保育士時代に完璧だった「うんちソムリエの嗅覚」がわが子には通じない?!【エッセイスト・潮井エムコ】

「わが子には元気に健康に育ってほしい。それがいちばん大事な願いです」とエムコさん。

SNSや各種メディアで累計30万超いいねを獲得した注目のエッセイスト、潮井エムコさん(31歳)。24年1月に出版した初の著書『置かれた場所であばれたい』には、元保育士としてのエピソードも描かれています。2024年1月に待望の第1子を出産したエムコさんに、現在の子育てについて聞きました。全2回インタビューの2回目です。

不妊治療は想像をはるかに超えた大変さ。夫にひどい言葉を投げつけたことも【エッセイスト・潮井エムコ】

紙おむつの“おしっこサイン”を知らなかった夫

――2024年1月に第1子を出産したエムコさん。夫さんと2人での赤ちゃんのお世話の様子を教えて下さい。

エムコさん(以下敬称略) 臨月までさかごがなおらなかったため、妊娠37週で帝王切開での出産となりました。夫には、出産前から「私はおなかを切られるんだから1カ月は動けないと思っていたほうがいいぞ」と言い聞かせていて、夫は2カ月間の育休を取得することに。赤ちゃんのお世話はすべて夫にやってもらうつもりでいたんですけど、退院後は私も予想より動けたので、2人で赤ちゃんのお世話をしました。

私は保育士の経験があるのでお世話のしかたがわかりますが、夫はこれまでの人生で赤ちゃんにかかわる機会がありませんでした。おむつの替え方、ミルクのあげ方、げっぷのさせ方などなど、私が逐一教えることを、夫は一生懸命聞いて実践していました。

――赤ちゃんのお世話をしてみて夫さんはどうでしたか?

エムコ 最初は小さくてふにゃふにゃの赤ちゃんのお世話を怖がっていました。赤ちゃんを抱っこすると体の変なところに力が入ってしまうから、おふろに入れる、ミルクをあげる、など何をするにも「ふぅ〜〜!!」と言いながら、いちいちすごく疲れていました。

赤ちゃんのお世話については私が教えたことしか知らない状態なので、夫の純粋な行動や発言に驚くこともありました。

――たとえばどんなことですか?

エムコ 私が夫におむつを替えを頼んだときに、夫が「エムコはすごいな、赤ちゃんを見ただけでおしっこしてるかがわかるんだね、おれはわかんないよ」って言うんです。「いやいや、紙おむつの線が黄色から青色になってるからおしっこが出てるってわかるんだよ」と言ったら、「え!そうなの?!知らなかった・・・」と。

紙おむつの“おしっこサイン”のことを知らなかった夫は、私が「おしっこが出てるね~」と赤ちゃんに声をかけながらおむつ替えをするたびに、「すごいな、さすが元保育士だ!」と感心していたらしいです。おしっこサインのことを言いそびれていた私が悪いのですが、笑っちゃいました。そんな夫でしたが、今では私が不在の日に1日中赤ちゃんと2人きりでも大丈夫なくらい、しっかりお世話できるようになりました。

全身全霊で「ギャー!!」と泣く姿に成長を感じる

エムコさんは「夫婦が仲よくしていればきっといい子に育つよね」と夫と話しているそうです。

――夫さんの育休の間はどんなふうにお世話を分担していましたか?

エムコ まだまだこま切れ睡眠の低月齢のころ、日中は2人で見ていましたが、夜間は完全に分担していました。夜の7時から深夜1時までの6時間は、私が別の部屋で完全に1人で寝る時間。その間は夫が1人で赤ちゃんを見てくれていました。深夜1時から朝7時までは私がお世話をして夫は休む、という形です。

元保育士とはいえ、私も首すわり以降の赤ちゃんしか預かったことはないので、新生児は対象外。ふにゃふにゃして小さな赤ちゃんに、もし突然なにかあったら、と心配で目を離すのが怖かったんです。低月齢のうちは乳幼児突然死症候群になったらどうしよう、と不安で、夫と交代して目を離さないようにしていました。

夫の育休が終わってからは、平日は昼も夜も基本的に私が赤ちゃんのお世話をしています。現在私は働いていないので、夫には家ではぐっすり寝て、すっきりした状態で仕事に行ってほしいと思っています。

――4カ月になった赤ちゃんの成長の様子を教えてください。

エムコ 首がすわって、ねんねのころとは見える景色が変わったことが楽しいみたいです。お散歩に行くと景色が違うのが新鮮らしく、キョロキョロしてすごくご機嫌です。体もしっかりしてきたから、私のすねに赤ちゃんをうつぶせに乗せて支えて、飛行機みたいに上下させてあげるとケタケタ笑って喜んでいます。そんなふうに触れ合い遊びができるようになってきたのもうれしいです。

また、私の姿が見えなくなると、顔を真っ赤にして涙と汗でびしゃびしゃになりながら、「ギャー!!」っと全身全霊で泣くようになってきました。近くに守ってくれる人が見えないと、生命の危機を感じて泣くフェーズに入ったんだな、と成長を感じます。でも抱っこしてあげるとわりとすぐ泣きやむし、今のところ育てやすい赤ちゃんだなぁと感じています。

うんちソムリエの嗅覚が落ちている?!

メリーに興味津々の赤ちゃんの様子。むちむちの手足がとってもかわいい。

――結婚前に保育士をしていたエムコさん。保育士を志した理由は?

エムコ 自分自身が幼少期に家庭での親との関係があまりよくなかった経験があります。親の理想像と現実の私があまりにも違って、やりたくもない習い事ばかりの日々に疲れ果てていました。私を自分の理想という型にはめようとする親に対して、子どもは経験が少ないだけで大人と同じようにいろんなことを考えているのに、といきどおりのようなものを感じていて。そこから児童心理学の分野に興味を持つようになりました。保育の仕事で子どもの代弁者になれたらいいな、と。

昔から子どもが好きだったこともあり、幼児教育を学べる短大に進学して幼稚園教諭の免許と保育士の資格を取得しました。短大卒業後に、幼稚園教諭として2年、保育士として3年働きました。

――元保育士として、実際に子育てをしてみて感じる違いはどんなことですか?

エムコ わが子1人のためだけに時間と愛情をかけてあげられるということに大きな違いを感じています。保育士時代には0歳児クラスの担任をしていたのですが、12人いる赤ちゃんを4人の保育士で保育するので、1対1ではありません。何人かが同時に泣いていても状況に応じて対応する優先順位があるので、「そばに行ってあげたいけどごめんね、待っててね」という場面がどうしてもあります。それに、複数の赤ちゃんに対して、かかわる時間がなるべく平等になるように意識して保育していました。

それが、いざ自分の子を育ててみると「この子のためだけに注力できる」ことがすごく新鮮でした。泣いたらすぐにそばに行ってあげられるし、満足するまで抱っこしてあげられる。当たり前かもしれないけれど、それにびっくりしました。

――子育てで「これはキツイ!」と思うことはありますか?

エムコ まとまった睡眠がとれないことはきつかったです。保育士は勤務時間がありますから、時間が終われば自分の好きなことをできるけど、自分の子どもとなると24時間体制なので。気が抜ける時間がないのは改めて大変だなと思いました。

――保育士時代には、うんちのにおいをかぎ分ける「うんちソムリエ」の特技があったそうです。今もその能力は健在ですか?

エムコ 保育士だった当時は布おむつの園だったこともあり、軟便がもれてお洋服まで汚れると大変だから、なるべく早くうんちに気づくために、自然とうんちをかぎ分ける能力を習得したんです。室内で遊んでいるときにも、「あれ・・・これは〇〇ちゃんがうんちしてるっぽいな」と予想するとほぼ的中していました。

ところが今は、わが子のおならがくさすぎて日々だまされています(笑)。わが子から「ぶー、ぶりぶり!」と盛大な音が聞こえて、「このにおいはうんちだな」と紙おむつを替えようとしたら、不発だったことが何度かありました。かつて「うんちソムリエ」と呼ばれた身としては、「うそだ、私が間違えるはずない!」と本当にショックでした。うんちソムリエとしての嗅覚の精度が数年で格段に落ちてしまったようです(笑)

いちばん大切なことを見失いたくない

生後4カ月の赤ちゃん。お散歩が大好きで、お散歩中はとってもご機嫌なのだとか。

――今、エムコさんがリフレッシュする時間はありますか?

エムコ 夫の休みの日に時間をもらって、1人で近くの喫茶店へ行ってエッセイを書くことです。喫茶店までの15分ほどの道のりを、自分1人で歩くだけでも気分転換になります。喫茶店で好きな飲み物を飲んだり、できたての温かい食べ物を食べられるのも幸せです。そんなささいなことだけでもすごくリフレッシュできて、帰り道にはわが子が恋しくなって早足で帰ります。

先日友人の結婚式があったときにも、夫が「子どもは見てるから行っておいで」と言ってくれたので、助かりました。

――エムコさんは子どもにどんなふうに育ってほしいと考えていますか?

エムコ 私は幼少期、親に英才教育のようなものを詰め込まれたのですが、見えすぎる期待に反抗しまくっていました。自分がそうだったように、子どもは親の思ったとおりには育たないと思っています。

自分が育ってきた環境や、保育の仕事の経験をひっくるめて、人って本当に、好きなことや、楽しいと思うことしか伸びないなと感じています。好きなことは楽しいから上手になって、もっと好きになりますよね。逆にいくら親がやらせたくても、本人が嫌々取り組むことは伸びないと思います。だからわが子にも、本人が楽しいと思うことをたくさんさせてあげたいです。

ただ、実際に子どもを産んで育ててみると、いろんな気持ちが芽生えるというか。ついわが子に「こんなふうに育ってほしい」と思ってしまいがちです。そういった思いがけない期待がふくらむことは、親としてしかたないことだとも思うのですが、自分の幼少期の経験を含めて「こうなってほしいと思うのは私のエゴだよね」という自覚と客観的な視点はしっかり持っていたいです。
いちばんの願いは「元気に健康に育ってほしい」ということ。いちばん大事なこのことを絶対に見失ってはいけない、と自分に言い聞かせています。

――初エッセイ本のタイトルは『置かれた場所であばれたい』ですが、エムコさんが今いる場所はどんな場所だと感じますか?

エムコ 夫とわが子と過ごしている今が、これまでの人生でいちばん楽しい場所です。決して裕福な暮らしをしているわけではないけれど、毎日のなかにささやかな喜びがある。今がいちばん幸せだなと思います。

お話・写真提供/潮井エムコさん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

妊娠を望んでいるのに妊娠できない・・・。33歳で不妊治療をスタートしたまんが家。流産を経験しながら体外受精でわが子に出会うまで

子育てエッセイを出版する予定は?と聞くと、「子育てをメインにするつもりはないです」とエムコさん。「子どもを産んだけど、私という人間に母という属性が加わっただけ。これからもそういうスタンスでエッセイを書いていきたい」と話してくれました。

潮井エムコ(しおいえむこ)さん

1993年4月1日生まれ。2021年より、noteにてエッセイの執筆を開始。「つらいときほど尻を振れ」をモットーに、日々エッセイをしたためている。

潮井エムコさんのX(旧Twitter)

潮井エムコさんのnote

●記事の内容は2024年6月の情報で、現在と異なる場合があります。

『置かれた場所であばれたい』

生卵を育てさせる先生、元スパイの祖母、娘を山に放り投げる母……。一筋縄ではいかない人間模様を描いたnoteで人気のエッセイを、大幅加筆して書籍化。くすっと笑いながら読めるのに、心にじんわり温かさも残る26編のエピソードを収録。潮井エムコ著/1650円(朝日新聞出版)

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