旧ジャニーズ性加害問題 SMILE-UP.から救済対象外にされた被害者たちの慟哭

国連人権理事会の専門家ピチャモン・イェオファントン氏と対面する当事者の会元代表平本淳也氏(C)日刊ゲンダイ

旧ジャニーズ事務所の連続児童性加害問題で、国連人権理事会の作業部会の専門家で政治学者のピチャモン・イェオファントン氏の講演会が1日、都内の専修大学神田キャンパスで行われた。その最前列で、耳を傾けていたのが会社経営者の上田和美氏(62)。ジャニー喜多川氏から繰り返し性被害を受けながら、スマイルアップ社から「救済対象外」とされた人物だ。しかし、その記憶は痛々しく、鮮明だ。40年以上経った現在もトラウマとなっている数年間を本紙の取材に応じ、振り返ってもらった。

「最初は赤坂プリンスのラウンジで、友人と将来について、話をしていたときのことでした」

当時は九州から上京した法政大法学部1年の19歳。花形業種であった広告代理店への就職を夢に見ながら、就職するのは超難関でどうしていいか分からないでいた。

「近くにいた男性から声がかかり、親身になって、耳を傾けてくれたんです」

サラリーマンとは違う、サングラスに帽子のラフな服装で、警戒もしたが、マスコミや芸能界に通じていた。だから、誘われるままに赤坂の事務所についていった。ジャニーズのことは、たのきんトリオの所属という程度の知識で、ジャニー氏のことは知らなかった。

「いろんな人を紹介してくれたり、案内してくれたりして、気を許してしまったところもあるのでしょうね。1人暮らしのアパートに電話がかかるようになって、六本木のテレビ朝日内にあったレッスン場や原宿の合宿所に出入りするようになったんです。ジュニアたちに交じってレッスンを受け、簡単なダンスを教わったりもしました」

同時にスマイルアップ社長の東山紀之氏も「鬼畜の所業」と認めた魔の手が迫る。「合宿」と称し、所属タレントや予備軍を住まわせていた自宅に泊まっていくよう促された。

「大体お酒を飲まされて、意識が朦朧となっていると、体を撫でまわされるんです。訳が分からないし、もちろん嫌で拒みましたけど、代理店への夢、就職のことが頭をよぎったんです」

性加害の最中、右側の睾丸を噛まれた

それで関係を強制されて2年、3年と歳月は流れた。体を撫でまわした手は性器をもてあそび、口淫、さらに肛門性交を強要されるようになった。いよいよ就職戦線がはじまる4年になり、「マイオフィスに入りなよ」などと言われていた頃、性加害の最中、右側の睾丸を噛まれた。あまりの痛みに声をあげ、ジャニー氏を突き飛ばして帰り、腫れと痛みで病院へ行った。副睾丸炎と診断された。大学の友人からは「絶対に捕まえておけ」「就活の免罪符になる」と言われ、葛藤に葛藤を重ねながら耐えていた結末であった。

広告代理店の夢は九州でかなえた。コネではなく、自分自身の力で。しかしジャニー氏からの連絡を絶った後も、視界をギザギザの光の波が遮る閃輝暗点、ひどい片頭痛に悩まされた。うつと診断されたこともあった。片頭痛は60代になった現在も、治っていない。

「あまりに酷い経験で、抱えきれなかったこともあり、ながく記憶を封印してきたのですが、昨年のBBC報道、平本淳也さんら当事者の会の勇気ある告発を見て、自分も声をあげることにしました。妻にも話せなかったことなのですが。トラウマ、フラッシュバック、不安、自殺も何度も考えた日々、人生を大きく狂わされた悔しさもありますが、こんなこと、絶対にあっちゃいけないと思うんです」

スマイルアップ社に訴えたが、「事実確認できない」と却下された。補償うんぬんというより、その非情な、電話すら受け付けないむげな対応に憤りを覚えているという。

この日の講演で、イェオファントン氏はこう訴えた。

「まだまだ長い道のりが被害者には残っています。補償が適切ではなく、十分ではないし、被害者との話し合いのもとに解決策が進められなければならないのに、救済策にアクセスできる環境すらない」

平本氏らと並んで、ときに目を閉じては講演を傾聴した上田氏。救済とは名ばかりのスマイルアップ社による2次被害の苦しみが、その両肩に漂っていた。

(取材・文=長昭彦/日刊ゲンダイ)

◇ ◇ ◇

スマイルアップ社の救済への動きの鈍さについては、●関連記事【もっと読む】国連は「救済措置が不十分」と指摘 旧ジャニーズ性加害問題で問われる東山社長「解決への本気度」で詳しく報じている。

© 株式会社日刊現代