妻に先立たれた65歳、年金約17万円・おひとり様シニアを襲う<老後破産へのカウントダウン>

(※写真はイメージです/PIXTA)

みなさん、ねんきん定期便で、自分がいくらもらえる見通しか、チェックしていますか? すでに受給が始まっている人はチェックしていましたか? 今回は一見、老後資金に余裕のありそうなおひとり様シニア・吉村さんがいかに「老後崩壊」に追い込まれたのか? のぞいてみましょう。

退職金1,000万円、年金月17万円でも……東京在住の元大卒サラリーマン「老後崩壊」の悲劇とは

登場人物

ゆめこさん……大正時代からタイムスリップしてきた26歳女性。なぜか、現代社会にめちゃくちゃ詳しい。全文太字部分

・おじさん(以下、解説)……解説担当。

ワイ(以下、ワ)……ゆめこさんの白い飼い犬。お菓子好き。ミーハー。

ヨシムラコウゾウ(以下、主)……今回の主人公。退職金を切り詰め生活していたが、今年ようやく年金を貰える65歳になった。妻は10年前に亡くなっている。

主:(うう……まさか医療費がこんなにかかるとは。家のローンもまだ支払い切れてないし、老後は安泰だとたかをくくっていたが……絵に描いた餅だったようだ……)

わたしの名前は吉村幸三。

従業員200人程度の、プラスチック製品の加工を行う工場に勤めていた。働くのは嫌いじゃない。30代で結婚し、所沢に家を建て、それなりに安定した生活を送ってきた。2人の子どもたちはすでに独立している。病弱だった妻は10年前に先に逝ってしまい当時は悲しみに暮れたが、当時は仕事の忙しさが俺を救ってくれた。今ではすっかりおひとり様シニア生活にも慣れたよ。

60歳で定年退職をして、今は65歳。退職金1,000万円を切り崩しながら生活してきたが、今年ようやく年金をもらえる年になった!だが……

ワ:幸三さん、退職金もしっかりもらって、今年からは年金ももらえるのに、どうしてこんなに心配そうなの?

主:た、確かに、5年間ゼロだったから、収入が入るのは有難いんだが……

解説:中小企業で勤めていたサラリーマンの平均的な年金を確認しましょう。国民年金は現時点(2023年6月)での満額支給額、月6万4,816円です。

政府調査によると、厚生年金受給者の年金額は平均月14万5,665円ですが、男性65歳に限ると平均月16万9,006円です。大卒の中小企業勤務のサラリーマンであれば、全国平均よりも多い年金を手にすることができます。

ワ:なーんだ! 幸三さんたら心配性だなあ。

いえいえ、幸三さんの心配はごもっともです!

ワ:ええ? 退職金もあるし年金も平均より多くもらえるのにどうして?

解説:政府調査によると、60代の貯蓄額の平均は2,537万円、70代の貯蓄額の平均は2,318万円です。老後に備えてしっかりと資産形成をしてきたことがうかがえます。しかし、その一方で定年を迎えたあとの老後破産するシニアが増えているのです。

ワ:ええ、なんでぇ!?

主:ああ……なんだ、その……現役時代のライフスタイルを変えられなくて、同じお金の使い方をした結果、貯金をかなり切り崩すことになったんだな。

年金を貰うようになっても現役時代ほどの収入が手に入るわけではありません。ですが、生活水準をいきなり落とすことは難しく…年金収入を主として暮らす多くの人がこの壁に直面します。

ワ:そっか……今までと同じ感覚だとお金は減っていく一方なんだね。

医療費がかかることも増えていく…その状態でも続く住宅ローンの返済

主:いててて!うう……年のせいか最近、こむら返りがひどいな……また病院に行かなきゃいけないが……医療費ばっかりかさむなあ。

年齢を重ねると、当然医療費も増加します。

主:確かにこれらもきついが、わたしが一番大変なのは家のローンだよ。

ワ:あれ? 幸三さんは持ち家だから住宅費用はかからないと思っていたよ。

住宅ローンの返済が終わるのは平均的に70代になってからです。収入も限られている状態で住宅ローンの返済を残した暮らしとなると、貯蓄を削りながら生活するしかありません。

ワ:年金生活をしながら住宅ローンの支払いって、難しすぎるね。

退職金で一度に繰り上げ返済をする、という方法も契約によっては可能ですが、貯蓄が一度に減ることを考えると、どちらを選択しても懸念が残ります。

ワ:うう……幸三さんが心配だよう

主:わたしはそこで、少し考えを変えてみることにしたんじゃ。

ワ:え?

主:まずは医療費を減らすにはどうすればいいか考えた。若いときは何もしなくても元気だったとはいえ、この歳になったら何もしなけりゃすぐに体にガタがくる。そこでわたしが始めたのが近所の友人たちとのゲートボールだった。

最初はいかにも年寄りの遊びだと思っていたが、これがどうしてなかなかゲーム性がある。友人たちと集まって話しながら運動することで、自分ひとりで不安を抱え込むことがなくなっていった。そのおかげか、体の調子も前よりずっといい。なんなら50代のときより体が軽い!

それにわたしは自分の家で近所の小学生相手に自宅で習字教室を開くことにした。わたしが若いころはワープロも無かったから、得意先への手紙や年始のはがきは全部手書きが当たり前だっただけに慣れたもんだ。月謝は少額だが、こうして自分で収入を増やせるというのはやはり頼もしいものがある。最近はオンライン教室も開催しているんだ!

仕事からは引退したが、わたしはまだまだ元気そのもの! いつかあっちで妻と会うときにはたくさん土産話をしてやらんとなあ!

考え方を変えて、新しい挑戦を次々と始めた幸三さん。第ニの人生がスタートしましたね! これからも幸三さんの人生を応援しています!

「老後崩壊」を招く2大要因!「住宅ローン」と「生活水準が落とせない……問題」

政府調査では、65歳以上の平均消費支出は149,208円となっています。男性65歳(厚生年金受給者)の平均年金額が16万9,006円であることを考えると、支出より収入が多く、老後の暮らしは一見何とかなりそうですよね。ところが幸三さんにはまだローンの支払いが残っていました!

解説:政府調査によると住宅取得年齢は30歳代が一番多く、購入金平均は、

分譲戸建4,250万円、分譲マンション4,929万円

返済期間平均(分譲戸建)34.1年、(分譲マンション)32年

返済金額平均(分譲戸建)126万円(月10万5,000円)、(分譲マンション)150万4,000円(月12万5,000円)です。

晩婚化によりマイホームを購入するタイミングが遅くなり、定年までに住宅ローンの支払いが終わらないというケースが多くあります。賃金がないなか月10万を超えるローンがあるのは苦しいです。さらに住宅ローンとは別に、固定資産税やマンションの管理費・修繕積立金といった費用が発生します。定年後、年金暮らしで支払うには大きな負担となります。

解説:仮に幸三さんに、60代の貯蓄額の平均2,537万円があったとして、退職金と合わせると2,537 + 1,000=3,537万円 これを月平均支出額15万円で割ると、3,537÷15≒236か月分(約20年分)となります。85歳までの生活費は確保できる計算です。

ただ、85歳以上生きるかもしれません。100歳まで生きるとまだ15年分の資金が必要です。住宅ローンや家の修繕費などが重なって、間違いなく資金は不足しますね。貯蓄があったにもかかわらず老後破産に陥る理由の一つです。

解説:政府調査によると、生活保護を受けている世帯のうち、高齢者世帯は55%です。そのうち幸三さんと同じ単身世帯が50.4%になっています。

ワ:老後プランは収支をよく考えないといけないね。

老後破産に陥る理由はほかにもあります。生活レベルを落とせない。医療・介護費用がかさむなどです。収支のバランスを考えて、身の丈に合った生活をすることが大切です。

具体策として、YouTubeやネットの節約術を参考にするのもいいですね。年金が5万円しかないのに、生活を工夫して素敵な老後を送っている人の大人気ブログなんかも発見できますよ!

また、高齢になると予期せぬ病気やけがはつきものです。日ごろからウォーキングなどで体を動かし健康を保つ努力は大切です。

悲しいことに子どもが就職に失敗した、離婚して戻ってきたなどの予期せぬ出来事や、資金の不足を補うために、リスクのある投資をやってしまい、逆に資金を失ってしまうケースも起こっています。残念ですが、老後の生活は決して安泰とは言えませんね。

ワ:幸三さんは対策を考えたようですね!

友人とのゲートボールを始め、運動する機会と、人と関わる楽しみができました。また、習字教室で副収入を確保し、生活に張り合いも出るでしょう。単身世帯は話し相手がいないので引きこもりやすい傾向がありますが、幸三さんは大丈夫そうです!

(出典)

2021年の総務省統計局『家計調査 貯蓄・負債編』

国土交通省 令和3年度住宅市場動向調査

2022年総務省 家計調査

2022年総務省 家計調査

【老後破産】元会社員お一人様シニアの退職生活の実態。老後の平均支出は1人で14万…退職金1000万が消える!?

© 株式会社幻冬舎ゴールドオンライン