【7月3日付編集日記】長い付き合い

 多くの若者を一人旅へといざなった沢木耕太郎さんの「深夜特急」は、ユーラシア大陸の旅から帰国して約10年後に執筆された。いま読み返してみてもつい昨日のことのように、事細かに行動や心の動きが記録されていて驚かされる

 ▼何かを書いてやろうと思って旅に出たわけではないという。執筆時に沢木さんが何を頼りにしたかといえば、一つは、日本の知人らに宛てて書いた手紙。航空用箋1枚に小さな字で原稿用紙約8枚分、計100通ほど送っており、受け取った人たちが保存してくれていた

 ▼もう一つが、何を食べたかなどを書いた金銭出納帳だった。使い過ぎては意気消沈し倹約できれば喜び、残りの所持金から、あとどれくらい旅ができるかを確認していた。これが行動の記録になり、気持ちをつづった手紙と突き合わせれば、そのまま旅の記録として役に立った

 ▼新紙幣がきょう、発行される。20年ぶりの刷新も、キャッシュレス化が進んでいるからかどうも高揚感は感じない。歴史的な円安や物価高騰の波に翻弄(ほんろう)されているせいもあろうか

 ▼新紙幣に刷り込まれたお三方とは長い付き合いになる。財布から忙しく出たり入ったりしようとも、いい関係が続きますように。

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