<新紙幣、新時代。>栄一翁の想い継ぐ~(1) 栗山英樹さん「渋沢は近くで生き続ける存在」

「渋沢栄一は『先生』であり『師匠』。渋沢栄一先生に恥じない生き方をしていきたい」と伝えた北海道日本ハムファイターズCBO栗山英樹さん=北海道北広島市のエスコンフィールドHOKKAIDO

 2024年7月3日、ついに発行となる新紙幣。新1万円札の肖像となる渋沢栄一翁は、我々の故郷・埼玉県深谷市の出身です。

 「道徳経済合一」や「論語と算盤」など栄一翁の精神は、変化に富む現代においても脈々と受け継がれ、多くの日本人がその魂に触れ、影響を受けています。

 「新紙幣、新時代。~栄一翁の思い継ぐ~」では、地元深谷や栄一翁にゆかりのある皆さんに、栄一翁の残した「言葉」を選んでもらい、語っていただきました。

 いよいよ新時代の幕開けです。栄一翁の新1万円札を手にしたら、その教えについて考えてみませんか。

■「成功や失敗のごときは、ただ丹精した人の身に残る糟粕のようなものである」(「論語と算盤」成敗と運命)

 日本全体が転換期を迎えようとしている現代社会。渋沢栄一が新紙幣の顔になることは、使命であり必然であると感じています。個人的には、最初に出会った新1万円札は飾っておきたいです。

 「論語と算盤」との出会いは40歳ごろ。現役引退後、さまざまな勉強をする中で、「このままではいけない」という漠然とした迷いがありました。その時に、経営者の座右の書という新聞の特集で挙がっていたのが「論語と算盤」でした。一度手にしたのですがとても難しく、守屋淳先生の新書版を読み、少しずつ理解していきました。

 最も印象に残った言葉は、「成功や失敗のごときは、ただ丹精した人の身に残る糟粕のようなものである」。人間は結果にとらわれがちだけど、本当に大事なことは努力した形だと教わりました。野球でも好成績を出すことは重要ですが、そこに引っ張られてしまい、正しい行動や振る舞いが曲がってしまうことは意に反する。その過程が正しければ何かが必ず生まれる。近代日本を大きく変えた人物からの言葉は励みになります。

 指導者時代、「論語と算盤」を選手一人ひとりに配ったこともありました。プロ野球選手という憧れの存在になったからには、プレーだけでなく内面もかっこよくあり続けてほしいという願いを込めました。講演録でありながら、内容は難しく理解しがたいと思いますが、渋沢が何を考え、どう行動したのかが一番良く分かる一冊です。人生の中でいつかこの本の重要性に気付く時が来るはず。生活の変化や、誰かのために行動しなくてはならない瞬間に、「論語と算盤」が身近にあることは、必ず意味があると信じています。

 いつか「論語と野球」という本を執筆することが、ひとつの夢です。「道徳と金もうけ」という相反するものを、渋沢は論語でできると証明しています。野球も同じで、例えばチーム順位が最下位でも、個人成績が良ければ年俸は上がってしまう。一般社会ではありえない状況です。その時におごるのではなく、次は勝利のために何ができるのかを自然と考える。人格を含めて立派な野球人になってほしい。私の野球観は「論語で野球をやる」という思いです。技術を教える前に、まずは「ひとづくり」だと。渋沢は論語を用いて金もうけをしたことで、信用を生み成功の確率を上げました。より良い結果を出すために、「論語で野球をやろうぜ」と言い続けたいです。

 私にとって渋沢栄一は、「先生」であり「師匠」です。渋沢だったらどう動くのかなと、ふと頭の中に浮かぶことがあります。過去の人物というよりは、近くで生き続けている存在です。渋沢の精神を、日本人が理解できる時代がようやくやってきました。「自分はどう生きていくのか」ということが、今後の人生に課されたテーマだと心に刻んでいます。決して褒められた人間ではないけど、60歳を超えたいま、渋沢栄一先生に恥じない生き方をしていきたいです。

(2024年7月3日 埼玉新聞発行「新紙幣、新時代。~栄一翁の思い継ぐ~」より全文掲載)

■くりやま・ひでき

 1961年4月26日生まれ。東京都小平市出身。1984年ドラフト外でヤクルトスワローズ入団。89年ゴールデングラブ賞。90年引退。テレビ解説者等を経て、2012~21年まで北海道日本ハムファイターズ監督として指揮を執り、16年にはチームを日本一に導いた。21年野球日本代表(侍ジャパン)監督就任、23年WBCで優勝。24年から日本ハムのチーフ・ベースボール・オフィサー。

 第2回は7月4日(木)、渋沢栄一記念財団相談役・渋沢雅英さんを配信予定です。

=埼玉新聞WEB版=

渋沢栄一について語る北海道日本ハムファイターズCBO・栗山英樹さん

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