【社説】三菱UFJ処分 法令順守の意識低すぎる

 これで日本を代表する金融グループと胸を張れるのか。

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)傘下の三菱UFJ銀行と系列の証券2社が、金融庁から業務改善命令を受けた。

 金融商品取引法に設けられている、銀行と証券の業務障壁「ファイアウオール」の規制違反が理由である。

 顧客の企業が拒んでいるのに、2021~23年に9社計10件の非公開情報を、銀行、証券の幹部も関わって無断共有していたというから驚いてしまう。

 身勝手な違反行為は言語道断だ。情報管理の徹底など再発防止策を求めたい。

 この規制は1993年、銀行と証券の相互参入が解禁された際に導入された。顧客企業の情報を多く握る銀行による、優越的地位の乱用を防ぐのが目的だった。その後に規制緩和が進み、情報共有は、法人の場合は顧客企業が拒まなければ可能になっている。

 ところが顧客企業が情報を系列証券に伝えないように求めていたにもかかわらず、三菱UFJ銀の当時の専務執行役員が系列証券の当時の副社長に情報提供していた。顧客企業が株式を売り出す際に系列証券が主幹事となり、グループ内で収益を確保する狙いだったとみられている。

 海外は法人対象のファイアウオール規制はない。系列証券を持つ日本の銀行からすれば「海外勢と競争できない」と不満もあったようだ。だからといって法を守らなくて良い理由にはならない。金融業界はとりわけ厳格な法令順守が求められているはずだ。

 私たち一般個人客の情報管理も大丈夫なのかと不安になる。法人とは違って個人の場合は事前同意がなければ情報共有はできない。だが、無視や軽視されればどうなるか。

 きちんとした説明も受けぬまま、書面を見落とし、情報共有に同意しているケースもあるかもしれない。預金情報を基に営業をかけられ、知識もないまま投機性の高い商品を購入させられて、巨額の損失を被ることだってないとは言えないだろう。

 銀行は融資などを通じて取引先に対し、優越的地位にある。その立場を悪用した営業は時に顧客の利益に反した取引をもたらす。金融市場自体の健全な競争性も損なわれてしまいかねないことを、三菱UFJ銀などがどれだけ意識していただろうか。

 同様の規制違反は22年に、三井住友FG傘下のSMBC日興証券でも発覚している。「法令や規制を順守した上で業務に取り組むことが何より重要」。業界団体の全国銀行協会会長として会見で述べたのは当時の三菱UFJ銀の半沢淳一頭取だった。その会見当時に会長企業も同様の不正を行っていたとは開いた口がふさがらない。三菱UFJ銀などの法令順守意識は極めて低いと言わざるを得ない。

 規制緩和で金融サービスの利便性が高まることは歓迎する。ただ、その前にやるべきは経営陣の処分と厳格な再発防止策だろう。顧客軽視の姿勢を改めなければ、信頼回復など程遠い。

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