脚合図で気を付けること

脚は乗馬の「扶助」の一種です。「扶助」とは騎乗者の意図を馬に伝える合図のこと。脚で馬に合図をするというと、とても単純なことに感じますが、実はかなり奥深いものです。騎乗する馬によっても、脚への反応は千差万別。特に乗馬を始めたばかりの方に配馬される反応の鈍い「重い」馬には苦労している方も多いのではないでしょうか。強い合図が出せないからだと思いがちですが、上級者に話を聞いてみると大切なのは力の強さではないのだとか。今回は脚で合図を出す際のポイントや気を付ける点について、ご紹介します。

合図ごとの強さと段階

初心者の方によくあるのが、最初からキックをしてしまうこと。これは非常に危険です。ほとんどの乗馬クラブは、このようなことも想定をして、初心者が乗っても安全な練習馬を用意してくれていると思いますが、最初から強い合図であるキックをするのはマナー違反です。万が一、脚に反応しやすい馬であったら、そのまま走りだしてしまうかもしれません。

脚で合図を出すときは強さの段階を意識する必要があります。脚を馬体につけるだけで合図になる軽い馬もいます。扶助は弱いところから少しずつ強めていき、常に馬の反応を確認しましょう。馬にとっても、乗り手にとっても、できるだけ弱い力で騎乗できる方が楽ですよね。そのような状態を目指すために脚の強さに段階をつけることがとても大切です。その段階には個人差があると思いますが、筆者の場合、馬体に脚をつける→ふくらはぎで軽く触れる→弱いキック→中程度までの圧迫(強さに段階をつけます)→強いキック→強い圧迫→ゼッコ→見せ鞭といった段階を踏みます。ただし、すでに相手のクセを知っていて、圧迫では反応しないと分かっている場合は、圧迫からある程度早い段階で強いキックに移行して馬を乗り手に集中させるようにします。反応しない合図をずっと使っていると、馬が反応しなくてもいいんだと勘違いしてしまう可能性があるからです。そのため、段階を踏んで脚を使うことはとても大切ですが、ときに合図にめりはりをつけることも重要です。このバランスがとても難しいのですが、乗馬の醍醐味でもあります。

タイミング

脚で合図を出すタイミングも大切です。先ほどの例で言うと、初めて騎乗する馬にまたがって、すぐに強い合図を繰り出したらどうなるでしょう。馬がまだ乗り手に集中していなければ、びっくりさせてしまいますよね。お互いにとっていいことではありません。

馬にまたがって、しばらくはリラックスしてウォームアップする時間があるはずです。馬上体操をしながら、馬に声をかけたりして、コミュニケーションをとっておきます。気を付けをして、と言われたら、手綱にゆるみがないように持ち、頭、肩、お尻、踵が一直線上にくるように乗馬の基本姿勢をとります。この時点で馬も「そろそろ始まるな」と気づくはずです。敏感な子はこの時点で歩度が少し伸びるかもしれません。このタイミングで、馬には騎乗者に注意が向くようにしっかりと合図を送っていきましょう。最初に一定のリズムのいい常歩を作ることが非常に重要です。

馬に騎乗者の意図をくんでもらうためには騎乗者に集中してもらう必要があります。馬たちはたまに人間を乗せていることを忘れてしまいます。合図をしなくても動きのいい馬には、優しく声をかけて騎乗者がいることを伝えるのも◎。物見をしたり、集中力が切れてしまいがちな馬にはコンスタントに軽く脚を入れて、騎乗者への集中を促します。このように馬が騎乗者に集中したタイミングで合図をするようにしましょう。馬が何かに気を取られている時、びっくりした時や怒っている時などに合図をすると、意図が伝わらないどころか、さらに混乱させてしまうこともあるかもしれません。その場合は一旦、馬を落ち着かせて、ゆっくり時間をとって、馬に大丈夫だということを確認してもらってから、合図をします。

位置

乗馬の基本姿勢をとった位置で脚を使うのが理想です。人や馬によっても多少の違いはありますが、だいたい腹帯の少し後ろあたりです。最初のうちは鞍に腰掛けるように座ってしまうため、脚が前に流れた状態で合図をしてしまうことがよくあります。また、踵をしっかり下げようとする意識が高すぎて、脚が前に流れてしまうパターンも。場合によっては、脚での合図が腹帯の上からになってしまいます。これでは、なかなか馬には伝わりません。基本の騎乗姿勢を鏡でチェックしたり、インストラクターに確認してもらうようにしましょう。

脚で一生懸命に合図をしようとして、下半身に力が入りすぎてしまい、上半身のバランスまで崩してしまう方もいらっしゃるようです。特に膝に力が入っていると下半身が不安定になります。脚はできるだけ広い面積を馬体に密着させるようにしましょう。脚は真下に伸ばすイメージです。レッスン前のウォームアップの際に鐙上げ(鐙をはかずに乗ること)をして、脚の力を抜いた状態からそっと鐙をはきます。その位置で、ずっと脚の扶助を出せるように心がけましょう。

また、馬によっては、脚を少し後ろ側で使っただけでも反応する馬もいますので、十分に気を付けましょう。お腹が敏感な軽いタイプの馬に多いイメージです。特に駈歩の時に脚を少し引いた状態でいきなり強い扶助を出すのはNGです。

プレッシャー&リリース

初心者の方は、一所懸命、歩度を伸ばそうとして、強い合図を出し続けてしまうことがあります。しかし、ずっと同じ強さの同じ合図をされていると馬がその状態に慣れてしまって、その合図では反応しないという悪循環に陥ってしまうのです。

人間にとっても馬にとっても、合図が弱ければ弱いほど、少なければ少ないほど楽です。その状態を作るために意識していただきたいのが、「プレッシャー&リリース」です。プレッシャーとは人間が馬に対して、騎乗者が合図を出して動きを求めている状態のことを言います。馬に対して、プレッシャーをかけて馬がそれに応えてくれた場合は「お礼」としてそのプレッシャーを解除(リリース)しましょう。すると馬は楽になり、求められたことをやれば楽になると理解します。その次からはそれほど強いプレッシャー=合図をしなくても、馬が反応をしてくれるという理想的な状態を作ることができます。

ここで大切なのは、馬が反応してくれたら、すぐにプレッシャーを解除(リリース)してあげること。実はこれができていないケースが多いようです。馬が合図に答えてくれた時は、すぐにプレッシャーを解除して、「それでいいんだよ。ありがとう!」と伝えてあげましょう。プレッシャーも小さければ小さいほど◎。そのためにも、扶助の強さをうまく使い分けることが重要になってきます。

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まとめ

今回は脚での合図のポイントや気を付けることについて、ご紹介しました。扶助は馬とのコミュニケーションの方法の一つです。一方的にプレッシャーをかけ続けてしまっては、馬とのコミュニケーションは一方通行になってしまいます。馬から返ってくる反応を感じ取って、双方向のコミュニケーションを心がけましょう。

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