認知症の人が何度も同じことを聞いてしまうのはなぜ?最近の記憶と時間の感覚が消え「今」がわからなくなる世界とは!?【認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方】

1:最近の記憶と時間の感覚が消えて「今」がわからなくなる世界

○エピソード

認知症のある母。何度もくりかえし「私は何をしたらいいの?」と同じことを聞いてきます。「ゆっくりしていてよ」と言ってもすぐに忘れ、5分くらいするとまた聞いてきます。同じことを延々聞かれるので、答えるのにイライラします。

【あるある行動】何度もくりかえし同じ話をする

本人は、最近のことは全てうろ覚えになってしまい、自分が直前まで何をしていたのかわからず、「今何時なのか?」「いつ起きたのか?」「いつご飯を食べたのか?」と、記憶とともに時間の感覚がなくなる不安な世界にいるようです。

認知症では、脳の「海馬」という「最近の記憶」が保有される部分が損傷している可能性が高いため、認知症のある人の多くが少し前の記憶がなくなり、うろ覚えになったり、「何かがあった」という実感のない状態になったりします。「少し前」が5分、30分、1~数日という人もいます。

また、時計が目の前にあっても、それに何の意味があるのかもよくわからず、「時間の見方がわからない」こともあるでしょう。

ついさっきの記憶があいまいで、さらに時計の見方がわからなければ、「今」がわからなくなり、少し先の未来の計画も立てられず、途方に暮れてしまいます。だからこそ、「私は何をしたらいい?」という言葉が出てきてしまうのでしょう。

この記憶や時間の感覚が薄れる状態は、認知症のある人の暮らし全般(つまり、この本でこらから述べるケース)に影響が出ます。

一方、「昔の記憶」は、認知症が軽度・中等度のうちは大脳の一番外側に蓄積し、比較的残っていることが多いようです。

○もしあなたがこの世界にいたら?

「明日11時半、友人Aと、○○で大切な話」と書いたメモ。しかし、なぜか30分ごとにメモは真っ白になってしまう……あなたはその都度友人Aに、「約束してたよね?」と尋ねたくならないでしょうか。

【出典】『認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方』著:山川淳司 椎名淳一 加藤史子

【書誌情報】
『認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方』
著:山川淳司 椎名淳一 加藤史子

認知症は、理解しにくい言動を引き起こす脳の病気です。家族が「どう言葉をかけたらいいんだろう」「どう接したらいいのかな」「とてもつらい」と感じることが多いでしょう。「認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方」では、介護現場の専門家が日々の接し方や対応のヒントを提供し、プロの視点と方法で、家庭での介護が少しでもラクになるように、ご本人とともにかけがえのない日々を過ごしてほしいという願いが込められています。「認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方」を活用して、実践してほしいと思います。今後のためにも読んでおきたいおすすめの一冊です。

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