自分だけが気づいていない?誰にでも可能性がある「疲労臭」…においのエキスパートが教える改善法と対策

体臭は自分自身では気づきにくいが、中でも鼻にツーンとくる“おしっこのようなにおい”が「疲労臭」。においのエキスパート、東海大学理学部化学科の関根嘉香教授によると、正体は血液中の「アンモニア」が皮膚からガスとして放出されたもの。 “血液から染み出る”においのため、シャワーや入浴では根本的な解決にはならないという。

疲労臭の要因はストレスや疲れで、老若男女問わず可能性があるというので、私たちにとっても他人事ではない。自分や家族から“おしっこのような”疲労臭を感じたらどうすればいいのか。解決のキーワードは「生活習慣」と「ミョウバン」だという。

タンパク質とお酒はほどほどに

仕事や家事に忙しいと、ストレスや疲れは感じてしまうものだが、疲労臭としないためにはどうすればいいのか。関根教授は「まず食生活を見直すことから始めましょう」と話す。

健康志向の高まりによりタンパク質の摂取が意識されているが、疲労臭の原因となるアンモニアは、食物のタンパク質が腸内で分解される過程で作られる。つまり、タンパク質に偏った食事をすると、それだけで“臭いリスク”を高めることになるのだ。

お酒の飲みすぎも禁物だ。体内で作られたアンモニアは肝臓の働きで「尿素」に変わり、尿として排泄されている。もし肝臓の調子が悪いと、これが上手にできなくなる。

そうするとアンモニアのまま体内に残りやすくなり、結果、疲労臭につながってしまうという。夏は“焼肉にビール”がおいしい季節でついついやってしまいがちだが、こうした組み合わせはほどほどにした方が良さそうだ。

「肉や魚はタンパク質を多く含んでいますので、野菜をプラスするなどしてバランスの良い食事を意識しましょう。シジミなどに含まれる『オルニチン』はアンモニアを尿素に変えるのを助けますので、味噌汁などに入れて習慣的に食べたいところです」(以下、関根教授)

悪玉菌の活動を抑えるのがポイント

併せて、腸内環境の改善にもチャレンジしよう。関根教授によれば、人間の腸内には「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」がいて、この三者が勢力争いのように増えたり減ったりしている。

・善玉菌(体に良い働きをする菌。食物繊維、発酵食品、オリゴ糖などの摂取で増えやすい)
・悪玉菌(体に悪い働きをする菌。タンパク質や脂質中心の食事・不規則な生活で増えやすい)
・日和見菌(腸内の状態によって、良い働きも悪い働きもする菌)

アンモニアはこのうちの悪玉菌が作るので、その活動を抑えることがポイント。“腸によい食べ物や飲み物”を食事に取り入れるだけでも、疲労臭の予防が期待できるという。

「企業との研究で、11人にラクチュロース(オリゴ糖の一種)を1日4g摂取する生活を続けてもらいました。そうしたところ、約1週間後には腸内のビフィズス菌(善玉菌)が増えるとともに、皮膚から放出されるアンモニアの量が少なくなったという結果もあります」

このほか、ストレスや疲れをためない“リラックスタイム”もぜひ作ってほしい。関根教授のお勧めはお風呂(浴槽)にゆっくり浸かることで、体の皮脂や老廃物を流せるだけではなく、睡眠の質を高めることにもつながるとのことだ。体の内側からケアをしていこう。

臭い対策には“ミョウバン水”の出番

ただ、このように食生活を注意し、ストレスや疲れを癒しても疲労臭は出てしまうことがある。関根教授はそんな時の備えとして、スーパーなどで手に入る「焼きミョウバン」を勧めている。

焼きミョウバンは食品添加物のひとつで、漬物の色を鮮やかにするために使われたりするが、殺菌効果があるほか、疲労臭にも効果がある。アンモニアはアルカリ性で、焼きミョウバンは水に溶けると酸性になるので、においの中和反応が起きるというわけだ。

焼きミョウバンを水に溶かした“ミョウバン水”を作り、気になったタイミングで、臭いと感じる体の箇所や衣類にシュッと吹きかけるだけでも、においを和らげることができるという。

「簡単に作れるので、小型のスプレーなどで持ち歩いてはいかがでしょうか」

自分のにおいが気になると、香水でごまかしたくなる人もいるかもしれないが、こちらはアンモニア臭が逆に際立つこともあるので注意が必要。使うなら比較的相性の良い、フローラル系(ローズ、ジャスミンなど)がお勧めだ。

臭いは衣類や靴にも染み付く

皮膚からガスとして放出される疲労臭だが、汗をかくと衣類や靴が臭くなることがあるように、疲労臭も着ているものに染み付いてしまうと、関根教授は話す。

そのためできることなら、衣類はゆったりして通気性がよいものが望ましい。疲労臭は特に足に出やすいため、靴は疲れにくさで選ぶのがお勧め。ハイヒールやパンプスは疲れやすいものもあるので、注意してほしいとのことだ。

一方でアンモニアは水に溶けやすいため、疲労臭は一般的な洗濯で落ちるともいう。臭いかもしれないと思ったら早めに洗濯をして、風通しの良いところで干すようにしよう。

関根教授は「体臭は誰もが持っているので過剰反応する必要はないですが、心身の調子が良くないことを伝えるサインとなっていることもあります」と話す。いつもと比べて明らかに臭いを感じたり、体調不良が重なったりした場合は、病院での受診も考えてほしいという。

においは人間関係にも影響してくる。ストレスや疲れ、食生活の乱れを感じているなら、リラックスする時間を作り、腸内環境を整えてみるといいかもしれない。

関根嘉香
東海大学理学部化学科教授。専門は室内環境学、皮膚ガス学で、アジアの大気環境やシックハウス症候群の予防・改善などを研究。人間から放出される「皮膚ガス」と健康状態の関連を研究している、においのエキスパートでもある。これまでに環境化学技術賞(日本環境化学会)などを受賞。著書に『皮膚ガスのはなし 体臭は心と体のメッセージ』(朝倉書店)などがある。

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