【社説】沖縄米兵の事件 許されぬ性犯罪の「隠蔽」

沖縄県で在沖縄米兵による性的暴行事件が、相次いで起きていたことが明らかになった。被害者の尊厳を踏みにじる蛮行に怒りを禁じ得ない。

那覇地検が3月、不同意性交などの罪で米空軍の男を起訴していたことが6月に判明した。昨年12月に16歳未満の少女を車で誘拐し、自宅に連れ込み同意なくわいせつな行為をしたとされる。

これとは別に5月、女性に性的暴行をしようとけがをさせたとして、不同意性交致傷の疑いで海兵隊の男が逮捕され、6月に那覇地検が起訴していたことも分かった。

1995年の少女暴行事件や2016年の女性殺害事件をはじめ、在沖縄米兵が性犯罪を起こすたびに県民は抗議の声を上げてきた。

にもかかわらず、事件はいまだ絶えない。米軍の綱紀粛正は実効性を伴っていない。隊員教育など再発防止策の徹底を強く求める。

米兵の身勝手な振る舞いの背景に、日米地位協定があるのは明らかだ。米側に特権的な法的地位を与え、日本の捜査権は制限されている。

日本政府は抜本的見直しを米政府に厳しい姿勢で働きかけるべきだ。問題の根本にある米軍基地の整理縮小にも取り組まなければならない。

今回はさらに深刻な問題がある。捜査機関と外務省は二つの事件を公表せず、県にも伝えなかった。県民は地元メディアの報道で知った。

米兵による事件は県民にとって重大な問題であり、公表されて当然だ。しかも性犯罪という凶悪事件である。

県民への公表を怠った日本政府や捜査機関の対応は許し難い。県民と同様に報道を通して知った玉城(たまき)デニー知事も「信頼関係において著しく不信を招くものでしかない」と非難した。

米兵による重大事件・事故について、日米両政府は「迅速に現地の関係当局へ通報する」と合意している。米側から連絡を受けた日本政府が、防衛省沖縄防衛局を通じて県に通報する仕組みだ。

林芳正官房長官は、被害者の名誉やプライバシーを考慮して県に通報しなかったと釈明した。沖縄県警が公表しなかった理由も同じだ。

むろん個人情報の保護は重要で、公表による二次被害を防ぐ必要がある。しかし最大限配慮した上で県民と情報共有することは可能なはずだ。

性犯罪は被害者が声を上げにくく、それにつけ込んで事実が隠される恐れをはらむ。昨年12月の事件が速やかに公表されていれば、注意喚起によって5月の事件は防げたかもしれない。

二つの事件の発生から表面化するまでの間に、日米首脳会談や沖縄県議選があった。政治日程への影響を考慮して隠蔽(いんぺい)したと疑われても仕方あるまい。

林官房長官は情報共有の在り方を検討するという。まずは今回の経緯を検証し、国民に説明すべきだ。

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