xMEMS社のイヤホン向け最新ドライバー「Muir」&ヘッドホン向け「Presidio」を先行試聴!

搭載モデルが広がるMEMSスピーカー、次なる提案を一足早くチェック

いまイヤホン用ドライバーの新提案として大きく注目されている“MEMS”。MEMSスピーカー技術はすでにNoble AudioやCreative Technologyなどの完全ワイヤレスだけではなく、ブリス・オーディオの超弩級ポータブルアンプ「冨嶽」にも採用されるほど注目が広がっている。

高域ドライバーにMEMSスピーカーを採用するNoble Audioの完全ワイヤレス「FALCON MAX」
Brise Audioの250万円のポータブルヘッドホンアンプ「冨嶽」の高域ドライバーにもMEMSスピーカーを活用

ただし、現在のところxMEMS社のMEMSスピーカーユニット「Cowell」(コーウェル)のみがイヤホンのMEMSドライバーとして使われている状況だ。少し前の記事で超音波変調方式を採用したMEMSスピーカー「Cypress」(サイプレス)の紹介をしたが、これは少し先の技術となる。

Noble AudioのユニバーサルIEM「XM-1」や「FALCON MAX」などに搭載されるスピーカーユニット「Cowell」。サイズは長辺で約6mm

本稿では現在広く使われ出しているxMEMS社「Cowell」の後継機であるxMEMS社「Muir」(ミュール)と、ヘッドホンに使用するためのMEMSドライバーの提案となるxMEMS社「Presidio」(プレシディオ)の紹介をする。

さらに小型化し消費電力も下げた「Muir」。感度もアップし特性も向上

まずCowellの後継機であるMuirを紹介する。MuirはCowellよりも長さを1mm小型化したユニットで、外見上Cowellとは筐体に穴が穿たれていることで識別できる。Cowellと比較して消費電力は40%も低減、歪みが1/4とかなり低減している。加えて感度も向上している。また周波数特性グラフでは高域のピークやディップがより平滑化されているように見える。

Cowellをさらに小型化した「Muir」ユニットの両面。複数のドット穴になっているのが特徴

実際にMuirのデモ用のユニットを試聴させてもらった。これはxMEMSがデモ用に製作した2ウェイのイヤホンで、高域用MEMSドライバーとしてMuirを搭載、低域用ドライバーにはダイナミック型を搭載している。またユニットのクロスオーバー周波数は高めに設定されている。

Muirのデモ用ユニット。高域のドライバにMuirを使用したイヤホンとDAC&昇圧回路aptos2(小型の箱)がセットになっている

ケーブル途中の四角い箱にはDACに加えてaptos2が左右別に2基搭載されている。aptos2は現在使用されている昇圧回路aptosの後継ユニットで、より小型化されてノイズが低減されているということだ。またその箱には低音調整などのボタンが並んでいるのは試作機らしい。

四角い箱にはDACも搭載されているため、PCとUSB typeCケーブルで繋げば試聴ができる。青と緑の点灯はイコライザーが機能している状態を示す

音は極めて鮮明、MEMSらしいシャープでクリアなサウンドだ。ハイレゾ音源のファルセットボイスが突き抜けるように上に伸びていくように感じられるし、とても細かい音までよく聴こえる。高い周波数帯だけではなく全域が引き締まって聴こえるが、これはスーパートゥイーター的に使用しているからかもしれない。

聴覚的には今まで聴いてきたCowellユニットの音よりも著しくレベルアップしている。すっきりと雑味なく整い、歪み感がとても少ないサウンドだ。かなり歪みが少ないので、イヤホンにイコライザーを適用しやすく、チューニングしやすいドライバーとして応用できるそうだ。

Muirが製品に搭載される時期は未定だが、そう先のことではなさそうだ。

ホーン型ユニットとして考案されたヘッドホン向け「Presidio」

次にヘッドホン向けの「Presidio」を紹介する。現在MEMSドライバーはイヤホンに主に採用されているが、これをヘッドホンに適用したドライバーがPresidioだ。PresidioはCowellやMuirのようにチップとしてのMEMSスピーカーの名前ではなく、ヘッドホンに使用するためのホーン型MEMSドライバーのユニットを指すようだ。

高域にPresidio、低域にダイナミックドライバーを搭載した技術デモ用ヘッドホン

本稿ではチップ自体や技術についてはMEMSスピーカーと呼称し、製品に搭載されたものをMEMSドライバーと呼称しているが、それはこうした実装上の違いが生じるためだ。

Presidioはヘッドホンに搭載することを念頭に開発されたドライバーユニットで、音圧を高めて音の広がりを持たせる特徴がある。ホーン型の形状をした本体構造に、2基のMEMSスピーカーを背面に向けて設置したドライバーとなる。製品に向けたPresidioにはMuirが使用される予定だが、今回試したモデルではCowellが2基搭載されていた。

ホーン型形状のPresidio。この図では、中央にMuirの背面が2個見えている

MEMSスピーカーを背面に向けているのは音をいったんホーン型のコーンで反射させるためだ。このことにより能率と音の広がりを向上させている。ヘッドホンの場合には2基使用しているわけだが、これもシリコンウエハーから製作されるMEMSスピーカーの特性として製造誤差がほとんどなく、位相誤差もほぼないので可能となっているとのことだ。将来的にはさらに増やしたアレイ構造も可能だろう。

試作のモデルは市販のANCヘッドホンにダイナミックドライバーと高域用にPresidioを組み込んだものだ。

DAC&昇圧回路(四角い箱)はイヤホンと同じものを使用している

ジャズヴォーカルを聴いてみると、曲の出だしのベース部分から女性ヴォーカルが入った瞬間に思わずハッと声をあげてしまったくらい音が鮮明でくっきりとした明瞭さが感じられた。

女声ヴォーカルのリファレンスによく使うSHANTIを聴いても、歌声がいつもよりもクリアに聴こえる。楽器音も明瞭感が高くタイトなので、倍音成分の再現性も良さそうだ。音の広がりも良好である。

最近ヘッドホンは完全ワイヤレスイヤホンに比べると製品ライフが長いのでメーカーから見直されてきているが、PresidioによってMEMSドライバーを採用して2ウェイで開発するメーカーも出てくるかもしれない。

初めてMEMSスピーカーの音を聴いた時から毎回思うのだが、その音自体が単に鮮明とかクリアというよりも、いままで聴いたことがない音と言った方が正しいかもしれない。ただ残念ながら言葉で表現し難いということを今回も感じた。

最近ではMEMSスピーカー技術はトランジェントが高く、位相が揃っていて遅延が極めて少ないと言う特徴からゲーム業界からも注目されているという。MEMSスピーカーのオーディオ分野での実用化はまだ始まったばかりであり、これから様々な形で応用されていくだろう。

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