生後間もなく脳の病気が判明。「この先、本当に歩いたり、話したりできないの?」障害があっても自分の意思で前に進む経験をさせたい【体験談】

生後2カ月の朋克くん。

廣瀬元紀さん(41歳)・聖子さん(40歳)の第2子の朋克くん(10歳)は、妊娠7カ月のときに緊急帝王切開で生まれました。出生体重は865gでした。緊急帝王切開になったのは、胎盤がはがれて大量の出血を起こす常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)のため。母体も胎児の命も危ぶまれる状態でした。
その後、朋克くんは脳の病気が見つかります。元紀さん・聖子さんに、朋克くんの水頭症の手術や就学のことなどを聞きました。
全3回インタビューの2回目です。

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生後1カ月で水頭症と診断。ひと目で頭が大きいことがわかる

NICUのベッドの横にはお守りが。

朋克くんがCT検査の結果、水頭症と診断されたのは生後1カ月のときです。水頭症とは、頭蓋内に過剰に髄液がたまって、脳を圧迫する病気です。

「朋克は生まれてすぐにNICU(新生児集中治療室)に入院しました。僕は毎日、会社帰りに必ず会いに行くと決めていました。当時はコロナ前でもあり面会は24時間できたので、残業でどんなに遅くなった日でも朋克に会いに行きました。毎日行くと決めたのは願掛けです。どうにかよくなってほしいという願いからです。

朋克は、生後1カ月で水頭症と診断されましたが、僕が見ても頭が大きいということがわかりました。
医師からは『水頭症の手術が必要ですが、まだ小さすぎて感染リスクなどがあります。しかし脳の成長を阻害するから、早めに手術はしたほうがいい。生後2カ月まで待つのがギリギリのライン』と言われました。脳を守るために必要な手術ですが、手術をすることによって命が失われては本末転倒です。担当医の先生と、毎週相談しながら、慎重にタイミングを考えていきました」(元紀さん)

生後2カ月でVPシャント術を。術後、小脳低形成が判明

手術前。頭の大きさは、ひと目でわかるぐらいに。

朋克くんは、生後2カ月でVPシャント術を受けることになりました。VPシャント術は、水頭症の治療では一般的なもので、頭蓋内に過剰にたまった髄液を脳室からおなか(腹腔内)に細いチューブを通して流すようにする手術です。

「手術の日は、病院の近くの公園で2歳のまほを遊ばせながら、手術が終わるのを待ちました。2時間ぐらいしたら、看護師さんから『無事手術が終わりました』と電話があったと記憶しています」(聖子さん)

VPシャント術は、成功しましたが、手術から1カ月後、初めて脳のMRI検査をしたところ小脳が小さい小脳低形成がわかりました。

「医師からは『同じような症例が少ないので、朋克くんがこの後どのようになるかはわかりません』と言われました。現実を突きつけられたようで言葉を失いました」(元紀さん)

「私は、現実として受け止められませんでした。この先、本当に歩けないの? 話したりできたいの? と、もんもんとしました。それまでまわりには障害をもつ人がいない環境で生活していました。障害がある人の暮らしが全然イメージできず、これからどんな生活になるのか不安ばかりでした」(聖子さん)

知的な遅れがあって発語は困難。でもiPadは器用に使える

2歳で寝返りができたときは、家族で大喜び!

朋克くんは、生後4カ月半で退院しました。

「退院後の経過は順調で、8カ月(修正月齢4カ月)で首がすわり、2歳で寝返りができるようになり、それから数カ月後にはずりばいで移動ができるようになりました。寝返りやずりばいができたときは、本当にうれしかったです。

でもバランスをとるのが難しく、10歳になった今は、あぐらの姿勢で手の支持を使って数十秒くらいは座れますが、立ち上がったり、歩くことはできません。

知的な遅れもあり、発語は困難ですが簡単な単語は理解できています。「りんごとバナナ、どっちがいい?」と聞くと、りんごを指さしたりします。
8歳を超えてから、iPadを器用に操作できるようになってきました。YouTubeで動画をよく見ているのですが、好きな動画を自分で探してきたり、自分で再生して、早送りもします。早送りのしかたは教えてないので驚きました」(聖子さん)

朋克くんは年中から近所の保育園に通っています。

「新しくできた園でしたが、園長先生がインクルーシブ教育に力を入れていて、玄関に500色の色鉛筆が飾られているんです。人間は1色じゃない。この園で自分の色を見つけてほしい!というメッセージだそうです。

小学校も近所の公立小学校に通っています。通常の学級です。入園や就学は、夫婦でとことん話し合い、たくさん悩みました。でも同年代のお友だちとたくさんかかわり、多くの経験をしてほしいと思いました。そうした集団での経験が、朋克の成長につながり、将来の選択肢が広がると思ったんです。

また保育園も小学校も、相談に行ったときWELCOMEという雰囲気で迎え入れてくれたんです。もし、受け入れにちゅうちょしている感じだったら、あきらめようとも思っていました。小学校の校長先生は『ともくんも一緒に勉強して遊ぼう!』と目を見て言ってくれて、本当にうれしかったです」(元紀さん)

元紀さんは、エンジニアです。朋克くんが抱える困難さや成長を、技術でサポートしたいと考えています。

「歩行のリハビリのモチベーションを上げるために、体重がかかると楽しい効果音が鳴ったり、光ったりするメロディ靴を作ったことがあります。音はゲームの効果音など、朋克が興味を示す音にしました。改良を重ねて、小さな液晶画面と連動していて、歩くと朋克が好きな映像が表示されるしかけもしました。すると、歩行器を使って自分から歩くようになったんです。好奇心を刺激するだけで、子どもってこんなに変わるんだ! と思いました。

障害がある子も、好奇心を刺激してあげると伸びるんです! 朋克には、好奇心をもって、自分の意思で前に進む経験をたくさんしてほしいと思います」(元紀さん)

長女のことも全力で応援! やりたいことを後押し

福祉展では、まほちゃんが作った缶バッジを販売することも。

朋克くんは小学1年生のとき、股関節の手術をしています。

「立つことができないので、脱臼しやすいようです。また保育園の年中のときは、成長に伴いVPシャント術で通したチューブを延ばすための手術を行いました。
そうした入院に付き添ったり、就学前までは週2~3回の療育のほか、毎週リハビリに連れて行くなど、忙しい毎日でした。

でも、うちには2歳上のお姉ちゃん・まほもいます。きょうだい児の問題もありますが、うちは夫婦で“まほは、まほだから!”“まほのしたいことは、できるだけさせてあげよう!”と話し合っています」(聖子さん)

「まほは、イラストレーターをめざして、iPadで毎日夢中でイラストを描いています。
先日、息子のために簡単なジェスチャー操作で遊べる電動ガチャ『魔法のバリフリガチャ』を製作したのですが、『ぜひ、いろんな障害を持った子どもたちにも体験してほしい』と思い、このガチャ装置を福祉展に出品することにしました。そこで、娘にイラストを描いてもらい、それを缶バッチにしてガチャ景品として販売することにしました。まほにもイベント本番に直接接客してもらいました。『かわいい』と言う声を直接聞けて、本人もうれしくなり、さらにイラストを描くモチベーションが上がったようです。息子だけでなく、娘の小さな成功体験、やりたいことへの後押しも大事だと思っています」(元紀さん)

お話・写真提供/廣瀬元紀さん・聖子さん 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部

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元紀さん・聖子さんは、朋克くんの成長の後押しのしかたをずっと考えてきました。カギとなるのは、好奇心を高めることです。「好奇心をもって自分の意思で動くと目の輝き、表情が全然違んです」と言います。
インタビューの3回目は、エンジニアの元紀さんが作った支援機器と開発に込める思いについて紹介します。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

参考/「魔法のバリフリガチャ」

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年6月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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