スコープ・学校改革/串本・橋杭小統合新校(和歌山・串本町)、ゾーニング抜本見直し

本州最南端の和歌山県串本町で、国内最先端の学校づくりが進んでいる。コンセプトは「つながる学校」。学校施設で一般的な普通教室や図書室といったゾーニングを根本から見直し、地域の活動拠点としての利用も見据えながら新たな空間分けを練り上げた。それぞれの空間を有機的につなげ、児童が興味関心に基づいて自発的に活動したり、学年を越えて交流したりできる校舎に仕上げる。少子化に応じた新しい学び方や施設の在り方を模索する上で、ヒントになりそうだ。
建物は高台の造成地(串本、鬮〈くじ〉野川〈敷地面積2万6793平方メートル〉)に建設する。既存の串本、橋杭両小学校は低地に立地し老朽化も進行。南海トラフ地震による津波災害を見据え、高台移転と統合を同時に目指すことにした。コンセプトの検討は文部科学省の2022年度「新しい時代の学びの環境整備先導的開発事業」に採択され、外部有識者を交えて議論を重ねた。
児童の個性に沿った積極的な学びを促すため、既存の学校で採用している部屋割りを抜本的に見直した。児童や教職員のほか、地域住民の活動拠点としての利用も想定。多用途での利用を見越し、空間を大きく六つの「コモンズ」に整理した。
敷地には普通教室に多目的スペースを合わせた「チーム・コモンズ」を3棟建設する。3棟の西側に、図書室や食堂の機能を持つ「ラーニング・コモンズ」を整備。図工室や音楽室といった特別教室は「STEAM(スチーム)コモンズ」として自由に利用しやすい形にし、ラーニング・コモンズの隣に配置する。
特別支援学級が入る「特別支援コモンズ」や体育館「体育コモンズ」、職員室「教職員コモンズ」も設ける。各コモンズは中庭を囲むように渡り廊下でつながる。
普通教室が入るチーム・コモンズは校庭に面して3棟が並ぶ。高い天井高を確保し、採光窓も設けて開放的な空間にしている。1棟当たり2学年が入り、児童の机は校庭に面した窓際に配置。両学年の間にあるワークスペースを共有したり、教師が必要に応じて自由に行き来したりできる。
図書室のあるラーニング・コモンズには最大1・5万冊を納める書庫や150席のカフェテリアを設ける。ステージもあり学習発表や地域活動などに利用できる。グループワークや映像の撮影などが可能な環境も整える。
従来の特別教室の機能を集めたSTEAMコモンズは、大きく▽キッチンスタジオ▽シアター▽ラボ▽アトリエ-といった区画に分かれ、調理実習や音楽、理科、図工などの授業に使う。中心にある「ギャラリー」を通じて、一体的な利用が可能。児童には教科の枠にとらわれずさまざまな道具に触れ、想像力を養ってもらう。
教育のDXにも力を注ぐ。文科省が推進する「GIGAスクール構想」に沿い、同町でも児童1人当たり1台の端末を導入済み。ただ既存校舎ではネットワーク環境に課題があり、最大限活用できていなかった。
新たな校舎には光回線や無線LANを導入し、どこでもインターネットに接続することができる。電子黒板やデジタルサイネージ、プロジェクターといった映像投影設備も取り入れ、情報共有やコミュニケーションに役立てる。
同町は南海トラフ地震が起きた場合、津波が地震後最短3分で到達すると予想されている。高台に建設する統合校は避難所としての利用も見込まれ、防災力の強化にも取り組む。体育コモンズは大アリーナと小アリーナ、ミーティング室などに分割。大アリーナに避難民を受け入れつつ、救護や更衣のためのスペースも確保する。防災備蓄倉庫や貯水タンクも備え、発災直後の生活を支える。
建物は全て木造平屋で総延べ4873平方メートルの規模。基本・実施設計は綜企画設計(東京都中央区)が担当し、23年度までに完了した。近く新築工事の入札を公告する予定だ。
少子化は特に都会と離れた地域で著しい。統合対象となる2校の児童数は22年度時点で計127人。統合校が開校する26年度には100人を割る見通しだ。
こうした中で同町は施設や教育の高付加価値化にかじを切った。県教育委員会も町内のロケット発射場と連携し、高校に宇宙専門コースを開設するなど人材育成に力を入れている。
新たな校舎で個性を培った若年世代が、未来の地域を支える活力になるか--。町の取り組みを見守りたい。

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