琥珀に眠る太古の鍵 福島県いわき市の愛好家 鈴木千里さん発掘 新種ハチ化石 生態系の重要資料

チサトムカシホソハネコバチの雌の化石

 太古の生態系を解き明かす鍵になるか―。いわき市の地層から、中生代白亜紀後期コニアシアン(約8800万年~約8630万年前)に生息していた世界最小級のハチ「ムカシホソハネコバチ」の新種の化石が発見された。同市の化石愛好家鈴木千里さん(74)が発掘した琥珀(こはく)の中から見つかり、発見者にちなんで「チサトムカシホソハネコバチ」と名付けられた。関係者は「当時の昆虫や植物を知る上で重要な資料となる」と期待している。

 県立博物館(会津若松市)の猪瀬弘瑛主任学芸員らの研究グループが2日、発表した。ムカシホソハネコバチの化石が見つかったのは岩手県久慈市などの久慈層群に続き国内2例目。今回は雌雄が1体ずつ確認されており、両方そろっての発見は国内初で、世界3例目となった。

 ムカシホソハネコバチは体長1ミリ以下。今回発見された個体も0.4ミリと肉眼では見えないほど小さい。ムカシホソハネコバチの化石はこれまで海外の白亜紀の地層から9種、国内の久慈層群から1種が発見されていた。

 研究グループは2022(令和4)年春から、研究を始めた。琥珀の表面を削り、顕微鏡で分析するなどした。頭の形や羽の毛の本数、個体の大きさなどを総合的に比較し、新種と判断した。日本古生物学会の国際学術誌に掲載された。

 今回の発見により、昆虫と植物が互いに利用し合う関係性が、どう築かれてきたのかを突き止める研究が進む期待が高まる。この時代、花を咲かせる植物は少なかったとされるが、付近の約8900万年前の地層からは花の化石が確認されており、貴重な研究の場となるという。

 いわき市は岩手県久慈市や千葉県銚子市とともに日本三大琥珀産地として知られている。ただし、世界的な知名度は低いという。猪瀬主任学芸員は「状態の良好な昆虫の化石を含んだ琥珀が発掘されたことで、いわき市の地層の(学術的な)評価が高まるかもしれない」としている。

■鈴木さん、採集歴40年 「また見つけたい」

 発見者の鈴木さんはいわき市内の鈴木製麺の会長を務める傍ら、昆虫化石の採集を40年近く続けている。今回の琥珀は市内久之浜町の道路工事が行われていた地層で見つけ、地主の許可を得て採集したという。

 発見した新種の化石に鈴木さんの名前が付くのは今回が3度目。今年4月に発表された中生代白亜紀に生息していたイノセラムス科二枚貝の化石は、6種中1種が国内初の発掘となり、本県の化石研究に大きく貢献している。現在も精力的に活動を続けている。

 「いわき市は面白い化石がたくさん出てくる。また新種を見つけたい」と意気込んでいる。

チサトムカシホソハネコバチの雄の化石

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