三陸のサケの“未利用部位”を活用~幾度もの苦難に見舞われた水産加工会社 しょうゆ店とのタッグで生まれた新商品で前へ!

三陸のサケを使った新たな挑戦です。岩手県普代村の水産加工会社が盛岡市の老舗しょうゆ店とタッグを組んで、サケのこれまで十分に活用されていなかった部位を使い、アレルギーにも配慮した「鮭醤(けいしょう)」を開発しました。

大正3年創業の老舗のしょうゆ店、浅沼醤油店です。

6月19日、盛岡市黒川の工場に大量のある物が運び込まれました。

「はーい、お疲れ様でした。待ってました」
「原料になる『サケ』が届いた」

届いたのは魚のサケです。ただサケといっても身の部分ではなく、低価格で取り引きされスナック菓子などに加工される「中骨」や、通常であれば廃棄される「頭」など、これまで活用が不十分だった部位です。

その量およそ1.5トン。何に使うかというと・・・

(浅沼醤油店 浅沼宏一社長)
「『鮭醤』(けいしょう)は注目している人がいて」

「鮭醤」とはサケを原料としたしょうゆのことで、浅沼醤油店では2023年12月から販売しています。

老舗しょうゆ店の4代目社長、浅沼宏一さんが力を入れているのは、地域の資源を活用したしょうゆ造りです。

(浅沼宏一社長)
「2006年、前勤めていた食品会社の先輩から『(学校で)アレルギーを持っていてみんなと同じ給食を食べられない子どもたちが増えているので、大豆や小麦を使わない醤油を作れないものか』と相談を受けた」

浅沼さんは、県内で生産が盛んな「雑穀」など様々な原料を使ったしょうゆの製造の研究を重ね、これまでに開発したしょうゆは試作品も含めると100種類以上にも上ります。

サケを活用したしょうゆの原料となる中骨や頭を提供しているのは、普代村の水産加工会社、カネシメ水産の社長・金子太一さん(39)です。

(カネシメ水産 金子太一社長)
「みんな当たり前に取れていた資源がどんどん枯渇している中で、どうやって自分たちの生活を守っていくか。(去年)新巻鮭を作るサケ10トン買えていない。17、8年前はおそらく100トンは超えていた」

浅沼さんと金子さんの出会いは3年ほど前。

年々減少する水産資源を有効活用しようと意気投合し、タッグを組んだ2人は2年ほどかけてしょうゆの開発を進めてきました。しかし・・・

(金子太一社長)
「いざお披露目の話が進んでいて、直前(2023年)5月27日に弊社の作業場と工場が工場火災を起こしてしまい、焼失してしまった」

東日本大震災にコロナ禍、原油高や物価高騰に漁の不振など、様々な困難に直面してきた金子さんに、さらなる苦難が立ちはだかります。

(金子太一社長)
「妻にも支えられ、子どもたちにも支えてもらって、父親として夫として会社の代表としてこのままじゃいけないなと」

前を向く金子さんを浅沼さんも支えました。

(浅沼宏一社長)
「(金子さんの)『自分には水産をなんとかするというところで生きていくしか道がない』と立ち直っていく姿を間近で見ながら、心強く勇気をもらった」
(金子太一社長)
「魚に付加価値をつけて売るという高付加価値化をずっと進めてきたのもあったので、あきらめるわけにもいかない。この『鮭醤』という商品は魚屋の復活ののろしになるような商品だと思っている」

サケのしょうゆを造るに当たって苦労したのは、サケ特有の生臭さです。

浅沼さんは、脂の少ない中骨と頭を厳選して使うことで臭みを抑えました。また、発酵の温度に時間、麹の割合を変えながら、およそ300通りの造り方を試し、最も臭くならない製法を選びました。

完成したのは濃厚な味わいの「濁りタイプ」と、ろ過して作った「クリアタイプ」の2種類です。

シンガーソングライターの松本哲也さんが経営する盛岡市内の飲食店で、この鮭醤(サケのしょうゆ)の説明会が行われました。

「えらや内臓といった普段廃棄していてる場所とはいえ、鮮度のいいものを厳選して使用している。本当にサケの味しかしません。サケしか使っていないので」

説明会では「鮭醤」を使って作った汁物などが振舞われました。

(試食した人)
「サケの味と他のだしとが一緒に混ざっていい感じ」

(シンガーソングライター・松本哲也さん)
「火災とか色々あって、何か応援できることないかなというのが一番。非常に上品
で奥深い味もするし、魔法のしょうゆ」

サケのしょうゆに金子さんと浅沼さんの2人が感じるているのは、「地域の食の未来」です。

(金子太一社長)
「より安心・安全の食料品を提供して、まずは胃袋から幸せになってもらって、体も健康になってもらいたい。『自分たちの地元の食材だ』と岩手の人たちが胸を張って言っていただければ、これ以上幸せなことはない」
(浅沼宏一社長)
「ただ『もったいない』ということではなくて、そこに思いを伝えて、お互いに未来に商品を残していく気持ちを込めて、仕事として未来につないでいきたい」

苦難を乗り越えて完成させたサケのしょうゆ。

その一滴一滴に2人の熱意が込められています。

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