海外ライターF1コラム:ドライバー最低年齢変更を考える。フェルスタッペンらも認める、早期デビューがもたらし得る困難

 ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、F1に参戦できる最低年齢が18歳から17歳に変更されるというトピックを取り上げた。

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 F1で走れるのは何歳からと定めるべきだろうか。FIAは、以前、F1出場に必要なスーパーライセンスを取得できるのは18歳以上という規則を設けた。現世界チャンピオンのマックス・フェルスタッペンが最年少記録を塗り替えた後のことである。

 2014年8月、レッドブルが所有するトロロッソ(現RB)と最初のF1契約を結んだ時、フェルスタッペンは16歳だった。その数週間後、17歳と3日で、彼は日本GPで金曜プラクティスデビューを飾った。2015年シーズンが3月にスタートした時、フェルスタッペンは17歳で、F1史上最年少ドライバーとなり、翌年スペインでは18歳でF1史上最年少でのグランプリウイナーとなった。

ヨス・フェルスタッペン(左)とマックス・フェルスタッペン 2014年F1日本GP
2016年F1第5戦スペインGP マックス・フェルスタッペンがF1史上最年少で優勝

 運転免許を取得する前にF1レースで走れるというのはあまり良いことではない、といった考え方もあり、FIAはその後、スーパーランセンスを取得するには18歳以上でなければならないという規則を導入した。

 しかし今年、FIAは再び考えを変え、17歳でもスーパーライセンス取得が可能になるよう、ルールを変更した。

 この変更で誰もが思い浮かべたのは、メルセデスのジュニアドライバー、アンドレア・キミ・アントネッリのことだろう。彼は現在17歳で、メルセデスは来年、ルイス・ハミルトンの後任に彼を起用しようとしている。

 アントネッリは、FIA F3をスキップして今年FIA F2に参戦している。その彼を来年F1に昇格させるには、今年のうちにF1カーでの経験をできるだけ多く積ませる必要がある。すでにメルセデスは何度もアントネッリのためのプライベートテストの機会を設けているものの、F1公式プラクティスや、可能であればレースで走らせることができれば理想的だろう。今年のうちにもウイリアムズがローガン・サージェントの代わりにアントネッリを乗せるのではないかといううわさが、少し前に流れていた。

アンドレア・キミ・アントネッリがF1初テスト(メルセデスW12)

 アントネッリはここまで、稲妻のように素早くキャリアを駆け抜けてきた。わずか1年半でF4からF1の入口までたどり着いたのだ。その過程で彼は、メルセデスのジュニアドライバー、フレデリック・ベスティを追い越した。メルセデスはどうやら現在22歳のベスティをF1チームに起用することは考えていないようで、アントネッリが参加したプライベートテストでは、ミック・シューマッハーを走らせ、ベスティは呼ばなかった。

 アントネッリの今後のプランについては正式な発表はないが、一般的に考えて、17歳はF1デビューに適した年齢なのだろうか。

「年齢の問題ではなく、成熟しているかどうかが重要だ」とフェラーリF1チーム代表フレデリック・バスールは述べている。

「若くても、非常に成熟したドライバーもいる。一方で、30代になっても成熟していないドライバーがいるのだ」

 フェルスタッペンはデビュー時に17歳ではあったものの、F1への準備は整っていた。それでも彼は苦労したという。

「学ぶべきことがたくさんある。僕自身について言えば、1時間半以上のフルレースディスタンスを走ることが最大の問題だった。それまで走っていたF3では、レースは35分間くらいのものだったからね」

 ケビン・マグヌッセンは、2014年にマクラーレンでF1デビューを飾った時、21歳だった。

2024年F1モナコGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

「17歳でもF1レースに出られるようになったのは素晴らしいことだと思う」と現在31歳のマグヌッセンは言う。

「年齢に関係なく、F1にデビューすることは、簡単なことではない。精神的な準備が重要なんだ。さらに、どういう形でF1の世界に入っていくかということも重要だ。僕の場合、今思えば、(2013年に交渉した)フォース・インディアでデビューした後、1年か2年後にマクラーレンのようなトップチームに移った方がはるかに楽だっただろう。いきなりマクラーレンでF1にデビューするのは、大変なことだった。たまたま彼らは不調な時期だったのでなおさらだ」

「チームが好調な時に、若い歳で加入すれば、年齢がアドバンテージになる。勢いと、若さゆえの自信をうまく生かすことができるからだ。でも状況によっては、逆に不利になることもある。若い時は道を外しやすいんだ。物事がうまくいかないことが、自己強化につながる場合もあるし、その逆の場合もある。非常に若い年齢でF1にデビューする場合、どちらに転ぶ可能性もあると思う」

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■リカルド・ロドリゲス
 裕福な父親が1961年に彼のためにフェラーリのシートを手に入れ、19歳でF1にデビューした。素晴らしい速さを発揮し、デビュー戦で予選2番手を獲得。その速さは主に、驚くほどの大胆さからもたらされたものだった。デビューからわずか1年後、ロドリゲスは、地元メキシコシティのサーキットでのメキシコGPのプラクティス中に事故を起こし、死亡した。20歳で命を落とした彼は、国民的英雄として国葬され、大統領も追悼の儀に立ち会った。

■マイク・サックウェル
 ニュージーランド出身のサックウェルは、9歳でモトクロスを始めた。1970年代末にヨーロッパに移り住み、すぐにフォーミュラ・フォード、後にF3で成功を収めた。1980年、19歳の時に、当時の史上最年少ドライバーとしてF1にデビュー。しかし、天賦の才能にもかかわらず、期待された結果を出すことができなかった。モータースポーツの世界から去った後は、オーストラリアの金鉱で働き、現在はイングランド南部の海岸沿いで暮らし、波が許す限り、夏冬問わず、サーフィンを楽しむ生活を送っている。

1980年F1オランダGP マイク・サックウェル

■ハイメ・アルグエルスアリ
 スペイン出身のアルグエルスアリは、2008年にイギリス・フォーミュラ3選手権を制し、レッドブルの育成プログラムのメンバーになった。2009年、レッドブルのジュニアチーム、トロロッソから19歳125日でF1にデビュー。これは当時の最年少記録だった。その後、2年半にわたりトロロッソで走ったが、2011年末に解雇された。今はスペインのトップDJのひとりとして活躍している。

2009年F1ハンガリーGP ハイメ・アルグエルスアリとトロロッソ代表フランツ・トスト

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