『REON JACK5』柚希礼音、宝塚劇場ならではの“一気通貫の良さ”明かす「大変なときほど、後々になって思い返すと楽しかった」

柚希礼音 撮影/有坂政晴

歴史ある宝塚歌劇団において、6年にも渡りトップスターの座を務めた柚希礼音。その華のある男役の姿は、いまも語り継がれている。宝塚退団後は、ミュージカルやコンサートを中心に幅広い役柄に挑戦。ファンを魅了し続ける当代きってのスター、柚希礼音の人生の転機とは?

宝塚は、組ごとに異なる演目を、宝塚と東京の2か所の劇場で1か月半ほど上演する。トップである柚希さんは、日によっては1日2公演を主役として演じる。肉体的にも、精神的にも相当なプレッシャーがかかるに違いない。

「トップお披露目公演の途中で、いきなり何か不安になったんですよね……。“自分がメインの作品を、こんなにも多くの方々が見に来るはずがない”という、不安が押し寄せてきたんです。やっぱりトップでいた間も、“自分にこんなことができるなんて、おかしいな……”みたいな、不思議な気持ちになったりもしました」

宝塚のファンの間では、同じ公演を何度もリピートして観劇する熱心なファンも多い。柚希さんはどのような気持ちで、舞台に立っているのだろうか。

「私がトップを務めさせていただいたころ、ひとつの演目を昼夜も含めてすべて観劇される方もいました。入団したばかりのときは、(入団前に習っていた)バレエのように年に一度の発表会ではなく、毎日公演ができることがすごく嬉しかった。
ですが、それがだんだんと実感できなくなってくる。そうなると、毎日舞台に上がれるのがありがたいことだったはずなのに、なんとなく舞台をこなしてしまう日もあったりした。でもファンの方からいただいたお手紙を読んでいると、“入院中で、今日だけ外出許可をいただいて、家族に連れてきてもらいました”というお手紙もあったりしました。
“その方の人生にとっては、その公演が最初で最後の宝塚かもしれない。舞台から客席を見ると沢山の人がいるように見えるけれど、それぞれいろいろな事情の方がいらっしゃる”そう思うと、その1回の公演が私にとっての、いまのすべてでないといけない。自分がトップになって、メインを務めるようになってそういう意識に変わりました」

トップになって生まれた責任感と宝塚ならではの良さとは

何度も舞台を見たくなるのは、柚希さんのプロ意識の高さからくるのではないだろうか。一点の曇りのない言葉の数々に、柚希さんの覚悟を感じた。

「トップになるまでは周りから“ああしなさい、こうしなさい”と言われて一生懸命やってきた。それがトップになって、やっと責任感が芽生えたんです。自分がトップになったときに、未熟だったのがいちばん大きいと思います。トップがゴールではなかったから。
宝塚95周年のときに、周りから“100周年まで頑張りなさい”って言われていた。だから100周年までの5年間をかけて、よりいい組を目指して頑張りました。自分自身も、トップになってからどんどんと成長したって感じています」

惜しまれつつも、トップスターを6年務めて、宝塚を退団した。未練はなかったのだろうか。

「100周年を記念して、台湾公演や日本武道館でのコンサートなど、いろいろなことを経験させていただき、自分としては宝塚でできることはやりきった感がありました。でも100周年はいわゆるお祭りイヤーだったので、101周年を目指して、あとはみなさまへ感謝を返すつもりでした」

コンプレックスをバネに奮闘した日々

周りから見たら順風満帆に見える柚希さんのキャリアだが、本人はプレッシャーを抱えていた。しかし、それが舞台に立つうえでのバネになった。

「私が稽古を頑張ったのは、芝居も歌も全然できないというコンプレックスがあったから。稽古場でも、先輩方や先生から“こうした方が良い”とアドバイスを受けて、日々稽古をする感じでした。何から何まで周りから教わりながらやっていましたね」

仲間たちと切磋琢磨した宝塚の日々は、柚希さんの中で代えがたい思い出だ。

「宝塚は自分たちの劇場があって、衣装部からなにもかも同じ建物の中にあるので、“次は衣装合わせに行ってきます”って言った後に、“今度はカツラを合わせに行きます”って移動できるのが素晴らしかったです。当時は1日2公演など肉体的には大変でしたが、すごく楽しかったんですよ。退団してからも、宝塚のみんなとは”大変なときほど、後々になって思い返すと楽しかった“って話していますね」

親の勧めで受けた宝塚が人生の転機となった柚希さん。謙虚に努力したからこそ、周りが才能を認めていき協力していったのではないだろうか。撮影中の立ち振る舞いからも、かっこよさがにじみ出ていた。

柚希礼音(ゆずき・れおん)
大阪府出身。俳優。1999年85期生として宝塚に入団。初舞台後、星組に配属。新人公演や主演を重ね、‘09年に星組トップスターに就任。6年に渡りトップスターを務めた。’15年5月に退団後も、ミュージカルやコンサートなど精力的に活動。第30回松尾芸能新人賞、第65回文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞、第37回菊田一夫演劇賞を受賞。退団後の主な出演舞台に『COME FROM AWAY』、『LUPIN~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』『マタ・ハリ』など。‘24年8月には、今年で開催5回目を迎える『REON JACK5』の公演を控えている。

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