チヌ消費増へ 固定価格で買い取り 県漁連創設 おいしさPRし食害減

寄島町漁協でクロダイを受け取る岡山県漁連職員(左)。安定した価格で買い取り、漁を促している=6月14日、浅口市

 岡山県漁連(岡山市南区浦安南町)が2024年度から、瀬戸内海の地魚・クロダイ(チヌ)の消費拡大に乗り出した。かつては高級魚とされたものの、養殖魚などに押され、食卓に上る機会が少なくなった。価格が低迷して漁師が取らなくなったことから、相場より高い固定価格で買い取る仕組みを創設。漁師が再び積極的に取るよう促すとともに、集まった魚の身を地産地消の食育や販路拡大に活用していく。クロダイによる養殖ノリやカキの食害の深刻化も指摘されている。県漁連は「元々は地域に親しまれた魚。あらためておいしさをPRし、食害も減らしたい」とする。

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 岡山県漁連による固定価格買い取り制度は、1キロ当たり250円で県内漁協からクロダイを直接引き取る。市場取引の場合、同50円まで下がることもあり、漁師のインセンティブ(動機づけ)となる価格に設定した。

 浅口市の寄島町漁協を6月中旬の早朝、買い取り役の県漁連職員が訪れた。氷漬けになった魚を持ち上げて状態を確認。「まずまずのサイズ」と、約100キロを持ち帰った。

 取り組みは4月に始めた。当面2年間続ける予定で、本年度は20トン分の予算500万円を確保した。県漁連の上柏恒一第二業務部長は「漁師がクロダイを積極的に水揚げし始めた」と手応えを語る。

 かつてクロダイは岡山で広く親しまれた魚だった。ところが、脂の乗った養殖マダイが出回るようになると、消費者が離れて流通量が減少。今では「未利用魚・低利用魚」とされるようになった。

 魚食を推進する岡山水産物流通促進協議会の森下倫年会長は「煮てよし焼いてよしで、食卓の主役になれる魚。食べないのはもったいない」と訴える。

 県漁連の試みは、買い取りだけにとどまらない。集めた魚を切り身などに加工して冷凍ストック。消費拡大や販路開拓に活用し、一石二鳥を狙う。

 新たに給食向けとして、さいころ状に切った食材を開発。岡山市教委が早速採用し、67小学校の約3万5千人が南蛮漬けとして味わった。備前市の学校でも提供されている。

 クロダイの水揚げが集中する瀬戸内海周辺以外での知名度向上を目指し、流通大手・イオン(千葉市)へ素材を提供。同社は6月から全国で味付け切り身を売り出した。

 県漁連は他にもクロダイ入り駅弁の開発に参加し、4月に発売された。7月には地元飲食店にPRするため、試食会を開く。

 消費拡大を図る背景には、切実な理由もある。クロダイが養殖ノリやカキを食い荒らしているからだ。温暖化で活発に動く期間が長期化し、海の貧栄養化による餌の減少などもあり、被害が深刻化しているという。

 県漁連の国屋利明会長は「クロダイは貴重な海の恵み。多くの人においしく食べてもらいながら生態系を守り、持続可能な水産業につなげたい」と話す。

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 山陽新聞社は地域と連携して課題解決や魅力創出を図る「吉備の環(わ)アクション」を展開している。地域の水産資源や魚食文化を守るため、「前浜もん いただきます」と題して新たなアクションに乗り出す。

 前浜もんは地元の海で取れた魚介類のこと。瀬戸内海では多彩な地物が水揚げされ、豊かな魚食文化を育んできた。一方で、流通事情や魚離れで食べる機会は年々減少。漁業者らの活動紹介や啓発イベント開催を通じ、海の豊かな恵みを守り、次代へ継承していく。

備前市にある岡山県漁連の加工場。各漁協から集めたクロダイを加工し、冷凍保存する

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