川崎・高井幸大が示すパリ五輪への決意。世界大会を“楽しむ”ポテンシャルと海外移籍への今の想い【インタビュー後編】

川崎の次世代を担う192センチ・90キロのCBの大器。川崎U-18に所属していた2022年に、宮代大聖(現・神戸)に次ぐクラブ史上ふたり目となる高校生でのプロ契約を締結し、実質高卒1年目であった2023年にはCBとしてポテンシャルの片鱗を見せ、今季は伝統の2番を継承。

将来を嘱望される19歳の高井幸大の胸の内、そしてここまでの歩みに迫るインタビューの後編では、開幕が迫るパリ五輪への想いなどを聞いた。

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「楽しかった」

そう言えるところに大物感が漂っている。

口数が少ない男は、アルゼンチンでの2023年のU-20ワールドカップ、今年4、5月にカタールで行なわれたU23アジアカップの感想を、そう話すのである。

グループリーグで敗退したU-20ワールドカップでは、冨樫剛一監督の下で右SBとして3試合に先発。そしてチーム最年少として参加した先のU23アジアカップでは主戦CBとして大岩剛監督率いるチームの優勝に大きく貢献し、日本として8大会連続出場となるパリ五輪の切符を掴んでみせた。

大会を通じて多くの課題も残ったはずで、特にU20ワールドカップでは大きな悔しさも味わった。もっともトータルで見れば、未知の国で日々を過ごし、データが限られるなか、Jリーグでは対戦できないような外国人アタッカーとマッチアップをする舞台に、喜びを感じたというのだ。

日の丸を背負う立場として、その言葉は一見、勘違いされてしまう部分もあるのかもしれない。しかし、どんな環境でも楽しんでこそ、自らの力を発揮できるもの。周囲からの期待、要望、プレッシャーを受け止めたうえで、川崎生まれの“攻撃好きCB”として、相手をあざ笑うかのようなボールの持ち出し、フィードを見せ、ディフェンス面では高さとスピードを活かしながら激しく守ってみせた。

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ビルドアップに関する考え方も彼ならではある。

「自信を持ってやっています。攻撃が好きなので、前進するひとつの方法として、自分の特長として意識していますね。基本は空いているところに出そうとしますが、相手が動かないなと思ったら、わざと短いパスを出して、相手をつり出してから、縦パスを入れたり、状況によって考えながらやっています。

でも、まず見るのはFW。FWの選手が動き出していると分かったら出しますし、リズムを作りたい時は中盤の選手とパス交換をしたりする」

かつてはFWで、幼少期に憧れたのはリオネル・メッシや、ズラタン・イブラヒモビッチ。そして何度も応援に通った等々力で釘付けになったのは、当時の川崎を代表するストライカー・鄭大世であった。

そうした選手たちのエッセンスを吸収しながら成長してきた、攻守に幅広く関われるCBとして、やはり彼のポテンシャルに多くの人が夢を抱いているはずである。

ちなみにまだ憧れの鄭大世らには会ったことがないと話し、「実際に目の前にしたらなんて話すだろう? メッシやイブラヒモビッチにもいつか会ってみたいですね」といたずらっぽく笑う。

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「ここまではある程度、思った通りに来ていると感じます。これまでもオリンピックには出たいと考えていましたが、現実として捉えられているわけではなかった。でも、今は現実的ですし、やはり出場したいです」

気持ちをあまり表に出さない彼であるが、五輪への想いは強い。

世界中が注目する大会で自らの力を試し、成長のための貴重な経験を積みたいとの願いを抱えているのだろう。

では、もしそのメンバーに選ばれた時にまず感謝を伝えたいのは? 気恥ずかしそうに答える。

「お母さんと言っておきましょう。ここまで育ててもらえましたから」

好きな言葉は「水滴石を穿つ」。小さな努力でも根気よく続けてやれば、最後には成功するという意味である。その真意を問えばまたはぐらかされてしまう。

「僕の歩み方とはまったく違うんですが、言葉として格好良いじゃないですか(笑)」

しかし、プロの厳しい環境に揉まれながら、継続する重要性を学んだ今、その言葉は彼にお似合いのようにも映る。決して努力を見せず、言葉にもしない。それでも「毎日もっと練習して成長することだけを考えて」と研鑽を積んでいく。

そしてさらなる飛躍も期待できるなか、周囲が気になるのは、近年、多くの若手が早いタイミングで決断する海外移籍への想いだろう。その点についてはこう語る。

「特にここに行きたいなど憧れはないです。ただ、サッカー選手として成長するためにいつか行ければ、今言えるのはそれくらいだと思います」

パリ五輪に向けては「まずは選ばれて充実した大会にしたい」という。

奇しくもインタビュー当日には、川崎の新入社員研修が行なわれ、鬼木達監督や中村憲剛らの話を聞きながら、若者たちが未来に想いを馳せていた。19歳の新たな芽もどう輝くのか、楽しみである。

前編はこちら

■プロフィール
たかい・こうた/2004年9月4日生まれ、神奈川県出身。192㌢・93㌔。リバーFC―川U-12―川崎U-15―川崎U-18―川崎。J1通算24試合・1得点。攻守で戦える川崎期待の大型CB。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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