機能や能力が低下したときは何を「評価」すればいいのか?【正解のリハビリ、最善の介護】

「ねりま健育会病院」院長の酒向正春氏(C)日刊ゲンダイ

【正解のリハビリ、最善の介護】#35

「攻めのリハビリ」を実践して人間力の回復を進めるためには、患者が現在どのような状態なのかを把握する「評価」が欠かせません。

では、脳卒中や脳外傷などの脳血管疾患、運動器疾患、廃用症候群、そして超高齢者の状態はどのように評価するのでしょうか。詳細にミクロ的に評価するのか、全体的にマクロ的に評価するのか。じつはその両方の視点が必要で、とくにリハビリ専門医はミクロ的にそれぞれの病態を評価する力量が必要です。その上で、今回は本人と家族を含めた治療チーム全体で患者の人間力を回復するために、全員が共有すべき最低限の評価について説明します。

その評価の項目は、①意識面②運動面③日常生活動作(ADL)面④高次脳機能面⑤言語面⑥嚥下面⑦精神面の7項目です。

すべての患者に対し、この7項目を評価して把握できれば、患者は現在どのような状態にあり、今後どのくらいまでの回復が目指せるかが明らかになるのです。

①意識面は、「患者の意識が清明かどうか」を見ます。「ジャパンコーマスケール(JCS)」という指標を用いて、0、1、2、3、10、20、30、100、200、300の10段階で評価します。意識清明は0で、開眼していれば1桁です。閉眼していても、刺激によって開眼できれば2桁になります。刺激で開眼できなければ3桁で、どんな刺激にも反応がないと300の評価になります。リハビリでは、もちろんすべての患者で意識レベルを向上して能力の回復を目指します。

②運動面は、まず「麻痺があるかどうか」の評価が必要です。麻痺の程度は「ブルンストロームステージ(BRS)」という指標で評価します。上肢、手指、下肢を6段階で評価し、軽症はⅥとV、中等症はⅣとⅢ、重症はⅡとⅠになり、麻痺が軽快するほど能力が向上します。

運動面では筋力が重要です。その評価には握力が簡単で、15キロ以下では転倒が増えます。女性では25キロ以上、男性なら40キロ以上が望まれます。同じく体のバランスは「バーグバランススケール(BBS)」で評価します。56点満点で40点未満では転倒が増えます。

歩行スピードの評価も大切で、「10メートル歩行テスト(10mG)」を行います。10メートルを10秒以内で歩けると、横断歩道が長くても青信号で歩いて渡り切ることができます。体力は「6分間歩行テスト(6MD)」で評価します。6分間で400メートル以上歩けるなら、正常な体力があると判断できます。

関節可動域は、肩、肘、手、股、膝、足関節の可動域に制限があるかどうかについて角度を見て評価します。また、筋肉の緊張が高まる「痙性亢進」の状態ではすべての運動や活動が難しくなるため、「モディファイドアシュワーススケール(MAS)」で評価します。0~4点の6段階(1+あり)で、0が正常、緊張が重度になると4点です。痙性亢進を予防して治療するのがリハビリ療法士の腕になります。

③ADL面は、これまでの当連載で説明した「FIM」と「バーセルインデックス(BI)」という指標で評価します。FIMは「機能的自立度=しているADL」の評価ですから、その人の覚醒状態や認知機能に影響されます。一方、BIはその人の「できる能力」の評価になります。取り組んでいるリハビリが適切に効果を出しているかどうか、リハビリ訓練に修正が必要なのかどうかなどを確認できるため、いずれも重要な指標になります。

FIMは「セルフケア」(13項目)と「交流・社会的認知」(5項目)について、18~126点で評価し、自宅退院の目安は90点以上です。

BIは食事やトイレ、入浴など10項目について0~100点で評価し、自宅退院の目安は80点以上になります。

次回は残りの4項目の評価についてお話しします。

(酒向正春/ねりま健育会病院院長)

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