なぜ?16年ぶりJ1の東京Vが低資金でも目標の残留へ健闘 予算が少ないデメリットを逆手にハマる補強策とは

 東京V・木村勇大

 16年ぶりJ1の舞台で東京Vが健闘を続けている。開幕前はJ1の他クラブと比べて資金力、戦力の低さから下位に予想する声が少なくなかったが、第21節を終えて20クラブ中10位。周囲の予想を上回る好成績を残していると言える。20年から強化部長を務める江尻篤彦氏(56)が、その理由を明かした。

 今季は初勝利まで6戦を要した東京Vだったが、5、6月はともに3勝を挙げるなど順調に勝ち点を積み上げている。目標とするJ1残留へ視界は良好だ。前半戦の戦いぶりに江尻氏は「城福監督、コーチ、スタッフ、選手みんながよくやってくれている」と評価した。

 5月にJリーグより発表された「2023年度クラブ経営情報開示資料」によると、J2だった東京Vの人件費は約7億7000万で、24年のJ1クラブと比較すると最低値だった。当然、J1に昇格し今年の人件費は増加しているというが、ともに38億円超だった人件費トップ層の浦和、神戸とは大きな格差があるといえるだろう。

 ただ、そんな“格上”にもひるむことなく善戦した。2節・浦和戦は試合終了間際までリードしての引き分け。16節・神戸戦は1-0で勝利した。江尻氏は「全部お金で解決しちゃったらスポーツって面白くない。城福さんがよく言葉にする『サプライズを起こす』ことは、私も思っています」と話した。

 健闘の理由には、開幕前の補強がハマったことが一因に挙げられる。FW木村、MF山田楓、MF翁長、MF見木ら今季の新加入選手が多くの試合で出場。資金力の問題もあり、実績あるベテランや外国人選手など、いわゆる派手な補強は行わなかったが、的確な補強で確実にチーム力を向上させた。特に木村はJ1初ゴールを皮切りに、ここまでチームトップの9ゴールと大きく成長している。

 なぜ、移籍選手がチームにマッチするのか。江尻氏は「技量だけではなく、選手のメンタリティーも調べている」と明かした。強化部6人で徹底的にリサーチを行い、選手の恩師などに話を聞きに行くなど、人間性も調べているという。「東京Vで評価されて、出されたチームを見返すとか、逆に東京Vに買われて来てもいいよとか。頑張れるメンタリティーを持ってるかどうかが大事」と強調。実際に木村も「本当に去年とモチベーションが全然違う」とよく充実感を口にしている。

 また低予算というデメリットが、間接的に補強がハマる要因となっている。「予算が少ないっていうのはリスクが大きい。1つの補強を外すと、取り返しがつかない。僕らは失敗は許されない」と江尻氏。多種多様なプランを想定し半年以上前から補強の“種まき行為”を行うなど、できることを最大限に行い、まさにローリスク&ハイリターンで補強が当たる確率を高めている。

 21節を終えて、降格圏との勝ち点差は13。目標とするJ1残留は現実味を帯びている。それでも江尻氏は「危機感は感じています」と慢心はなく、さらに夏の補強へ強い意気込みを示す。「ギリギリまで考えます。まだ決まっていませんが、アイデアは持っているということは間違いないです」とファンへ期待を促した。後半戦はどんなサプライズを見せてくれるのか。ピッチ内外での東京Vの戦いに目が離せない。(デイリースポーツ・松田和城)

 ◆江尻篤彦(えじり・あつひこ) 1967年7月12日生まれ、56歳。静岡県出身。清水商3年時に主将として全国高校選手権で優勝。古河電工を経て、ジェフユナイテッド市原(現千葉)でプレー。93年には日本代表に選ばれた。引退後は千葉や新潟、世代別日本代表のコーチを経験。09年途中から10年、19年の2度、千葉で監督を務めた。20年から東京Vの強化部長に就任。23年には16年ぶりのJ1に導いた。

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