「悪道長」第一歩? 彰子入内がもたらすものは【光る君へ】

吉高由里子主演で『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。6月30日放送の第26回「いけにえの姫」では、娘・彰子を入内させることで、道長がついに政のダークな部分に突入することに。その未来を予感させるような演技とBGMに、注目が集まった(以下、ネタバレあり)。

彰子(見上愛)の入内について考える道長(柄本佑)(C)NHK

■ 天変地異を抑える方法に道長は…前回のあらすじ

藤原道長(柄本佑)は、陰陽師・安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)の元を訪ね、立て続く天変地異を抑える方法を問う。晴明は一条天皇(塩野瑛久)の心を正しきところに戻すために、けがれのない道長の長女・彰子(見上愛)を入内させるようすすめた。道長はためらうが、晴明には「彰子様は朝廷のこの先を背負って立つ」と予言され、姉・詮子(吉田羊)からは「道長もついに血を流すときが来た」と諭される。

姉・詮子(吉田羊)から「道長もついに血を流すときが来た」と諭される道長(柄本佑)(C)NHK

彰子の母・倫子(黒木華)は、中宮・定子(高畑充希)に夢中の天皇のもとに「いけにえ」として彰子を差し出すことに反対するが、母・穆子(むつこ/石野真子)から「入内したら不幸せになると決まったものでもない」と励まされ、彰子を支える覚悟を決める。晴明から、定子が11月に天皇の皇子を生むという予言を受けた道長は、その月にあえて彰子を入内させることを決め、天皇からもその許しを得るのだった。

彰子(見上愛)の入内を許可する一条天皇(塩野瑛久)(C)NHK

■ 「周りのため」柄本道長のウィークポイント

このコラムでも何回か解説しているけれど、当時の出世の王道は、自分の娘を天皇に嫁がせて、皇子が生まれたらその子どもを次の天皇にして、幼い頃は摂政、成長してからは関白として実権を握るという、いわゆる「摂関政治」だった。

道長もその例に漏れず、これから娘たちを帝に次々に嫁がせるのだが、「入内は女を不幸にする」と信じて疑わない『光る君へ』の道長くんが、どういう動機で娘を内裏に送り込むのか? その理由が明らかになったのが、この第26回だった。

彰子(見上愛)の入内について妻・倫子(黒木華)に相談する道長(柄本佑)(C)NHK

物語の半ばで、藤原公任(町田啓太)が「左大臣(道長)は己のために生きておらぬ」と評していたように、どうやら柄本道長のウィークポイントは「それが周りのためだから」と言われることのよう。そのため晴明に「天皇を正すためには娘が必要」と告げられ、藤原実資(秋山竜次)の「彰子さまの入内は大歓迎(嘘だけど)」の言葉から、周りの期待と圧を感じたことで、仕方なく嫁がせる・・・という形になったのだ。

■ 「仰せのままに」彰子の覚醒が待ち遠しい

今後道長が定子に対しておこなっていく仕打ちや、このあとも娘たちを次々に後宮に送り込んでいくという史実を考えると、さすがにこれは道長が聖人君子すぎやしないか? と思わなくもない。

しかし今回は、ちょっと「悪道長」の片鱗をチラリと覗かせる箇所があった。彰子の入内を、定子の子どもの産み月にぶつけるという策だ。この理由は特にドラマでは明かされなかったが、このとき柄本佑が一瞬見せた、暗い光を見逃さなかった視聴者も多いだろう。

彰子(見上愛)の入内を、定子(高畑充希)の子どもの産み月にぶつけることを思いつく道長(柄本佑)(C)NHK

ここまでの道長の出世は、兄たちをはじめとするほかの有力貴族たちがことごとく病死するとか、ライバルが自滅するとか、運の強さにめぐまれたことは否定できない。姉の詮子に「これからは血を流せ」と発破をかけられたこともあり、ここから父・兼家(段田安則)のように、多少なりとも「私利私欲」が芽生えていくのだろうか? そうなった暁には、まひろはどのような反応をするのか? というのが、早くも気になるところだ。

「仰せのままに」と道長(柄本佑)に告げる彰子(見上愛)(C)NHK

そしてもう一つ気になるのが「仰せのままにbot」と言われるほど、「我」というものが一切見えない彰子のキャラクターだ。晴明には「この国を背負って立つ」と言われ、実際に道長との対立も辞さないゴットマザーへと成長することになるのだけど、この時点では道長ならずとも、その片鱗はまったく見えない。彼女の覚醒にまひろが大きな影響を与えるのはまず間違いないだろうけど、残念ながら出会いはもう少し先。その化学反応が生まれるときを、楽しみに待ちたい。

■ 度々話題になるBGM、今回も攻めていた

さらに今回は、まひろと藤原宣孝(佐々木蔵之介)の結婚生活や、まひろと道長衝撃の再会など、SNSが盛り上がる要素がふんだんに散りばめられていたが、最大瞬間風速的に盛り上がったのが、彰子の裳着の儀のBGMだった。

一条天皇の即位の儀のとき以来となる、重厚なパイプオルガンの調べに、SNSでは「めでたい裳着の儀の場だというのに、この禍々しい音楽はどうだ」「『カリオストロの城』の婚礼シーン思い出した」「『ゴッドファーザー』の洗礼式みたい」と、そのミスマッチ具合が話題となっていた。

彰子(見上愛)の裳着の儀のシーン (C)NHK

以前のコラムでも言及したけど、ラブシーンでエレキギターが鳴り響くとか、プロポーズで中東風のコミカルなズンドコ音楽が流れるとか、これまでの大河では一番ではと思われるほどBGMのクセが強いのが『光る君へ』の特徴。

しかし今回のパイプオルガンは、この「裳着の儀」が祝福というよりも、彰子がいけにえとなる第一歩という悲壮感が前に出てくる結果となったので、ギリギリナイスチョイスだと言えるだろう。これからもツッコミ一歩手前ぐらいの、絶妙な選曲に期待したい。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。次週の7月7日は、都知事選開票速報のために放送休止。7月14日放送の第27回『宿縁の命』では、石山寺で思わぬ再会を果たしたまひろと道長の物語と並行して、定子の出産と彰子の入内が描かれていく。

文/吉永美和子

© 株式会社京阪神エルマガジン社