認知症の人はどうして覚えられない?覚えたい情報をキャッチできない注意力のフィルターが粗くなった世界とは!?【認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方】

3:覚えたい情報をキャッチできない注意力のフィルターが粗くなった世界

○エピソード

母に、近くのスーパーで買い物を頼んでいます。買う物をメモに書いて行ってもらうのですが、毎回まったく違う物を買ってきてしまいます。

【あるある行動】頼んだ物と全く違う物を買ってくる

認知症になると、目や耳などで情報を得ても、情報を取捨選択する「注意力のフィルター」が誤作動し、脳の中まで到達しにくい状態になります。さらに、インプットされても伝達がうまくできず、行動に移せないこともあります。特にアルツハイマー型認知症は、初期からこのような状態が出やすいといわれます。

また、情報の記憶・保持・想起時に周囲が騒がしいと、覚えたい情報以外のことがたくさん入ってきて、注意力がそがれ、集中するのが難しくなります。あたかも注意力のフィルターの目が粗くなり、全て通り抜けてしまうようです。そのため、認知症の人は、2つ以上のことを同時にすることが苦手です。

さらに、買い物で「同じような複数の物の中からどれか1つを選択する」という行為にも注意力が必要で、なかなか困難なことなのです。

このケースでは、買い物メモを作ったこと自体が脳に伝わっていない、伝わったが保持できない、保持はしていても思い出せないなどの「システムエラー」が起こっているのかもしれません。

私たちはみな迷いながら日々選択しています。この迷いが、認知症の人にとって適度なよい刺激であれば、認知症の進行予防として、失敗を前提としてお願いしましょう。買い物が成功したがどうかにかかわらず、「ありがとう、助かるよ」と伝える一連のやりとりが、「認知症の進行予防」になります。

○もしあなたがこの世界にいたら?

とても賑やかで大きな声が飛び交う部屋の中。あなたは集中して複数の物ごとを聞き分けたり覚えたりすることができるでしょうか?

【出典】『認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方』著:山川淳司 椎名淳一 加藤史子

【書誌情報】
『認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方』
著:山川淳司 椎名淳一 加藤史子

認知症は、理解しにくい言動を引き起こす脳の病気です。家族が「どう言葉をかけたらいいんだろう」「どう接したらいいのかな」「とてもつらい」と感じることが多いでしょう。「認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方」では、介護現場の専門家が日々の接し方や対応のヒントを提供し、プロの視点と方法で、家庭での介護が少しでもラクになるように、ご本人とともにかけがえのない日々を過ごしてほしいという願いが込められています。「認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方」を活用して、実践してほしいと思います。今後のためにも読んでおきたいおすすめの一冊です。

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