676グラムで産んだ子の「服がない」自身の経験から「超低出生体重児の服」を作る女性

「なんてことをしてしまったんだろう」

栗原涼子さん(45)は、第1子の雄くんを産んだとき、そう思った。予定よりかなり早い早産。わずか676グラムでの出産となってしまったからだ。

▽栗原涼子さん
「結婚式をした直後の突然の出産だったので、強く残っています。≪そのせいじゃないよ≫って皆言ってくれるんですけど、そうだとしか自分がとらえられなくて、ずっと悩んでいた」

雄くんが産まれたのは、2015年7月、涼子さん夫婦が結婚式をあげて1週間あまりが過ぎたころだった。妊娠7か月(24週と2日)での分娩。とても小さく産んでしまったという自責の念が、長い間こびりついて離れなかったという。

雄くんは新生児集中治療室(NICU)で健康管理されながらゆっくりと成長。涼子さんは、息子と定期的に面会し、なでる、声をかけることくらいしかできなかったと、当時を振り返る。

▽栗原涼子さん
「保育器を見つめるだけの時間がとても辛くて」「保育器内の温度調節を気にして長時間なでることができず、他の親子もいるので、声をかけるにも機械の音にかき消されるくらいの小さな声しか出せなくて。長い時間滞在することも可能でしたが、居たたまれず早めに面会終了することもありました」

雄くんの入院が100日に及ぼうかという頃、涼子さんはある悩みに行き当たった。

▽栗原涼子さん
「洋服のことを意識しだしたのは退院直前でした。入院中は病院の洋服を着けているのでよかったけど、雄くんの帰宅に向けて準備に迫られたときに、小さめの服が見つけられなかった。ネットでも海外のサイトとか、買い方も実際のサイズもよく分からなくて、あきらめて店で売っているものを買ったけど、ぶかぶかで」

100日の記念の服は、前に入院したお母さんたちが残していったものを、病院が貸してくれた。息子に着せたいものを、ぴったりのサイズで選ぶ余裕はなかった。

退院時の体重はまだ2426グラム。車のベビーシートに乗せるのも、体がゴロゴロと余り、怖かったほど。あまりにも小さな我が子に着せる服はなかなか見つからなかった。

今年6月16日。涼子さんは、成長した雄くんと妹、夫の家族4人で北谷町の保健相談センターにいた。この日およそ10家族、25人ほどが参加した「やんばるちびっこの会」。

涼子さん・雄くん親子のように、国の定義で最も小さな新生児にあたる、出生体重1000グラム未満の「超低出生体重児」の家族が多く参加していた。楽しそうに遊んでいた子どもたち、親たちは皆、その当事者たち。ほかに管理栄養士や保健師も参加していた。

ー親たちの自己紹介ー
「979グラムで生まれました」
「550グラムで生まれました」「2歳半ですが飲み込みが難しくてまだミルクで…」

涼子さんが初めてこの会に参加したのは3年前。
自分と同じような育児の不安、悩みを抱える人たちと知り合ったことで、我が子があまりにも小さかった頃のことを振り返る余裕が少し生まれたという。今では事務局として活動をサポートしている。

「やんばるちびっこの会」の発起人で、自身も超低出生体重児を産んだ経験のある石上朱美さんは、「ここでしか話せないことがある」と会の役割を語ってくれた。

▽石上朱美さん
「みんな経管で栄養をとって育つので、食べないことが一番の悩みで、その相談や、発達具合に関する話も多いです。保育園には行かせたほうがいいか、とか。たいてい肺に疾患があるので行かないほうがいいと言われることもあるので。あとは、普通学級・学校なのか、特別支援学校に行くのかとか、成長のステージによって様々なことを話せる」

会に参加するようになり、同じ悩みを抱える人はたくさんいると改めて感じた涼子さん。雄くんがぶかぶかの服を着ていた頃を思い出した。

▽栗原涼子さん
「洋服のサイズが大きいと、より子どもの小ささが目立ち、悩む。そんな人はもっといるんじゃないかと。今私は息子も大きくなって小学校に上がるけど、今まさに出産してNICU<新生児集中治療室>に通ってるお母さんもいる、なにかできないかな」

早速行動に移した。

▽栗原涼子さん
「もともと趣味で、学生時代に洋裁をやっていたんですが、この肌着作りをやりたいなと思ってから洋裁教室に通いはじめて、今も通っています」「これをやりたいなと思ってからは、壊れていたロックミシンも修理に出して。コロナ禍でマスクづくりのために親が買っていた普通のミシンも家にあって」

そして一昨年の9月ごろ、小さな赤ちゃんのための肌着の試作品が、初めて完成した。製作したのは、着丈わずか24センチのとても小さなベビー服。体重2300グラムほどの大きさの子にぴったりだ。

涼子さんは、この服の販売や、NICUがある医療機関に寄贈する活動を始めた。先日、この活動が地元紙で取り上げられると大きな反響があったという。

▽栗原涼子さん
「入院している人へのプレゼント用などが何件かありました。<小さいサイズが見つけられないと思っていた時に記事を見て、顔がほころびました>そんなメッセージが入っていた」

1000グラム以下で産まれてくる超低出生体重児は、国内の出産全体の0.3%と、一定数いるのが現状だ(厚生労働省・2019年)。かつての涼子さんと同じように悩んでいる人は少なくない。

小さなベビー服は、そうした子を持った親の心の隙間を埋める。また涼子さんは自身の体験から、完成品のベビー服だけでなく、あえて縫い合わせる前の「手縫いキット」も用意している。

▽栗原涼子さん
「私も息子が保育器に入っていた当時を思い出して、できるなら自分で縫いたかったと思ったからです。保育器に入っている間って、面会してちょっとタッチするくらいしかできることがなくて、こういうのがあったら作りたかった。同じように思うお母さんがいるんだったら自分ででも作れるようにキットを提供しようと」
「当時は、童謡を流している方や搾乳室で雑談しているママさんたちが眩しく見え、私は自分から声をかけることができませんでした。もし私みたいなママさんがいたら、肌着を介して自分から声をかけるきっかけになったらいいなと思ったことも理由のひとつです」

我が子を抱けない時間にも親としてできることを提供し、少しでも気持ちが楽になってほしいという思いが、「手縫いキット」には込められている。最後に、同じような境遇にある親たちにメッセージを寄せてくれた。

▽栗原涼子さん
「想定外の出産に、多くのママさんが自分を責めると思います。それでも、自分を責め過ぎないで。赤ちゃんと自分のためにできることを探してほしいと思っています。自分が “穏やかな気持ちになれる” “少しでも心が軽くなる”ような、自分に合う方法を見つけてほしいです。ご家族や話せるご友人、病院の方に話をして頼ったりして、どうか頑張りすぎないで」

「そして、“やんばるちびっこの会”のような当事者の親の会は、全国各地にあります。必要な方はそれぞれ自分のタイミングでそこに繋がってほしいと思います。そして一緒に子どもの発達成長を喜んでくれる、共感し合える人に出会えるといいなと思います」

小さなベビー服の詳細は、涼子さんが立ち上げた事業「Angelin」のHPから確認できる。(取材 久田友也)

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