社内環境の改善ツールと注目の「サンクスカード」って何? 導入2社に活性化事例を聞いた

サンクスギフトのスマホ画面(イメージ)/(C)テイクアクション

多様な働き方が認められることは、社員にとって自由度が上がるメリットがある一方、社員同士の顔が見えにくくなって、ともするとコミュニケーションが悪くなる。そんな中、職場環境をよりよくするツールとして注目されているのが、サンクスカードだ。

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サンクスカードは、文字通り「ありがとう」の気持ちを送り合うコミュニケーションツール。紙のカードではなく、パソコンやスマホにアプリをダウンロードして利用する。

いつの時代も仕事で褒められると、うれしい。サービスの仕組みは至って単純だが、サンクスカードを利用することで従業員のモチベーションや帰属意識が上昇。生産性が向上したり、離職率が低下したりする効果が期待できるため、アプリを導入する企業が相次いでいる。

たとえば、SBI証券(カスタマーサービス部門)やライフネット生命では、そのサービスのひとつ「RECOG」を採用。離職率の減少や社内コミュニケーションの活性化に役立っている。

一方、2021年に品質不適切行為が発覚した三菱電機では、社内改革の一環で姫路地区の先進応用開発センターで「Unipos」を導入。不適切行為を生んだ大きな原因のひとつとして指摘された組織風土劣化を改善することに、このサービスが貢献。「ありがとう」を言えなかった社内のムードが一変し、言えるようになり、称賛文化が定着したという。

外食産業では、社員やアルバイトを含めて不規則なシフト勤務が広がっている。そうすると、店舗内はもちろん、店舗を超えてメンバーが一堂に会することは難しい。そんな業界的な課題を「TUNAG」で克服したのは、しゃぶしゃぶの木曽路や美登利寿司だ。このサービスによって、バラバラだった従業員がまとまり、ひいては業績が改善したそうだ。

コインを送る量=コミュニケーション量の指標

焼き肉など飲食店を展開するフレスカ(本社・岡山県)やアート引越センター(以下=アート、本社・大阪府)、新日本科学(本社・鹿児島県)は、同様のサービスのひとつ「サンクスギフト」を導入した。従業員はそれぞれのスマホにこのアプリをダウンロードし、気軽に写真やメッセージを投稿することで、社内の交流を図っている。

特徴は「ありがとうコイン」「努力コイン」など感謝の気持ちを示して称賛コインをプレゼントする機能が複数ある点。コインは就業の前と後などに送り、その獲得数はランキングで表示可能。フレスカではコイン獲得数上位者を表彰したり、社員評価の指標に店舗でのコインの活用を置くなどしている。コインを送る量は、コミュニケーションの量を表す指標でもある。

サンクスギフトを運営する「TakeAction」の成田靖也社長は学生時代に焼き肉チェーンの牛角でアルバイト。そこではサンクスカードが交換され、とても働きやすい職場環境だった。社内ムードがよかったことも要因なのだろう。牛角はフランチャイズとしては世界最速で1000店舗を達成した。そんな好ムードのアルバイト先から成田氏が就職したのは、ブラック企業だったという。

「企業の外付け人事部として採用コンサルタントをしていました。人材紹介会社としては、従業員が離職してくれた方が、採用機会が増加し、ビジネスになります。しかし、そこに後ろめたさを感じていました」(成田氏)

社員の離職は企業にとって損失だ。成田氏が続ける。

「一概には言えませんが、新卒の場合、一般に3年以内に退社すると、企業は採用費と教育費を合わせて1000万円がムダになるといわれています」

成田氏はブラック企業を退職。牛角時代のサンクスカードを思い出し、ビジネスにしようと起業した。今では医療や飲食など主にサービス業を中心に累計で約850社に導入され、それぞれの従業員を定着させるサービスを提供している。

社員の満足度が上がると料理の品質も向上

前出のフレスカは岡山や広島などで30の飲食店を展開。石井嘉明専務は「弊社の経営は、顧客満足度を上げることです」と語る。メディアは料理に関心を向けるが、同社は料理以上に顧客へのサービスを重視する。そのためには従業員の満足度を上げることが不可欠。店舗ごとに分断されているため、アルバイトを含めた全従業員への企業理念の浸透を目的としてサンクスギフトを導入した。

「従業員の満足度が上がると、キッチンやホールを含めて店舗全体の雰囲気がよくなります。そうするとホール担当は接客サービスを改善したり、キッチン担当は肉のカットを安定させたり、盛り付けをキレイにしたりして料理のクオリティーが上がるのです。『おいしかった』と料理をお召し上がりいただけるお客さまの姿をイメージして仕事をするのか、目の前の流れ作業として仕事をするのかでは、仕事の満足度も質もまったく異なります。ですから当社は従業員の満足度を上げることを特に重視するのです。昨今バイトテロが報じられますが、おそらく従業員としての満足度が低いことも要因でしょう」(石井氏)

従業員の満足度が高くて会社への好感度も高ければ、社員やアルバイトが知人や友人を誘うリファラル採用(口コミ採用)につながる。

同社のリファラル採用は、年間200人以上で、店舗によってはまったく広告費を使わずにアルバイト採用ができているところもあるという。その点が評価され、「働きがいのある会社ランキング2024」で6度目の小規模部門ベストカンパニー賞を受賞した。

■勤務中の投稿もOK、社員の見える化に貢献

アートでは、全国3ブロックに所属する従業員2400人にサンクスギフトを導入。利用料は1人当たり毎月定額課金でトータルすると少なくないコストだが、山田一寿・東京ブロック長が言う。

「スマホひとつで手軽に社員全員がお互いの顔が見えて、タイムリーな情報共有が可能になったことがメリットです」

これまでブロック内のチーム間では、情報共有ができていたが、ブロック外ではできていなかった。引っ越し会社の仕事柄、社員は毎日、新しい現場を飛び回るため、横のつながりが生まれにくかった。

「『サンクスギフト』導入後は、社員の活動が投稿され、これまでつながらなかった人の姿が見えるようになりました」(山田氏)

同社では就業時間中のSNSは全面的に禁止。顧客の写真がSNSなどに投稿されたり、社内情報の漏洩を防ぐためだ。しかし、サンクスギフトに限っては、就業時間中でも完全に自由。グルメや旅行などプライベートな投稿もOKだという。

「若手社員はSNSを日常的に使うのが当たり前です。それが勤務時間中に可能になった効果はかなり大きい」(山田氏) 同社は毎年、北大阪支店で「引越技術コンテスト」を開催。全国から1000人近い有志が集まるビッグイベント。このような「楽しむ」社風も、「サンクスギフト」を使って広げたいそうだ。

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こうしてみると、サンクスカードのメリットは計り知れない。まだ利用していない企業も、導入を検討してはどうか。

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