川崎の新たな大器・高井幸大。パリ五輪を見据える俊英CBが垣間見せた素顔と中村憲剛を“怖い”と語った理由【インタビュー前編】

川崎の次世代を担うCBの大器である。2022年2月、川崎U―18時代に宮代大聖(現・神戸)に次ぐクラブ史上2人目となる高校生でのプロ契約を交わし、2023年にはU-20ワールドカップに出場。そして川崎で伝統の2番を継承した今季は大岩ジャパンのU23アジアカップ優勝にチーム最年少ながら貢献し、パリ五輪のメンバー入りまであと一歩のところまできた。

192センチ・90キロと恵まれた体格と、川崎らしい足もとの技術、スピードなどを併せ持つ19歳の若者は、今、どんな想いを抱えているのか。なかなか自分のことを語ってくれない今時の選手であるが、その胸の内、歩みに迫った。

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いわゆる記者泣かせの選手である。

「分からないです」「そうだと思います」と、はぐらかされるのは日常茶飯事で、なかなかその心の深淵を覗かせてくれない。

もっとも今回、偶然にも、素の部分を垣間見た気がした。

インタビューの途中、ドアを叩く音ともに顔を出したのはクラブのレジェンドである中村憲剛だった。大先輩の姿を見て高井の緊張の色が増す。“ケンゴさん”と対峙するとすべてを見透かされているような気になるのだという。

「ケンゴさんと話していると探られているなと感じるんです。僕は頭が悪いので(笑)、どうしようと思っちゃう。だからケンゴさんと話すのは“怖い”んです。自分の薄い考えが見透かされちゃいそうで。どう答えるべきかいつも考えながら話しています。でもアカデミー時代はいろいろアドバイスをしていただきました」

言ってもまだ19歳だ。多感な時期を過ごしている彼は、自らのポテンシャルを信じる心と、人間として未完成な部分に折り合いを付けながら、メディア陣に対しても弱みを決して見せぬよう、プロの世界を戦っているのかもしれない。

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もっとも昨季、2023年に18歳でルヴァンカップの浦和戦(4月5日/△0-0)でプロ初の先発出場を果たし、続くリーグ戦の名古屋戦(4月15日/●1-2)でもスタメンを掴んだ際の感想は頼もしい。

「トップチームの練習に最初に参加したころは緊張しましたが、浦和との試合に出て、意外にできるなと、普通にできるなと。そこから自信を持ってやれるようになりました」

そしてこう続ける。

「やれないと思ったことはありません」

なんとも心強い言葉である。

それでも2022年に高校生として学業とプロ生活を両立させ(ACLでデビュー)、実質的に高卒1年目だった2023年は様々な気付きの詰まったシーズンにもなった。何より心に刻んだのは準備の大切さである。それこそ彼の周りには模範となる経験豊富な選手たちがいた。

そのうちのひとりであるCB山村和也(現・横浜/34歳)の姿にも目を奪われた。どちらかというと試合出場の機会は限られた山村だが、何か起こった時にはすぐにピッチに立てる状態を常にキープしていた。

「どんな時も良い準備をしなくてはいけないですし、いつスタメンになるか分からないので、その心構えが大切だなと。実際に自分も試合に出られたり、出られなかったりを繰り返しましたが、(2023年は)プロとしての大切さを知ったシーズンでした。

チームを見ていてもいろんな選手が、ベテランの人でもベンチ外になったりしていますし、そういう時の練習の姿勢を見て、長くプロとしてプレーしている理由があるとめちゃくちゃ感じました。自分もやんなくちゃなと。ヤマくん(山村)のこともすごくお手本にしていました」

さらに鬼木達監督も「今まで指導してきた選手で誰よりも準備を怠らない」と評すチーム内で日本人選手最年長の家長昭博(38歳)の後ろにも全体練習を終えたあとの個別メニューでくっつき、表には決して見せないが、身体の強化に取り組んでいるという。

2023年の個人のリーグ戦成績は14試合(1222分)・0得点。22節のG大阪戦(8月6日/●3-4)では自身のバックパスを奪われて失点する悔しき経験もあった。シーズン終盤には出番を失い、チームが天皇杯を制す姿をスタンドから見守った。改めて2023年は紆余曲折がありつつ、様々なことを学んだシーズンであったと言えるのだろう。

「ガンバ戦はミスから失点して、自分のところで勝点を落とした。もっと変わらないといけないと思いました。次の練習からしっかり切り替えましたが、もっとやらなくちゃいけないと実感しました。

(天皇杯の優勝は)素直に嬉しかったですよ。出られなくて悔しかったですが、それが自分の現在地だなと。だからチームの優勝を喜んでいました。先輩たちの凄さ? そうですね、その背中からいろいろ感じるものがありました」

年代別の日本代表としては春先のU-20ワールドカップに出場し、その後はパリ五輪出場を目指していた大岩ジャパン入りも果たした。本人は「悪くはなかったと思います」とこれまた気のない返事をするが、2023年は様々な意味で充実したシーズンと呼べたのだろう。

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濃密な1年を経て迎えたパリ五輪イヤーである2024年。19歳の高井はひとつの目標を立てた。

「チームの中心になる」

誰かにアドバイスをされたわけでなく、オフ期間に特別なキッカケがあったわけでもない。自然と湧き上がった想いだった。常にピッチに立ち、チームを勝たせる存在になる――。自らの立場を見極め、大きな責任感が芽生えた瞬間だったのかもしれない。

背番号もかつて伊藤宏樹(現・川崎強化部)、登里享平(現C大阪)らが背負った伝統の2番を継承した。

登里からは電話をもらい、先輩の言葉をありがたく受け取っていたつもりだが、「マジメに聞け(笑)」とツッコまれたというのが、なんとも高井らしいエピソードだが、誰からも愛され、期待をかけられる彼の現在地が垣間見えるシーンでもあったのだろう。
ただし、強い意気込みの反面、2024年はまたも浮き沈みの激しい歩みを見せている。

リーグ開幕前のACLラウンド16では、クラブとして大会制覇を悲願としていたが、中国の山東泰山に2試合のトータルスコアでまさかの逆転負け。高井は第2戦の試合終了間際の出場にとどまり、「正直出たかった」と悔しさを募らせた。

一方で昨季のリーグ王者・神戸との富士フイルムスーパーカップでは「いつも通りやれば良いと考えていた」と先発し、エースの大迫勇也らを抑え、勝利に(〇1-0)貢献。リーグ開幕の湘南戦でも先発し、力強いディフェンスで、ACL敗退のショックから立ち直ろうとするチームを後押しした(〇2-1)。

しかし好事魔多しと言うべきなのか。続く2節の磐田戦は自身のミスもあってチームは大量失点(●4-5)で敗戦。春先のパリ五輪出場を懸けたU23アジアカップでは優勝に大きく寄与したが、川崎で先発復帰を果たした14節の鳥栖戦ではCKから嬉しいJリーグ初ゴールをヘッドで決めたものの、またも連続失点(●2-5)を食い止めることができなかった。

課題は明確である。

「大体、僕が悪い時はポジショニングに問題がある。(修正には)それ(映像を見る)しかないと思います。だから嫌ですけど見返していますね」

その点では鬼木達監督は、前述の鳥栖戦の練習のあとで、こうも評していた。

「今日も(試合の)振り返りの映像なかで彼(高井)が一番出てきたんじゃないかなと(笑)。そういうものになってしまいましたが、ひとつは大きな大会(U23アジアカップ)から帰ってきた時にトレーニングのなかで、本人とも話しましたが、フワフワしてしまっている部分もあったと思いますが、ひとつ成長としては(鳥栖戦の)ああいうセットプレーでゴールを取れたこと。これまでは触ることはできていたけど、ゴールには結びついていなかった。触ったボールを枠にしっかり飛ばせるようになったことは良かった面です。

ただ、今季のキャンプの時から言い続けているポジションの取り方と言いますか、準備をしなくてはいけないところはまだまだ彼の課題だと感じますし、サボっているわけではなく、やっぱり気付きだと思うんですね。それを気付かせ、認識できるかというところになってくると思います。

本人のポテンシャルは非常に高いものがありますし、あの身体の大きさであれだけスピードがあって、アジリティがあってというのは、なかなかいない選手。でもサッカーはそれ以外の準備のところで大きく差が出ますし、そこのところをしっかり学んでいってほしい。1試合の重みっていうんですかね、そこは若い選手は感じながら成長していくことが重要です。今まで代表に飛び立っていったような選手も、失敗をしながら成長していったので、昨年の守備ラインから今季は顔ぶれが変わっているなかで、誰がリーダーとしてやってやろうという気持ちを出していけるかが重要で、そこに期待しながら見ていきたいです」

名伯楽も認めるポテンシャル。改めてその才能は間違いないが、ここからもうワンランク上に行けるかは、彼の意識にも関わってくるのだろう。

後編へ続く

■プロフィール
たかい・こうた/2004年9月4日生まれ、神奈川県出身。192㌢・93㌔。リバーFC―川U-12―川崎U-15―川崎U-18―川崎。J1通算24試合・1得点。攻守で戦える川崎期待の大型CB。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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