「偽装フリーランス」週60時間勤務も残業代なし?アマゾン配達員裁判から見る「直接雇用」との違い

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5月24日、ネット通販大手アマゾンの配達員が、業務委託先の下請け業社に対して、計1億1682万円の残業代の支払いを求める訴えを横浜地裁に起こした。

裁判を起こしたのは業務委託の配達員16人で、配達員は週5日、1日12時間程度配達で拘束され、アプリで配達ルートや荷物の数を指示されるなど、事実上指揮命令下に置かれた「労働者」に当たるにもかかわらず残業代が支払われていないと主張している。

このように、フリーランスで自律的な働き方を選択しているにもかかわらず、実際の勤務形態は直接雇用の「労働者」と同じ人は「偽装フリーランス」と呼ばれている。偽装フリーランスとみなされれば「雇用契約のある労働者」となるわけだが、それぞれにどのような違いがあるのだろうか。社労士としての資格も持つ門田睦美税理士に聞いた。

●労働者は「不払いリスクがない」「失業給付を受けられる」など保証が手厚い

ーー業務委託ではなく、雇用契約を結ぶことで、労働者側は待遇面にどのようなメリットがあるのでしょうか。

「雇用契約を結んだ場合には、労働者は『労働法』で守られることになります。どのような報酬が支払われるかは契約によりますが、たとえば時給で契約した場合には、時給に労働時間を掛けた金額は保証され、1か月に一度必ず支払いを受けることになります。不払いのリスクはなくなり、労働時間に応じた報酬が期待できます。急に仕事がなくなり報酬(給与)をもらえなくなるようなことはありません。

そのほか、雇用主の都合により休業する場合には、労働基準法により平均給与額の60%以上の支給を受けることになります。このように、給与に関しては様々な法律があり、ある程度収入の保証がされることとなります。

また、週平均労働時間により、雇用保険や社会保険に加入することができます。負担する保険料は雇用側と労働者が折半するため、労働者側から見ればその分有利になります。

万が一仕事を退職または解雇された場合には、失業給付を受けられるのもメリットと言えます(自己都合退職の場合には一定の制限あり)」

●収入から差し引ける控除額は、給与所得のほうが多い

ーー雇用契約を結ぶ場合と、フリーランス(個人事業主)として業務契約を結ぶ場合とでは、労働者にかかる税金はどのように違うのでしょうか。

「業務委託の場合には、受け取る報酬は雑所得または事業所得となります。一般的に当該事業にかかる費用は少ないケースが多く、必要経費は会社から支給されるもので賄われていることが多いと思います。その場合、収入に対する費用はあまりないため(または認められる直接費用が少ない)、受け取った金額にそのまま税金が課されることになります。

なお事業所得に該当すると、青色申告申請を行うことで『青色申告控除』を受けることができます。正規の簿記に従った記帳で、かつ電子申告または電子帳簿を行っていると65万円、正規の簿記に従った記帳の場合は55万円、現金基準などの簡易な帳簿の場合は10万円の特別控除があります。

一方、労働者として雇用契約がある場合の収入は『給与所得』になります。給与所得は金額に応じて最高195万円までの給与所得控除が無条件に適用されます。従って多くの場合は、給与所得の方が税金の負担は軽減されると考えます」

●あえて業務委託契約を結ぶときに注意すべきポイントは?

ーー中には事業所得の方が有利になるケースもあるのでしょうか?

「前述したケースのほかにも、副業などの場合で事業所得が有利であるため、業務委託契約を希望する方もおられると思います。たとえば本業で社会保険や給与所得の給与所得控除は既に利用しているようなケースの方が該当します。

中でも、当該年度の2年前の所得が1,000万円を超えていて消費税課税事業者であったり、取引先(副業先)からの要請により適格請求書発行事業者を選択しているなどで、報酬と費用に対する消費税の差額を納税、または還付を受ける場合です。

給与であれば消費税は課税されないので、そもそも消費税の還付はありません。

業務委託契約で納税をする際には、費用に対する消費税相当分だけ納税額は少なくなります。しかしながら、費用は事業に直接関係するものに限られるため、報酬に係る費用に対する仕入税額控除は慎重に考慮する必要があります。

そもそも先に述べているように、業務委託の場合、必要な費用は会社が支給しているケースが一般的なため、あまり多いとは通常は考え難いです」

● 業務委託契約を結ぶ際の6つのチェックポイント

「業務委託契約を選択する場合には、給与とみなされないようにすることは最大の関心事です。そのため、下記の項目に該当しないかを確認していただく必要があります。

(1)報酬の計算が時間や日などにより計算されていないこと
(2)業務使用する主たる必要な材料や用具が支給されていないこと
(3)報酬は、成果報酬であり仕事の完了により支払われること
(4)指揮監督下にないこと、場所その他作業を行う方法を自由に選べること
(5)当該請け負う仕事が他の人でも実施することができること
(6)時間拘束がないこと、納品期限を守れば自由に時間を選択できること

また、業務委託契約とみなされても、その所得が事業所得と雑所得のどちらに該当するかという問題もあります。

雑所得とは、他の所得に類しない所得であり、控除できる経費には制限があります。また、事業所得のように損失が発生することは考えられておりません。従って雑所得でマイナスは存在しないため、ほかの所得と損益通算することもできません。青色申告控除の適用もありません。

副業による所得が事業所得として認められるかは、『記帳を行っている』『年間収入金額が300万円以上、または主たる収入の10%以上』などで判断されます。なお当該判断にはそのほかの要件も総合的に含める必要がありますので、ぜひ税理士に相談してみることをお勧めします」

【取材協力税理士】
門田 睦美税理士
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事務所名 : 門田 睦美税理士事務所
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