フォルクスワーゲンの新型「パサート ヴァリアント」先行試乗 9代目の出来栄えは?

by 藤島知子

ヨーロッパ諸国では2022年よりワゴンモデルのみの販売に

フォルクスワーゲンの世界的な人気モデル「パサート」。そのワゴンモデルとなる「パサート ヴァリアント」が9代目に生まれ変わった。かつてはセダンとワゴンが存在していたが、ヨーロッパ諸国においては、2022年よりワゴンモデルのみを販売。それでも、ファミリーユースからビジネス利用までの幅広い層を取り込んだことで、2023年のミッドサイズクラスのランキングでベストセラーカーとなったという。

パサートが分類されるDセグメントは、各自動車メーカーが積極的に先進技術を採り入れ、力の入った製品を送り出してくるカテゴリーとされている。日本でパサートを選ぶオーナーは、フォルクスワーゲンの特徴ともいえるシンプルで仕立てのよいデザイン、家族で使える快適な居住スペースと積載性、ドイツ車らしい質実剛健な走りを求めるコダワリ層が多い。それだけに新型の出来映えが気になるところだ。

そんな矢先、フランス南部のコート・ダ・ジュールで9代目となったパサート ヴァリアントにひと足早く試乗する機会に恵まれた。今回のハイライトは4つある。1つめが力強さと洗練性が増したスタイリング。2つ目は新世代のデジタルコックピットの採用。3つ目は格上のモデルを彷彿とさせるくつろぎのインテリアと快適性。4つめがパワーユニットの進化で、新しいマイルドハイブリッドとプラグインハイブリッドを採用した電動化だ。

新型「パサート ヴァリアント」

まずはそのスタイリング。8代目パサートはフォルクスワーゲンらしい水平基調を強調した折り目正しい優等生的なデザインといえたが、今回の新型は優雅で安定した構えの中に、シャープで伸びやかに描かれたサイドウィンドウが全体を退屈に見せず、保守の殻を破ってきた印象だ。ボディサイズは欧州仕様で全長が4917mm(先代比+144mm)、全幅1849mm(+20mm)に拡大したが、全高は1506mm(+1)で従来とほぼ同等。ホイールベースが50mm拡がった恩恵で、後席乗員の膝回りが広くなっている。

ボディサイズは欧州仕様で4917×1849×1506mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2842mm

フロントフードは両サイドにかけて盛り上がる頼もしいウイング形状。ボディサイドから眺めてみると、車両後端のDピラーが前方に傾斜していて、力強いイメージだが、ラゲッジ容量は増していて、後席に乗員が座った状態で690L(従来比+40L)、後席を倒した状態で最大で1920L(+140L)に拡大した。

ウイング形状のフロントフード
ラゲッジ容量は後席を倒した状態で最大で1920Lに

今回の国際試乗会には「Business」「Elegance」の他に、スポーティな「R-Line」といったモデルがあって、足下には18インチから最大で19インチの大径ホイールを履いていた。かつてないほどにコダワリをみせているのが空力性能。実用的な空間を備えたワゴンモデルでありながら、cd値は従来の0.31から0.25に低減した。

具体的にはアンダーボディをフラットに一体化したほか、フロントバンパー内にエアカーテンを装着することで、ホイール周辺の空気の流れを最適化して、ブレーキを効果的に冷却する。さらに、Dピラーのサイドエアガイド、大型のルーフスポイラー、バンパー下のディフューザーを装着することで、リヤの乱気流を軽減し、低燃費と航続距離拡大に貢献するそうだ。ヘッドランプは緻密な配光を行なうiQライトをオプションで設定。3Dシグネチャーを用いたテールライトクラスターなど、LEDのライティングシステムが先進感の演出と明るく安全な視界確保に貢献している。

車内に乗り込むと、コックピットアーキテクチャが最新世代に進化したインパクトが大きい。ドライバーの正面には4種類のビューに変更できるデジタルメーターが配置されたほか、「MIB4」と呼ぶ第4世代のインフォテイメントシステムは、インパネ中央に12.9インチのモニター、または「Discover Pro Max」と呼ばれる15インチの大型ディスプレイが設置される。なかでも、15インチのモニターはノートパソコン並みの大きさがあって、地図を表示するほかに、音楽再生や車両情報など、複数の表示を行なうことも可能で、ボイスコントロール機能も備わっている。従来のタッチパネルは操作に反応してくれないことも多く、分かりづらい印象を受けたが、新世代のものは情報処理のスピードが早く、直感的な操作がしやすくなっている。指を滑らせるスライダーもストレスを与えないレベルに仕上がっていると感じた。

コックピットアーキテクチャが最新世代に進化した
第4世代のインフォテイメントシステムを採用するインテリア

先代パサートはシンプルながら、組み上げ精度が高く、ハイクオリティなクルマだと感じたが、新型はさらにそれを上回ってきた。外装のディテールも美しい仕上がりだが、新設計されたシートは高品質な素材を採用していて、最適な運転姿勢を取りやすく、自然に身を委ねられる。驚かされたのは運転席と助手席にプレミアムクラスを彷彿とさせる10チャンバー式のマッサージ機能と新しい音響パッケージが設定されたこと。ひとクラス上のくつろぎの空間を提供しようとしているのだなと感じた。

パサートヴァリアントは「MQB evo」と呼ばれるプラットフォームがベースとなっている。パワーユニットは世界の様々な国や地域に向けて、ガソリンターボの「TSI」、ディーゼルターボの「TDI」に加えて、2種類の電動モデルが用意された。その1つは、1.5リッターガソリンターボエンジンとトランスミッションの間に小さなモーターを組み込んだマイルドハイブリッド車の「1.5 eTSI」。もう一方は同じエンジンに85kWのモーターと、容量19.7kWhのバッテリを搭載したプラグインハイブリッド車の「1.5 eHybrid」となる。

マイルドハイブリッド車
プラグインハイブリッド車

これらのハイブリッド車に組み合わされたのは「1.5 TSI evo2」と呼ばれるガソリンエンジン。従来の「TSI evo」の燃焼プロセスを受け継ぎながら、燃焼室の冷却が最適化されたほか、注目したいのはVTGターボ過給、高圧縮比、吸気バルブの早期閉鎖を行なうミラーサイクルが組み合わされたこと。これらによって、より高い効率で作動することが実現し、低燃費化と排ガスの環境性能向上が見込まれる。

マイルドハイブリッド、ディーゼル、プラグインハイブリッドそれぞれに試乗

最初にハンドルを握ったのはマイルドハイブリッドの「1.5 eTSI」で最高出力は110kW仕様のFF、足下には235/45R18サイズのタイヤを装着したモデル。ベルト駆動式スタータージェネレーターがエンジンとトランスミッションの間に組み込まれたもので、基本的には1.5リッターの直噴ターボエンジンを主役としながら、最高出力14kW、56Nmのトルクをもつ小さなモーターが加速をサポートすることで、燃料消費量を低減し、エンジンの滑らかな再始動を促す。

「プリウス」のようなフルハイブリッド車と比べると、バッテリやモーターが小さいことで、車両の重量増を最小限に抑えられるとあって、加速はとにかく軽快。エンジンの力にモーターの後押しが加わるため、アクセルペダルを軽く踏み込んでいるだけで、目標車速に到達させやすい。とはいえ、高速域の合流など一気に流れに乗せたいときに深く踏み込むと、エンジンが高回転まで気持ちよくふけ上がり、リズミカルな走りを満喫させてくれる。

一方で、エンジン負荷の少ない状態になると、4気筒のうち2気筒を休止してさらに燃料を節約して走る。エンジンの再始動時に違和感を感じさせることもなく、スムーズに走り続けられるので、快適性も高い。気持ちのいいエンジンフィーリングを楽しませてくれながら、環境性能も高めたモデルを提案してくれることは嬉しい。8代目「パサート ヴァリアント」は熟成された乗り味で私を唸らせたが、今回の新型はそれを超えてきた印象で、静粛性の高さ、滑らかな足どりがプレミアムサルーン並みの快適な移動をもたらしてくれた。

「R-Line」モデルのスタイル
「R-Line」モデルのインテリア

次にディーゼルターボの「2.0 TDI」に試乗することに。ディーゼル車は3つの出力違いのモデルが作られているが、最も高出力な「R-Line 4MOTION」の142kW仕様を試すことになった。タイヤサイズは235/40R19でスポーツ性を追求した頼もしい印象だ。ディーゼルに期待していたとおり、低回転から豊かなトルクを発揮。変速レスポンスに優れた6速DSGと組み合わされていることもあって、駆け出しでもたつきにくい。

ちなみに、この2.0リッターのディーゼルターボエンジンは3代目となる「ティグアン」にも搭載されているが、それと比べると車内の静粛性はパサート ヴァリアントの方が圧倒的に静か。

アダプティブ シャシーコントロールは伸び側と縮み側を制御する2バルブ式のショックアブソーバーを新採用

ステアフィールは滑らかで心地よく、ブレーキ後の車体の姿勢変化もスムーズ。サスペンションが大幅に強化された9代目パサートは、走行モードに応じて足まわりの特性を変化させる「DCC Pro」を新世代のものに刷新。アダプティブ シャシーコントロールは伸び側と縮み側を制御する2バルブ式のショックアブソーバーが新たに採用された。さらに、各ホイールのブレーキ制御を行って安定した姿勢を保つXDSと協調制御することで、路面や走行環境に翻弄されにくい安定した姿勢を保ちながら、正確なハンドリングと俊敏な走りをもたらしてくれるものになった。ハイスペックなディーゼルに4MOTIONはアスファルトの上で安定した姿勢を保ち、意のままに走れる気持ちよさを与えてくれる。雨や雪といった滑りやすい路面に直面しても信頼感の高い走りを披露してくれそうだなと思った。

プラグインハイブリッド車のeHybrid

最後にプラグインハイブリッド車のeHybridのFF車に試乗。今回試乗したモデルはエンジンとモーターを組み合わせた総システム最高出力が150kWの仕様。モーターのみの航続可能距離は欧州の燃費モードで約100km、モーター走行とハイブリッド走行を含めた航続距離は800km以上と言われている。足下には235/45R18サイズのタイヤを装着している。

プラグインハイブリッド車のeHybridシステム

外気温が−10℃以下に下回らない状況であれば、常にモーターで始動するそうだが、動き出しはおそろしいほどなめらかで、エンジンが掛からないぶん、振動も少ない。19.7kWhのバッテリを搭載しているゆえの重量感が路面へのタイヤの押しつけ具合から伝わってくるが、ロードノイズは他の軽量なモデルよりも少し大きめ。ただ、路面からの突き上げでゴツンといった入力は感じさせず、アクセルペダルの踏み込み具合に応じて丁寧に路面を捉えて走るさまは、パサートらしい良質な走りを感じさせた。

アクセルペダルを深く踏み込むと、自動的にハイブリッドモードに切り替わってエンジンが始動。カーブを駆け抜けていく時は俗に言うアンダーステア傾向になりがちなため、立ち上がりでは素直に鼻先が向きを変えるまで待ってからアクセルを踏み足す走りを心掛けた。ロータリーから枝葉のように郊外の道へ進み、80km/h程度まで車速を高めていくようなシチュエーションでも、モーターの力強いトルクとエンジンの力でスムーズに車速を高めていくことができた。

9代目となるパサート ヴァリアント。洗練されたデザインと居住空間が備わっている上に、それぞれのユーザーに適したパワーユニットの提案が行なわれたのは喜ばしいことだと思う。走りのキャラは異なるが、eHybridなら日常走行はモーターのみで電気自動車的に使いこなせそうだし、遠出する時はエンジンがフォローしてくれるため、電気自動車のように充電するタイミングに縛られることもないし、静かで力強く、快適な走りをもたらしてくれる。日本で乗るとすれば、ディーゼル車の軽油はお財布に優しいだろうし、eTSIは電動化による燃料節約とガソリンエンジン車ならではの爽快な走りを提供してくれることだろう。

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