お札の手触り

 財布に入っているお札を取り出し、観察してみる。もちろん新紙幣はまだ手元にないので現在の紙幣。技巧を凝らした精細なデザインもさることながら、すこぶる心地良い手触りに感心する。工芸品のよう。
 お札の正式名「日本銀行券」の場合、主な原料は三椏(みつまた)やアバカ(マニラ麻)。三椏は楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)と並ぶ和紙の三大原料で、柔軟な上にとても丈夫。アバカの繊維もロープに用いられるほど強じんで、熱や湿気に強い。組み合わせて耐久性と独特の風合いを生み出す。
 いよいよ今日から発行される新紙幣3種にもこれまで同様、上質な紙が用いられているだろう。国立印刷局は3月末までに45億3千万枚を刷った。ひとたび出回り始めると、素材や意匠への感心は薄れがち。最初のうちに裏表をじっくり眺め、手触りを確かめておきたい。
 新紙幣を含めこれまで56種類が製造されてきたお札は、もしかすると今回の改刷が広く市中に流通する最後になるかもしれない。そんな推測が最近広まり始めた。世界各国の中央銀行は、デジタル通貨の導入に向けた検討を加速させている。日銀も現在、幅広い業種と組んで実証実験を進めている。
 ただ、仮にデジタル通貨を導入しても需要がある限り紙幣を作り続けるのが、政府日銀の現時点での考え。まして、今回の改刷で古い紙幣が使えなくなるという話は大うそ。惑わされず、欲しいものを買うなり、タンスにしまうなり、大事なことのために使おう。

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