「昨日まであんなに元気だったのに…」妊娠24週の朝、胎盤がはがれ大量出血。緊急帝王切開で、865gの赤ちゃんが誕生【脳性まひ・体験談】

生後1カ月の朋克くん。

廣瀬元紀さん(41歳)・聖子さん(40歳)には、2人の子どもがいます。第2子の朋克(ともかつ)くん(10歳)は、妊娠7カ月に入ってすぐ、急に出血。常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)と診断されて緊急帝王切開になり、865gで生まれました。そして生後間もなく医師から脳へのダメージを告げられました。元紀さん・聖子さんに、妊娠中の様子や朋克くんが生まれたときのことを聞きました。全3回インタビューの1回目です。

生後すぐに命にかかわる難病、そして脳性まひの診断が。車いす生活でママになりたいと願った元東京パラリポーター【体験談】

妊娠初期の妊婦健診で、ほんの少量の出血が

廣瀬さんファミリー。朋克くんと長女・まほちゃんは、2歳違い。

元紀さん・聖子さんはネットのコミュニティサイトで出会いました。

「妻は、当時ピアニストでしたが、コミュニティサイトを通して“面白い人だな~”と思って連絡を取り合っていました。たまたま近所でピアノコンサートがあったので、会いに行ったところ意気投合して、交際がスタートしました。結婚から約1年後に、長女・まほが生まれました」(元紀さん)

朋克くんが生まれたのは、長女・まほちゃんが2歳のときです。

「妊婦初期の妊婦健診で医師から『ほんの少し出血があるから、重いものを持ったりしないでくださいね』と言われました。そのため注意しながら生活をしていたのですが、上の子が2歳前だったので、横になったりして安静にしていることはなかなかできなかったです」(聖子さん)

妊娠24週、「ジュワ~」と経血が多めに出るような感じで目が覚める

生後2カ月の朋克くんと元紀さん。脳のダメージで、頭が大きくなっています。

聖子さんの容態が急変したのは、妊娠7カ月(妊娠24週)に入ってからです。

「その日は家族で、夫の実家に行って、祇園祭りに行く予定でした。しかし朝7時ごろ、月経のときに多めに経血が出るような『ジュワ~』というような感覚があって目が覚めました。おなかの痛みや張りは感じませんが、血が止まりません。急いでかかりつけの産院に電話をしたところ『すぐに来てください』と言われ、夫に車で送ってもらいました。夜用の大きな生理用ナプキンを2枚つけていたのですが、それでも間に合わないぐらいの出血量であせりました」(聖子さん)

聖子さんは、すぐにNICU(新生児集中治療室)のある総合病院に救急搬送されます。総合病院の医師は、当初、胎盤が通常より低い位置にある前置胎盤(ぜんちたいばん)を疑って様子を見ていたのですが、事態は急変します。

「僕は、長女・まほを実家に預けてから妻のもとに行きました。病院に到着して2時間ぐらいすると、医師や看護師さんの出入りが急に激しくなり、とっても緊迫した雰囲気になりました。その後、医師から常位胎盤早期剥離と告げられて、緊急帝王切開のための同意書にサインを求められました。医師からは『緊急を要します。時間との戦いです』とも言われ、何が何だがわからないままサインをした感じです」(元紀さん)

「私も医師から常位胎盤早期剥離と聞いたときは、ピンときませんでした。昨日までは、本当に元気だったので・・・。かかりつけの産婦人科の待合室に『常位胎盤早期剥離に注意しましょう』みたいなポスターが貼ってあって、それは見ていてなんとなくはわかっていたような気もしますが、まさか自分がなるとは思ってもいませんでした」(聖子さん)

常位胎盤早期剥離とは、子宮の正常な位置に付着している胎盤が妊娠中や分娩中など、赤ちゃんが生まれる前にはがれてしまう状態。大量出血を起こして、妊婦が亡くなってしまうこともあります。また胎盤がはがれて胎児に十分な酸素が届けられなくなると、胎児も脳性まひや亡くなるリスクがあります。

「妻の緊急帝王切開の手術中に、わけもわからずスマホで常位胎盤早期剥離のことを調べたら、母子ともに亡くなるリスクがあることを知ってがく然としました。昨日まではあんなに元気だったのに・・・。とにかく命は助けてほしい! と、祈るような気持ちでした」(元紀さん)

朋克くんは865gで誕生。すぐにNICUへ

聖子さんが手術室に入って2時間後、元紀さんは医師から『手術は成功しました』と告げられます。

「朋克は865gで生まれ、すぐにNICUに入院しました。
会いに行くと、僕の手のひらぐらいの大きさしかありません。小さい体に管がいっぱいついていて、長女・まほのときのように『生まれた~』と素直には喜べませんでした。あまりにも急なことで現実として受け止められていませんでした」(元紀さん)

「私が、NICUに入院している朋克に会いに行けたのは手術から2日後でした。大量出血で貧血がひどく、ベッドから起き上がれない状態だったんです。車いすに乗って会いに行きました。初めて見たときは、小さくていろいろな管がつながっていて痛々しかったです。2500gで生まれた長女・まほとは全然違う・・・と戸惑いました」(聖子さん)

生後間もなく、CT検査で脳に出血の跡が見つかる

入院中の朋克くんにミルクを与えるママ。

元紀さんと聖子さんは、生後3日目ごろに医師から「赤ちゃんは脳にダメージを負っている可能性がある」と告げられます。

「医師からは『CT検査で脳に出血の跡があり、脳にダメージを負っている可能性があります』と言われました。

ちょうど夫婦で、名前について話し合っていたころでした。そのためハンデやこれから起こるかもしれない困難を克服する強い子に育ってほしいという思いで、名前に『克』という漢字を入れたいと考えました。そして、たくさんの友に恵まれてほしい、ともに助け合って、ともに成長していきたいという願いを込めて『朋』という漢字を選び、朋克としました」(元紀さん)

朋克くんは、その後生後1カ月で水頭症と診断されます。水頭症とは、頭蓋内に過剰に髄液が溜まって脳が圧迫され、さまざまな症状が出る病気です。脳の成長のためには、早期の段階で手術が必要となります。

お話・写真提供/廣瀬元紀さん・聖子さん 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部

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常位胎盤早期剥離は、母体の高血圧、妊娠高血圧症候群、前期破水、喫煙などが関連すると考えられていますが、原因ははっきりわかっていません。100~200分娩に1例程度の頻度で起こり、死産となるような重症例は、500~750分娩に1例ほどと言われています。
インタビュー2回目は、朋克くんが受けた水頭症の手術と、脳性まひと診断されてからのことを紹介します。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年6月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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