「バットを振れない」小学生をどう指導? 豪快でも安全…ストレス除く“丸い紙”

北名古屋ドリームスの紙ボールティーの様子【写真:高橋幸司】

愛知・北名古屋ドリームスが実践…大阪の強豪も一目置く“紙ボールティー”

「バットを振る」という行為は簡単なようで難しい。特に野球を始めたての子には、向かってくるボールにバットを当てる行為は至難の業。「なんで振らないんだ!」と大人が叱ったところで、容易に解決できるものではない。この「振る勇気」を培わせるには、どのような方法があるだろうか。「打って打って打ちまくれ!」をスローガンに掲げる愛知の学童野球チーム「北名古屋ドリームス」の小学3、4年生への指導に、そのヒントがあった。

“パスッ、パスッ”……。北名古屋ドリームス(以下、ドリームス)の打撃練習では、軟式の打球音とは異なる音が響き渡る時間帯がある。使っているのは黄色い“ボール状”のもの。2~3メートル前方から、投げ手を務める保護者が「イチ、ニー、サン」で下から放ったその物体を、選手たちは次々と豪快に振り抜く。とはいえ、軟式球のように遠くへ飛んでいくことはない。

「中身は新聞紙なんです」と説明してくれたのは、小学5、6年生のトップチームを率いる岡秀信監督。新聞紙1枚を半分にし、少し空気を入れるように程よく丸めると、ちょうど軟式球と同じくらいの大きさになる。「それに黄色いビニールテープで巻いて“ボール状”にし、ティー打撃を行っています」と解説する。

ドリームスでは10年ほど前から、この“紙ボールティー”を取り入れている。メリットは多数ある。第一に安全面を確保できること。柔らかいので体に当たっても問題なく、建物に当てて窓ガラスを壊すこともない。そして、狭いスペースでできるので、複数箇所で打てるし、ボールが飛び交っても怪我の心配がない。小さい子でも抵抗感なく取り組めるのだ。

そして、“当たったなりの打球”がいくので、打撃力向上の確認ができる。「トップチームの打力が高い子にやらせると、このボールでもラインドライブできれいに飛んでいきます。センター返しの練習にもなりますし、冬場は“筋トレ”やフォーム固めに1時間ほど打ち込むこともあります」と岡監督は説明する。

打撃指導をする小林正明ジュニアチーム監督【写真:高橋幸司】

幼少時から取り組むことで「自然に体が動くようになります」

「打って打って打ちまくれ!」を掲げるドリームスでは、エンドランのように当てて転がして走者を進める作戦はとらない。「バットを振る、打つことに対して、変なストレスを与えたくない」(岡監督)からだ。失敗を恐れず、積極的に振る意識づけは、子どもたちの今後の野球人生につながる。チームスローガンの真意はそこにあり、その象徴が、この“紙ボールティー”だ。

「幼少期からこの練習をしていると、バットを振ることに対して何のプレッシャーもなく、自然に体が動くようになります。ちょっとしたスペースでできるので、試合前のウオームアップにも使えますよ」

紙ボールを“軍手ボール”にしてみたり、打者ではなく投げ手のタイミングで打たせたり、バリエーションもつけられる。安全面に配慮しつつ、積極的にバットを振れるこの練習に他のチームも注目。「全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」の昨年覇者・新家スターズら大阪の強豪勢も、ドリームスのアイデアから取り入れているそうだ。

とはいえ、いくら安全でも至近距離にいる投げ手の大人は要注意。直撃すると、さすがに痛いそうだ。ドリームスの保護者たちは、防球ネット代わりに折りたたみ椅子を使うことを考案した。ユニークな発想は、常にグラウンドから生まれている。(高橋幸司 / Koji Takahashi)

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