しっかり洗っているのになぜ?全身から漂う“おしっこの臭い”は「疲労臭」かも…セルフチェック法と5つの発生要因

仕事や家事で忙しい日々、理不尽なトラブルなど、現代は「ストレスや疲れ」にあふれている。我慢してため込む人もいるだろうが、精神的にだけではなく実は体にも良くない。自分では気づいていないかもしれないが、例えば体臭の原因となっている場合もあるのだ。

「男女問わず、ツーンとしたおしっこのようなにおいが、体から『疲労臭』として出てくることがあります」

こう指摘するのは、におい研究のエキスパートとして知られる、東海大学理学部化学科の関根嘉香教授だ。この疲労臭は厄介で、シャワーを浴びたり、体を洗っても残ってしまうという。

自分のにおいは気になるものだが、それが“おしっこ臭い”ならさらに心配だ。職場の同僚やママ友・パパ友と話している時にも臭っているかもしれない。なぜ、ストレスや疲れでにおいが出てしまうのか。発生のメカニズムやセルフチェックの方法を関根教授に聞いた。

疲労臭の正体は「アンモニア」

おしっこのようなにおいがなぜ体から出てしまうのかというと、人体の仕組みが関係してくるという。日々、当たり前のように行っているが、私たち人間は食べたものを消化・吸収し、栄養を取り込みながら生きている。タンパク質も大切な栄養のひとつだが、腸内で分解する際に作られるのが「アンモニア」なのだ。

このアンモニアは鼻につくような刺激臭を持っているが、普段は肝臓で「尿素」に変わり、おしっこと一緒に排出されている。しかし、肝臓が疲れて働きが悪くなったり、ストレスや筋肉疲労でアンモニアの産生が増えると、一部が体内に残ってしまうことがある。

そうして“残ったアンモニア”はどこに行くのか。答えはなんと血液。体中の血管をめぐりつつ皮膚からガスとなって放出されるという。これが疲労臭の正体となる。

「アンモニア臭は誰もが若干は出ているのですが、血中のアンモニア濃度が高まると放出されやすくなり、周囲ににおいが伝わってしまうんですね」(以下、関根教授)

血中からにおいが染み出ている状態

これだけでも嫌な感じだが、さらに厄介なのが対処の難しさだ。人間からは「皮膚ガス」という“においのもと”になるガスが出ていて、出所は3パターンに分けられるという。

・表面反応由来(皮膚の表面からガスが出る。皮膚表面の菌や皮脂が原因)
・皮膚腺由来(皮膚の内部にある汗腺や脂腺からガスが出る。汗腺や脂腺が原因)
・血液由来(血液が揮発してガスが出る。血液の状態が原因)

そして疲労臭は、このうちの「血液由来」に含まれる。皮膚表面の菌や皮脂に原因があるわけではないので、体を洗っても根本的な解決にはならないというわけだ。

関根教授は「私たちの汗は血液から作られていますので、汗をかきやすいところは特ににおうこともあります」と話す。いうなれば、血液からにおいが染み出ている状態だという。

メンタルや食生活…発生の5大要因

自分から“おしっこのようなにおい”が漂うのは避けたいところだが、疲労臭はどんな時に出るのか。

1.緊張などの精神的な「ストレス」
2.運動や肉体労働による「筋肉の疲労」
3.タンパク質に「偏った食事」
4.飲酒などによる「肝機能の低下」
5.便秘などでの「腸内環境の悪化」

関根教授によれば、これらが主な発生要因だ。血液中のアンモニア濃度は、緊張や不安で自律神経が乱れたり、筋肉に負荷をかけるような行動をしたりすると高まりやすいという。

「特に注意してほしいのはストレスです。理由は分かっていないのですが、皮膚からのアンモニア放出量を調べたところ、筋肉の疲労は運動や作業が終わると下がりやすいのですが、ストレスでは減り方がゆるやか(においが収まりにくい)な傾向にありました」

タンパク質の摂りすぎ、お酒の飲みすぎなど、食生活の乱れも良くない。腸内で作られるアンモニアの量が増えたり、肝機能が低下したりして、体内に残りやすくなってしまうという。

においは「足」でチェックできる

そんな悩ましい疲労臭は性別や年齢に関係なく出てしまうとのこと。自分のにおいは気づきにくいが、疲労臭はチェックできるのだろうか。

関根教授に聞くと、アンモニア臭は全身から漂っているが「足」に出やすい。特に足の裏にある「母指球」(親指の付け根にあるふくらみ)や踵は、体重がかかって汗もかくため、においやすいという。そこで、お風呂あがりに足の裏を嗅いでみよう。

「靴を履いて蒸れたにおいは洗えば落ちますが、疲労臭は落ちにくいです。お風呂に入り、足を洗ってもツーンと臭うのであれば、疲労臭を疑うべきかもしれません」

自分から疲労臭が出ているかもしれないと思ったら、どうすればいいのか。後編記事では身近にできる予防策のポイント、臭いが出てしまった時の対処法を中心にお伝えする。

関根嘉香
東海大学理学部化学科教授。専門は室内環境学、皮膚ガス学で、アジアの大気環境やシックハウス症候群の予防・改善などを研究。人間から放出される「皮膚ガス」と健康状態の関連を研究している、においのエキスパートでもある。これまでに環境化学技術賞(日本環境化学会)などを受賞。著書に『皮膚ガスのはなし 体臭は心と体のメッセージ』(朝倉書店)などがある。

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