足りない教員、疲弊する学校現場…それでも採用試験は倍率低下、臨時職員の採用も進まず 「現場の努力はもう限界」頭抱える鹿児島県内

 教員不足が深刻だ。鹿児島県知事選挙でも、複数の候補が教員不足解消や働き方改革を政策に掲げる。県教育委員会はさまざまな方法で募集をかけ、採用試験も条件を見直すなど、人材確保に苦心する。それでも不足を埋めるのは容易でなく、現場は頭を抱えている。

 「教員免許を持っている人、教科の知識や経験がある人に心当たりはありませんか」。ある公立中学校長は5月、PTA総会で保護者に呼びかけた。

 この学校では、年度当初から1人足りない状況が続く。教員免許を持つ人や、免許を持っていなくても特別免許の対象となる人がいれば-。採用するとなると、県教委や市町村教委の選考などが必要だが、わらにもすがる思いだった。

 授業や部活動、校務を、ほかの教職員で分担して補った結果、時間の余裕はなくなった。校長は「1人いないだけで、ここまで影響が出るとは」とこぼす。

 自治体教委の50代職員は「現場の努力だけで探すのは難しい」と振り返る。以前勤務した小学校で、年度途中に病気休職者が出た際、教員経験がある知人らに声をかけたが、色よい返事はもらえなかった。

□■□

 県教委は教員免許が原則必要な職種として、常勤の臨時的任用教員(臨時教員)と非常勤の講師を募集する。校内業務を補助する教員業務支援員や特別支援教育支援員、部活動指導員は免許は不要で、市町村教委が募っている。

 中でも欠かせない存在が臨時教員だ。病気休職や産休、育休などの欠員を補っている。主に担ってきたのは採用試験で再挑戦を目指す人たちだ。しかし、特別支援学級の増加などで正規教員への採用が進み、人手不足につながった。

 「子どもたちの成長を支えるために力を貸してほしい」。3月上旬、県教委の中島靖治課長は県庁で緊急募集の会見を開いた。「新年度までに約2000人の臨時教員が必要」と訴え、特設サイトを開設した。それでも、新学期には臨時教員28人が不足した。

□■□

 新規採用も危機的な状況だ。2017年度採用の試験は230人程度の募集に2317人が受験。倍率10.2倍の狭き門だった。だが、6月16日に始まった25年度試験は、570人程度に対し1146人で倍率2.0倍。日程を約1カ月早めても、下げ止まらなかった。

 文科省は来年の日程をさらに1カ月前倒し、5月11日とする方針を打ち出した。こうした動きに、鹿児島大学の溝口和宏教育学部長は「学業とのバランスがうまく取れるだろうか」と心配する。

 溝口学部長は教員確保には「結婚や子育てで現場を離れていた経験者ら、教育に関心を持つ人材の掘り起こしと、継続的なフォローが不可欠だ」と指摘する。

 人手不足を解消しなければ、働き方改革もおぼつかない。悪循環を断ち切るには、新たな知事のリーダーシップが問われる。

1986年度以降で最低の2.0倍にまで落ち込んだ公立学校教職員採用選考の1次試験=6月16日、鹿児島市の鶴丸高校

© 株式会社南日本新聞社