公訴棄却)の裁判以来、44年ぶりです。

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