<試写室>『新宿野戦病院』宮藤官九郎らしい“面白さ”と“人間らしさ”が詰まった脚本×河毛俊作監督の“色”が存分に加わり新鮮!!

【写真】『新宿野戦病院』のシーン

<試写室>『新宿野戦病院』第1話

もう端(はな)からお腹がいっぱい!!

フジテレビで宮藤官九郎脚本なの!!!?ってもうその時点で、期待値で、お腹がいっぱい!!だというのに、あの、宮藤官九郎さんが、まさかの医療ドラマ!?ってことで大混乱だし、なおかつ舞台は、“新宿歌舞伎町”ってんで、それって宮藤さんの連ドラデビュー作である『池袋ウエストゲートパーク』(2000年/TBS)にも通じる何かがありそうだし(何かって何?)、加えて僕、今作同様の布陣、フジテレビ×宮藤官九郎脚本×河毛俊作監督の『ロケット・ボーイ』(2001年)が、宮藤さんドラマの中で二番目に好きだし(順番とかつけてしまって大変失礼なんですが、一番は『あまちゃん』なのです)、もうすでに、“宮藤官九郎さん”ってだけで、並のドラマ以上に(並のドラマ言うな!)、期待値は軽く超えてきちゃってんのに、なんていうか、もう、さまざまな“要素”が、あとからあとからくっつきまくっちゃって、“要素”だらけで、逆に心配になってくる…。

ホントは、期待値は高いはずなのに、期待値が高すぎるからこそ、逆につまらなかったらどうしようみたいな。そのときの自分の保険用に、勝手に自分が、“要素”を探し出しちゃって、勝手に自ら“要素”地獄に陥っちゃって、見る前から、謎に、心配で心配で仕方がなくなってしまっている…。

で、さらにさらに、前作の宮藤さん脚本ドラマといえば『不適切にもほどがある!』(2024年/TBS)で、あのドラマはある意味、宮藤さん流の“風刺”でもあったわけだから、今回は、“新宿歌舞伎町”という混沌とした街を舞台に、ダイバーシティを描いてみせる…少し“社会派”な一面も出しちゃったりするのかもしれない…。

あぁ、またしても、そんな“要素”を発見してしまった…。で、で、で、そのうえで、あらすじを見てみたら、主人公の一人、小池栄子さんが演じるのは、アメリカ国籍の元軍医である、ヨウコ・ニシ・フリーマン…。

うん、もう、オーマイガー!!!!!(急に)

だって、フジテレビ×宮藤官九郎脚本×医療モノ×歌舞伎町×河毛俊作演出×多様性×ヨウコ・ニシ・フリーマンってさ、要素が多過ぎる!!!

最初の期待値よりも、“要素”の方を自分が勝手に気にし過ぎちゃって、逆の逆の逆に(!?)、なんだか、とてつもなく、心配になってくる!!!

そしてそれはつまり、見なければいけない、“オモシロ”とされる、注目ポイントが、多すぎて、視点が散らばっちゃって、普通に、ドラマとして、エンタテインメントとして、楽しめない!?自分、楽しめない?!んじゃないか!?

僕みたいな、頭でっかちの、“要素”を探しがちの、“ドラマ要素ガチ勢”(意味わからん)の、僕が、このドラマ、楽しめない!?と、このドラマを見る前から、悶々と、一人で、勝手に、心配しておりましたが…。

うん、そうです…

まったくの杞憂(きゆう)でした♡(結局)

“フジテレビの医療ドラマ”の新しさを考えてみる

っというわけで、僕、一応、宮藤官九郎世代ですし(『池袋ウエストゲートパーク』も『木更津キャッツアイ』も青春時代の高校生だったし!)、人並み程度には、宮藤さんのドラマは一通り、見てはいる…つもり…なんですが、“宮藤官九郎作品”とはなんぞや!?という視点で語って勝てる自信はないので(誰に!?)、『新宿野戦病院』が、“フジテレビの医療ドラマ”として、どう語れるか?で勝負してみたいと思います!(勝負!?)

僕が思う、“面白い医療ドラマ”、それは、“新しさ”にあると思います。なぜなら、ドラマ好きの方なら当然ご存じ、医療ドラマは、毎年数多の作品が作られていて、だからこそ、“新しさ”がなければ、視聴者の琴線には触れない=面白くない、からです。

そこで、フジテレビにおける、医療ドラマの歴史を振り返ってみると、そのパイオニアは『救命病棟24時』(1999年~2013年まで5シリーズ制作)でしょう。

なぜなら、“天才医師”が主人公というその後の医療ドラマの基本ともいえるフォーマットができあがっていったのはもちろんのこと、今作から劇的な進化を見せたのが“映像”です。

この作品は、本物さながらのリアルなセットを組んで撮影し、これを境に画的にも本格志向な“医療ドラマ”が増加していきました。だもんでこれが、日本の医療ドラマの“新しさ”の原点といっていいでしょう。

また『白い巨塔』(2003年)は、原作ありのリメイク作とはいえ、医療ドラマに“権力闘争”の構図が加わったことが新しく、『Dr.コト―診療所』(2003年~2006年までに2シリーズ制作され、2022年に映画化)は、島民たちとの人間ドラマも交えた点も新鮮でしたが、それまでの医療ドラマには見られなかった“大自然”が新しさでした。

そして『コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-』(2008年~2017年まで3シリーズ制作され、2018年に映画化)は、まさに“ドクターヘリ”という当時の最先端医療と、群像劇をかけ合わせた点が新しく、変化球でいうと、『医龍』(2006年~2014年まで4シリーズ制作)は、それまではほとんど映し出されることのなかった手術シーンの詳細(内臓まで)を、つまびらかに映し出す視点が新しく、直近の『PICU 小児集中治療室』(2022年~)は、天才ではない若い医師の成長とホームドラマを融合させた点が新しかったり…と、特に、フジテレビが作ってきた医療ドラマはどれも“新しさ”が満載で、だからこそ、名作が多いとされているのです。

伏線回収をしたことによって、このドラマのテーマが浮かび上がってくる

では、この『新宿野戦病院』のどこに“新しさ”があるのか?

それは当然、宮藤官九郎さん脚本で、 “医療”のイメージとまったく結びつかない“新宿歌舞伎町”という舞台、その時点で、もうすでに、“新しい”わけですが、それ以外に、個人的に挙げたいのが、“天才ではない!?医師の造形”と、“笑える手術シーン”です。

うん、いやいや、天才ではない!?医師とか、その時点で、ちっとも新しくないじゃん?とお思いでしょうが。安心してください。『新宿野戦病院』は、そこから巧みに、もっともっとひねってきます。

このドラマのもう一人の主人公、仲野太賀さん演じる高峰享が、美容皮膚科医で、今回の“野戦病院”=外科医ではなく、ちっとも役に立たないという点でもひねりは加わりますが、 “医療ドラマ”という視点に立ったときに、もっと巧みな“新しさ”を感じるのが、ヨウコ・ニシ・フリーマンの造形です。

片言の日本語(しかも岡山弁)というキャラにももちろん“新しさ”は垣間見えるんですが、キャラクターの外見上の特徴だけでなく、これまでの“医療ドラマ”には決してなかった、“手術の処置方法(とその後)”が斬新すぎて“新しく”、そしてそこに、宮藤さんらしい“面白さ”と“人間らしさ”が詰まっているのだから巧みなんです。はたして、その“新しさ”とは何か、必見です。

そしてもう一つの“新しさ”が、“笑える手術シーン”。もちろん宮藤さん脚本なので、笑えないと宮藤官九郎作品ではなくなってしまうわけなんですが、だからといって、手術シーンは特に茶化せないし、間違えられません。

そこに笑いを入れてしまったら、医療をバカにしているようにも見えちゃうからです。だけどだけど、そんな“手術シーン”をも“笑い”に変えようと果敢に挑戦し、成功させてしまう、さすがの脚本。

緊張感と笑いの均衡を保ちながら、だけどギリギリ笑い優位で攻めつつ、いいのかな?笑っていいのかな?という、こちら側の緊張感が若干勝りつつも、とはいえ、面白すぎて、案の定、笑ってしまう、ちゃんと、“笑える手術シーン”に昇華させてしまうのです。

で、驚きなのが、その後。前半にある“笑っていいのかな?”という若干の疑問すら伏線になっていて、後半ではそれを見事に回収していく展開が見事です。そしてそれは、作劇的な巧さだけでなく、伏線回収をしたことによって、このドラマのテーマが浮かび上がってくる…という構造に驚愕します。

河毛俊作監督の真骨頂でもある“ドライ”な演出がカッコいい

そしてこの作品の“色”は宮藤さんだけではなく、演出を手がける河毛俊作監督の“色”も存分に加わっているので、より新鮮に感じられます。

それは、河毛監督の真骨頂でもある“ドライ”な演出です。どんなに感動的なシーンでも、一切 “泣き”=“ウェット”な演出へもっていかない、常に“ドライ”な演出を施すのが河毛監督で、だからこそ、めちゃくちゃカッコいいドラマに仕上がるのです。

感動的な場面というのは、得てして扇情的な音楽をかけたりと、ウェットな演出へともっていきがちですが、それを前面に出し過ぎてしまうと、見ている側は冷めてしまいます。

実際今回も、後半ではかなり深刻で悲しい展開も待ち受けていて、ありがりな“人情ドラマ”へと傾きそうになってもおかしくないのに、あえてハズした視点とBGMで、冷静でありつつも克明に演出し、それが喜劇と悲劇が表裏一体だということを表現しているようなのです。

そんな、視聴者に考えさせる余白を作ってくれる河毛監督の“ドライな演出”。そこにも注目してみましょう。

心配だった“要素”の多さが見事に重なったり、逆に混沌になって色が出たりと、とにかく新しい宮藤官九郎ドラマかつ、医療ドラマが見れること、間違いなしです!

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