謎のモグラキャラ 君は誰? 実は名無し「平成の大合併」混乱期に誕生、命名機会逃し 兵庫・たつのの埋文センター

埋蔵文化財センターのマスコットとして誕生したモグラのキャラクター。凶器のような爪が議論の的になった=たつの市新宮町宮内

 わが輩はモグラである。名前はまだない-。兵庫県たつの市新宮町宮内の市立埋蔵文化財センターで、展示物の説明板や注意書きなどに度々登場するモグラのキャラクターがいる。同市のマスコットは「赤とんぼくん」と「あかねちゃん」だが、ほかにも市の公式キャラがいるのだろうか。調べると、「平成の大合併」の混乱期に忘れ去られてしまった、悲しきモグラの物語が見えてきた。(西竹唯太朗)

 同センターは同市新宮総合支所に併設する形で、2006年3月に開館。国指定史跡の新宮宮内遺跡の近くにあり、同遺跡を中心に西播磨各地の土器や石器などを展示している。

 旧新宮町など4市町が合併し、現在のたつの市が誕生したのは05年10月。「合併とセンターの設置は同時並行で進められました」。旧新宮町社会教育課の係長として、同センターの設置に関わった義則敏彦館長(63)が振り返る。

 同センターの建設は、合併の数年前、当時の新宮町長が町役場の新庁舎整備を計画したことが発端となった。すでに合併に向けた協議が本格化していた時期で、計画は町議会で否決された。その代わりに同センターの設置計画が持ち上がり、04年に着工された。

 センターの内装は、全国で博物館展示などを手がける乃村工芸社(東京都)が担った。町と相談し、子どもにも難しい展示物に親しみを持ってもらうため、誕生させたのがモグラのキャラクターだったという。

 埋蔵文化財のイメージに合い、愛らしい雰囲気などのコンセプトを基にデザイナーが考案。ゆるキャラブーム以前に誕生したためか、シンプルなデザインが特徴だ。前足の爪が本物のように長く鋭いため、「いかついが大丈夫か、と職員の間で議論になった」と義則さんが笑う。

 展示室の入り口には、地質の断面に潜り込んで遺物を探すモグラのオブジェも配置。当時は公募で名前を募る計画もあったが、合併で4市町の職員が入り乱れる中、うやむやになってしまったという。

 現在、同センターで特別展などが開かれる際、接触禁止を伝える注意書きなどの文面と一緒に、モグラの画像を添えることがあるという。「データが残っているのでたまに利用する。ただ多くの職員はこのモグラの正体を知らないのでは」と義則さん。

 開館から年月がたち、もはやモグラの存在を気にする入館者はほとんどいない。ただ来年は合併から丸20年となる節目の年。義則さんは「いまさらだが、名前を付けるいい機会かもしれませんね」とほほ笑んだ。

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