映画で響く歌声!アニメ・ドラマになった漫画『パリピ孔明』の魅力を紹介

『パリピ孔明』は三国志の偉人・孔明が、現代に転生してクラブ音楽の歌手をプロデュースしていく異色のコメディ作品です。理路整然とした軍師の立ち回りと、感情に訴える音楽のミスマッチが大いにウケて、アニメ化・実写ドラマ化が相次いで行われました。

2024年にはアニメ映画も公開された『パリピ孔明』について、原作の内容を紹介しつつ作品の魅力を解説していきます。

3行でわかる記事の内容

  • 『パリピ孔明』は異色の音楽コメディ漫画
  • 現代に転生した孔明が将来有望な歌手をプロデュースしていく
  • ちりばめられた三国志ネタと現代音楽のミスマッチが癖になる

漫画『パリピ孔明』は名軍師が計略を巡らしスターを育てる物語!

『パリピ孔明』は原作・四葉夕卜と作画・小川亮による、Webコミックサイト&漫画アプリ「コミックDAYS」発の音楽漫画です。2019年12月から連載が始まり、2021年11月からは「週刊ヤングマガジン」に移籍して現在も連載中。

本作は史実では約1800年前に死亡したはずの諸葛亮孔明が、なぜか現代日本の東京に全盛期の姿で転生し、無名のシンガーソングライターを成功に導くシンデレラストーリーです。誰もが知るかの有名な軍師が持てる才覚をフルに発揮して、音楽業界に殴り込む驚きの設定と痛快な展開が非常に魅力的。

劇中さながらの快進撃を見せる本作はこれまでに2022年のアニメ化、2023年の実写ドラマ化と立て続けのメディアミックスが行われてきました。そして2024年3月と5月にはなんと、アニメ総集編映画『パリピ孔明 Road to Summer Sonia』の公開、舞台化まで実現!

孔明の現代転生と音楽漫画という異ジャンル、異色の組み合わせがなぜここまでヒットしているのか。原作漫画の内容を紹介しつつ、作品の魅力を解き明かしていきたいと思います。

孔明が歌手をプロデュース!?常識外れの音楽コメディ『パリピ孔明』【あらすじ】

志半ばにして、五丈原の戦いで病死した諸葛亮孔明。彼は気がつくと、なぜか若かりしころの姿で東京・渋谷に立っていました。孔明は三国志のイメージそのままの出で立ちでしたが、ハロウィンまっただ中のおかげで逆に目立たずに済み、酔った勢いの見知らぬ若者に連れられてクラブへ行くことに……。

そのクラブで孔明は運命の出会いを果たします。まだ何者でもない、アマチュアシンガーソングライターの月見英子(つきみえいこ)。約1800年経って、場所も人も物も何もかもが違う世界にあって、歌に込められた想いだけは変わりませんでした。

英子の歌に、かつての主君たちの思い描いた平和のあり方を感じた孔明。彼は現代について学び、数々の知略を駆使して英子を天下に轟くスターにすべく奔走し始めます。

漫画『パリピ孔明』登場人物紹介

『パリピ孔明』には音楽に関わる様々な人物が出てきますが、特に重要なのは孔明の立案で立ち上げられたインディーズ会社「フォース・キングダム」の面々です。

「フォース・キングダム」の中心人物は物語の主人公でもある諸葛亮孔明。三国志に出てくる孔明その人で、伝統中国の着物に羽扇がトレードマークです。昔の人なだけに常識外れなところも見せますが、そういった部分も含めて周囲にはなりきりコスプレイヤーだと勘違いされています。

ヒロインにして、孔明が猛プッシュする歌手がEIKOこと月見英子です。家庭環境の問題で自殺を図ったことがあるのですが、アメリカの歌姫マリア・ディーゼルの歌唱に感動して再起した過去があり、自分も同じく人々を感動させる歌手になりたいと願っています。

そしてクラブ「BBラウンジ」オーナー小林。彼は根っからの三国志(三国志演義)オタクで、孔明と意気投合したことから孔明と元々才能を感じていた英子を後援し、「フォース・キングダム」にも協力するようになります。

通称「KABE太人」こと河辺太人(かべたいじん)。天才の異名をほしいままにする名ラッパーで、とある経緯から孔明に感化され、英子の音楽活動を裏に表に支える存在となりました。

漫画『パリピ孔明』の魅力

『パリピ孔明』最大の魅力は、三国志の世界から現代にやってきた孔明が、音楽――それもクラブでかけられるような現代音楽歌手のプロデューサーをする設定です!

しかも単にプロデュースするだけではありません。軍師らしく策略を用いて、不利な状況を好転させた上に人気を獲得していくのが凄い。寝返りや偽情報の流布……奇策といえば奇策ですが、終わってから見返すとしっかり情報収集した結果、勝つべくして勝つ状況になっているのが非常に面白いです。

ただ、この孔明の策も人を感動させる英子の歌があってこそ。原作は漫画なのでもちろん歌声はありませんが、多くの人が受け入れやすいキャッチーなビジュアルと丁寧な描写のおかげで、「歌の力」の説得力は充分感じます。

劇中には三国志ネタがちりばめられており、三国志を知っていると思わず「おっ」となるシーンも。異色の組み合わせの妙、異なるジャンルのギャップはパリピ(パーティーピープル)と孔明を組み合わせた、不思議な語感のタイトルにも現れています。おカタい三国志とノリのいいパリピ音楽のミスマッチ感は本当に癖になりますよ。

漫画『パリピ孔明』おすすめエピソード:石兵八陣【第1巻4話ネタバレ注意】

今後の活動の参考にすべく、ある音楽イベントに参加した孔明と英子。メインイベントに登場したミア西表のパフォーマンスに感激した2人は、そのまま本人の楽屋へ行って感想を伝えました。ミア西表は英子が知名度の低い同業者だと知ると、クラブ「WAAARP」のイベントへ出場しないかと誘ってきます。

英子は大舞台の出演に舞い上がりますが、もちろんただの親切ではありません。英子のタイムスケジュールはミア西表と同じでした。英子は客の人数差で人気をアピールするための当て馬にされたのです。

実力はともかく、認知度の差は歴然。このままでは英子が惨めな思いをするだけ……でしたが、孔明が一計を案じます。英子のステージのフロアにちょっとした仕掛けを施し、「1杯奢る」などと言って少しずつ客を入れていったのです。しばらくすると、フロアは英子の歌に聴き入る客でごった返していました。

孔明の打った手とは、孔明は敵兵を幻術で閉じ込めたという有名な「石兵八陣」の再現。スモークやバーカウンター、出入り口の巧みな配置によって、動線をコントロールして客を足止めしたのです。

しかし、石兵八陣はあくまで客足を一時止める仕掛け。最終的に客をフロアに留めたのは、魂に響く英子の歌声に他なりませんでした。

孔明の策と英子の歌がガッチリはまった見事なエピソードです。

漫画『パリピ孔明』おすすめエピソード:孫子の兵法【第3巻14~16話ネタバレ注意】

野外フェス「サマーソニア」への出場権を賭けた企画を前に、どうしても必要な人材として浮上してきた天才ラッパーKABE太人。突如姿を消した彼を表舞台に呼び戻すため、孔明が接触を図ります。

KABE太人はスランプに陥っていたのですが、彼の中にはまだくすぶるものがありました。そこであえて、MCバトル選手権3連覇のKABE太人にMCバトルを挑む孔明。KABE太人はまったくブランクを感じさせず、挑発的なワードチョイスでライムを踏んできます。一方の孔明は、流暢な古い言葉使いで漢詩や兵法を引用して対抗。

ラップの応酬はKABE太人の勝利に終わるものの、彼は孔明とのラップバトルや英子の歌で情熱を取り戻します。そして見事、孔明の陣営に加わるのでした。

……これだけだと、正面からラップに信念を乗せてぶつけ合っただけのいい話で終わるのですが、実は巧妙に仕組まれたカラクリがありました。

KABE太人の心を震わせた英子の歌は、孔明が入念に調べ上げた彼の思い出の曲だったのです。さらに孔明はスランプの一因に胃潰瘍が関わっていることを見抜き、事前にKABE太人の飲み物に胃薬を仕込んで負担を軽減することもしていました……。

孫子曰く、「よく敵人をしてみずから至らしむるにはこれを利するなり」。相手の欲するものを与えれば、敵であっても味方に引き入れられる――といった意味の言葉です。

KABE太人が潜在的に欲しがっているものを用意し、見事仲間にしたしたたかさに舌を巻くとともに、ちょっと恐ろしいものを感じました。

漫画『パリピ孔明』おすすめエピソード:親と子【第8巻55~57話ネタバレ注意】

「サマーソニア」への出場を決め、新曲「Flower Crown」制作にとりかかった英子たち。ところが絶縁状態だった英子の母、翔子が現れて事態が一変します。歌手を諦め、堅実な道に進むよう強固に主張してくる翔子。孔明の提案で「Flower Crown」を完成させ、翔子を感動させれば認めてもらえることになるのですが……。

自分を見つめ直すために故郷の京都に戻った英子は、祖母ウメの誘いで商店街対抗演芸合戦に参加し、「Flower Crown」をお披露目することになります。ところが、この演芸合戦が一筋縄ではいきませんでした。優勝候補の鴨川商店街陣営が、潤沢な予算と人材による物量で圧倒してきたのです。

極めつけはミア西表の電撃参加。かつて知名度のない英子を利用しようとした彼女が、慢心を捨てた本当の実力派人気歌手として立ち塞がりました。

逆境に次ぐ逆境の中、時間ギリギリまで編曲作業されていた「Flower Crown」が、ついに英子の元に届いて奇跡が起きました。家族の愛を歌った曲が観客を魅了し、何度も何度もアンコールをリクエストされたのです。

アンコールの嵐で母・翔子の頑な心も氷解し、英子はついに歌手の夢への理解と演芸合戦の勝利(決め手は孔明の別の策でしたが)を手にしました。

無数の妨害と孔明の対策の果てに、シンプルに人の心を震わせた感動が勝負を決した――というのがとても印象的なエピソードです。

アニメ映画『パリピ孔明 Road to Summer Sonia』では新規ライブシーンに注目!

2024年3月に公開された映画『パリピ孔明 Road to Summer Sonia』は、2022年のテレビアニメ全12話を再編集して作られた総集編です。

テレビアニメ版のストーリーは原作をなぞる形で忠実に作られており、アニメだからこそ可能な映像表現と音楽が魅力となっています。

英子のオリジナル曲はもちろん、エイベックスのバックアップで豪華なカバー曲を楽しめるのは、紙媒体の原作では不可能な部分です。英子の歌唱パートは人気アーティスト96猫の担当で、違和感なくプロの歌唱力に浸れるのもポイント。英子の才能の「本物」感が凄いです。

映画版はそんなテレビアニメ版の中盤、終盤のいくつかのシーンがカットされています。とはいえ、タイトル通り「サマーソニア」関連に焦点を絞って、テンポ重視の編集になっているため違和感は少ないです。むしろ中だるみなくて見やすくなった印象。

映画版には新規ライブシーンも追加されています。映画で初めて見る人だけでなく、リアルタイムで視聴した方も、本当のライブに何度も参加するのに近い感覚でストーリーを楽しめるはずです。

漫画『パリピ孔明』原作・四葉夕卜とは

『パリピ孔明』原作を担当する四葉夕卜(よつばゆうと)は小説家、漫画原作者です。年齢性別を含む詳しいプロフィールは不明。

2016年に『エリィ・ゴールデンと悪戯な転換~ブスでデブでもイケメンエリート~』が、Web小説投稿サイト「小説家になろう」が主催する、第4回ネット小説大賞を受賞して商業作家デビューしました。

2020年には『転生七女ではじめる異世界ライフ』が第5回カクヨムweb小説コンテスト大賞を受賞。

自作異世界転生モノが中心です。特徴はありがちな無双系ではなく、ちょっと視点をズラして異世界生活を満喫する作品が多いこと。

漫画原作は『パリピ孔明』以外に、ファンタジー世界の空港を舞台とした『魔法空艇の案内係』を手がけています。内容も方向性も違いますが、音楽×三国志や空港×異世界といった風に、異なるジャンルを組み合わせるのと得意としているようです。

実際に四葉夕卜は『パリピ孔明』のインタビューにおいて、「異なる者」「異なる世界」を繋ぐことを意識していると語っています。なお『パリピ孔明』の初期案では、孔明の術策で持てない男子がモテるようになっていくストーリーだったとか。

『パリピ孔明』で四葉夕卜で知った方は、まず『魔法空艇の案内係』を読んでみてはいかがでしょうか。

漫画『パリピ孔明』作画・小川亮とは

小川亮(おがわりょう)は『パリピ孔明』作画を担当する漫画家です。詳しいプロフィールは非公開。

2015年に大部慧史・原作の『赤橙』が「別冊少年マガジン」に掲載され、商業漫画家デビューを果たしました。オリジナル作品は漫画アプリ「マンガボックス」で連載された、元警察官の主人公がストーカー逮捕に執念を燃やす『私人警察』。

作画のタッチはクッキリした線の写実寄りですが、どことなく少女漫画っぽい繊細な柔らかさも感じられます。系統としては『DEATH NOTE』や『バクマン。』で知られる小畑健に近いです。実際に『ヒカルの碁』時代にアシスタントをしていたようで、『私人警察』には小畑健がコメントを寄稿しています。

また小川亮本人のインタビューでは、影響を受けた漫画として太田垣康男の『機動戦士ガンダム サンダーボルト』、澤江ポンプの『パンダ探偵社』が挙げられていました。

『パリピ孔明』を除いた2作品はサスペンス色が強いか、アクション要素がメインになっています。毛色が少し違うので、読む際には注意してください。


漫画『パリピ孔明』は現在も絶賛連載中。2024年5月には舞台化もされるなど、快進撃はまだまだ続きそうです。漫画アプリ「コミックDAYS」なら基本無料で読めるので、気になった方はまずこちらからどうぞ。

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