苦難の時期を乗り越えて――。細谷真大はエースとしての矜持を持って大舞台へ。自身初の世界大会で輝けるか【パリ五輪の選ばれし18人】

パリ五輪に挑む大岩ジャパンのメンバーがついに発表された。ここでは56年ぶりのメダル獲得を目ざすU-23日本代表の選ばれし18人を紹介。今回はFW細谷真大(柏レイソル)だ。

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前線からのハイプレス。大柄な相手に寄せられても倒れないタフさと推進力。大一番で決め切る力。得点以外でチームに貢献でき、ここぞという場面で頼りになる男が細谷だ。

小学校時代は、柏レイソルのアライアンスアカデミーであるTOR'82に所属。U-12のナショナルトレセン関東にも選出された。中学1年生から所属する柏U-15では中3の時にクラブチームのオールスターマッチであるメニコンカップに出場。U-18チームでは高校1年次、U-18プレミアリーグEASTで出場機会を得られなかったが、高校2年次から本格的に出番を掴んだ。

高校3年次の3月には2種登録のまま、トップチームでデビュー。クラブレベルで順調に成長を遂げ、プロの世界に飛び込んだ。

プロ1年目となった2020年シーズンは2試合の出場に留まったが、翌シーズンからはレギュラーに定着。2022年シーズンにはJ1で8ゴールを挙げ、ベストヤングプレーヤーにも輝いた。そして、昨季は自身キャリアハイとなる14ゴールを奪い、Jリーグでは若手No.1ストライカーの称号をほしいままにした。

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U-23日本代表でもチーム発足当初からポジションを掴み、ほとんどの活動に参加。2022年には主力組不在のE-1選手権でA代表デビューを飾ると、2023年11月のワールドカップ2次予選に招集されて、21日のサウジアラビア戦で初ゴールを決めた。今年1月のアジアカップにも参加。フィールドプレーヤーではパリ五輪世代から唯一招集された。

ここまでのキャリアを振り返れば、エリートコースを歩んできたように思える。しかし、2種年代までは日本代表にほぼ縁がなく、立場はいつも同世代の仲間を追う側だった。

2019年に一度だけU-18日本代表候補の合宿に参加したが、2021年のU-20W杯(2020年末に中止が決定)を目ざすチームでもコアメンバーではない。もし、大会が開催されていたとしても、リストに入っていたかは分からないだろう。

それでも、クラブで地道に積み重ね、一歩ずつ前に進んできた。また、偉大な先輩の存在も大きく、過去のインタビューではこんなことを話している。

「(江坂)任くんは本当に上手かったし、オルンガは凄かった。得点のパターンが広くて、どこからでも決めていたんですよ。盗めるモノはしっかり盗もうと思っていたし、本当に裏への抜け出しとかは参考にさせてもらっていたので、良かったなって思います」

圧倒的な破壊力を持っていたFWオルンガ(現、アル・ドゥハイル)や技巧派のFW江坂任(現、蔚山現代)から学び、裏抜けやゴール前のポジショニングを磨いた。

また、ネルシーニョ監督との出会いも見逃せない。守備の重要性を説かれ、ストライカーでありながらもファーストDFとして献身的に戦うことを求められた。

そうした幾つもの出会いを経て、細谷は右肩上がりで成長。気が付けば、パリ五輪世代を代表するFWになっていたのだ。

そんな細谷も今季は苦しんだ。昨年11月を最後に公式戦でゴールがなく、今季も開幕してから、クラブでも代表でも点が取れない。状態は悪くなく、持ち前の推進力や守備力を発揮した一方で決定機を決め切れない日々が続いた。

そのなかで迎えたパリ五輪のアジア最終予選を兼ねた春のU-23アジア杯。3位以内で五輪にストレートイン、4位の場合はアフリカ4位のギニアと一発勝負のプレーオフに回らなければならない。今まで味わった経験がないようなプレッシャーを感じる状況で期待をされたが、グループステージでは無得点。周りには決して見せなかったが、細谷は自身の状況を理解しており、焦りもあった。

「難しいですけど、焦りがないと言ったら嘘になる。取れていない状況というのは自分の中で受け止めています」

迎えたカタールとの準々決勝(4−2)。負ければパリへの道が潰える大一番で、誰に聞いても準決勝以上のプレッシャーがあったと話すなか、2−2で迎えた延長の101分だった。荒木遼太郎のスルーパスに反応し、見事なターンからネットを揺らす。待望の自身大会初ゴールに細谷の顔から笑顔が溢れた。

「色々な感情がありますけど、決められたことが嬉しい」とは細谷の言葉。呪縛から解き放たれた点取り屋は、続くイラクとの準決勝(2−0)でも得点を決めて完全復活をアピールした。

クラブに戻ってからもリーグ戦で今季初ゴールを奪い、徐々に本来の姿を取り戻しつつある。どんなに苦しい状況でも周りの声に左右されず、自らの力で這い上がってきた。このスランプを経て、またひとつ強くなった男は自身初の国際舞台に向けて闘志を燃やす。

頼れるエースとして、日本のために戦う準備は整った。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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